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【泥縄】中国政府の物価対策=社会主義的「伝家の宝刀」で混乱必至

2010年12月02日

本ブログでもたびたびお伝えしているように、今や物価対策が最大の国内的課題となりつつある中国。中央政府、地方政府はさまざまな対策を発表していますが、その根本となるのが国家発展改革委員会が制定した「国務院物価安定のための16カ条」(通称は「国16条」)この通知にのっとって各自治体で「湖南省19カ条」とか細則を定めているよう。


Cotton Bolls / faungg

*綿花。今夏、綿花価格の高騰も大きなトピックとなった。中国の主力輸出産業である紡績業にとっては原料コスト高は大きな打撃になった。


その内容は以下の通り。どの項目もまじめに解説すると、記事1本分の分量になるネタばかり。興味ない人は飛ばしてください。後で簡単に解説します。
1:農業生産の発展を推進する

2:農作物・副産物の供給を安定させる
国家備蓄の放出、卸市場とコールドチェーンの整備など。

3:農作物・副産物の流通コストを引き下げる
生鮮食品輸送車への道路通行料免除など。

4:化学肥料の生産・供給を保証
化学肥料メーカーに対する電気、天然ガス、鉄道輸送の価格優遇など。

5:石炭、電気、石油、天然ガスの輸送業務の協調

6:放出価格への臨時補助金
低所得者、貧困地域、貧困学生、学生食堂への補助金支給。

7:社会保障基準と物価上昇の連動システム
物価上昇に合わせて、年金や失業保険の増額を。

8:政府による各種費用徴収の合理化
不要・不合理な費用徴収撤廃

9:積極的かつ穏当に価格改革を推進
「関係部局と地方は政府管理価格の調整タイミング、リズム、力の入れようをよく把握すること。すでに決定された価格調整プランについても、社会の受け入れ能力を十分に考慮し、関連対策を行うこと、価格改定は慎重にするべき。必要ならば重要な生活必需品と生活リソースの実効価格に臨時の干渉措置を行うべき。

10:農作物経営、加工企業の秩序を規範化
農作物の購入秩序を取り締まる。穀物買い入れ資格調査の徹底。各経営者ごとの最大備蓄量規定を制定。穀物買収資金の取り締まり強化。無認可業者による綿花の買い入れ、加工の取り締まり。トウモロコシ加工業者の整理及び加工業者設立の取り締まり。

11:農作物先物取引及び電子取引市場の取り締まり強化。
不正取引摘発と過度な過度な投機の抑制。

12:価格監視法規の健全化
「政府制定価格コスト監視審査条例」の制定を急ぐ。また「価格違法行為行政処罰規定」を改訂し、値上げ情報の捏造、伝播に対する処罰を強化する。

13:価格監督検査の強化と反価格独占法の執行
悪意ある買い占め、価格つり上げ、形態を変えた値上げ、カルテル・トラストによる値上げなどの違法行為を取り締まる。

14:価格情報発布制度の整備
市場価格をリアルタイムに公開し、価格変動の傾向を客観的に文政出来るようにする。価格政策を市民に啓蒙し、偽りの報道を排除。社会の予期の安定化に努める。

15:「穀物」省長責任制と「野菜」市長責任制度の着実な実行

16:市場価格調整省庁間連合会議制度の設立

「国16条」がカバーする範囲は広範ですが、表向きのポイントは

・貧しい人への補助金支給
・政府備蓄品の放出
・(ガソリン、電気、ガスなど)政府統制価格の値上げ禁止(または慎重にせよ)
・政府による各種名目雑費の廃止・減額呼びかけ
・価格つり上げ行為の禁止

ってなところでしょうか。ところが第9条にはこっそり「必要ならば重要な生活必需品と生活リソースの実効価格に臨時の干渉措置を行うべき」との一文も。「最終手段として、政府で価格決めちゃおうぜ~」ということですが、「第1条:農業生産の促進」とかいつになったら効果がでるかわからない手段は意味がないので、早晩この伝家の宝刀が登場することになるでしょう。いや、実際にはもう抜かれているかな?12月2日付西安晩報によると、来年3月の「両会」(全国人民代表大会、全国政治協商会議。日本の国会に相当)までは、家庭向け食用油価格の上昇を禁止すると、中央政府がメーカーに指示したのだとか。

2007年の物価高の時は「小売店の値上げには政府の認可が必要」「前回の値上げから2週間以内の値上げ禁止」といった社会主義パワー全開のお触れが出ていましたが、今回も似たような形になるんじゃないかな。となると、予想されるのは次のような事態。

ケースA:形態を変えた値上げ
政府:金ブリ牛乳の値段は100円なり。びた一文値上げは許さん。

メーカー:(生産コストが1本110円かかるのに、100円じゃ売ってられないッス……そうだ!)カルシウム配合の「金ブリ牛乳DX」新発売!カルシウム2倍タンパク質4倍メラミン8倍なのに、値段はたったの150円!


ケースB:品物不足
政府:ガソリンの値段はリッター100円なり。びた一文値上げは許さん。

メーカー:(それって加工前の原油価格のほうが高くね?売れば売るだけ損だよ……)えー、品切れッス!みんなごめん!

消費者:おいおい、ガソリンないと工場も車も全部止まっちゃうんだけど……。いくらでもいいから売ってくれ!

闇の紳士:ふふふ。呼びましたか、私のことを。本当はいけないことなんですが、仲のいいあなたにだけは融通できるかもしれません。ただ、ちょっとだけお金がかかりますがね。


ケースC:転売
社長:もうだめだ……。うちが確保できた綿花はたったの1トンだけ。全然足りない。工場の操業はできないよ、これじゃ。

軍師:勝利を呼び込む逆転の発想!原料が足りなければ、操業しなければいいのです!

社長:誰だ、あんた?!工場潰れちゃうじゃん!

軍師:原料の綿花を欲しがっている輩はごまんといますよ。そいつらに高値で売りつけましょう。下手に製品作るよりもよっぽど儲かりますわい!ついでに「物価高で暮らせない~、給料あげてプリーズ!」とかあほなことを抜かしている労働者を全員クビにすれば、給料も払わなくていいではないですか。

社長:な、なるほど(目からうろこ)……逆転の発想キタコレー!
今後はこの手のニュースがあふれること間違いなしじゃないかと。ちなみに上にあげた架空の事例ですが、全て今までにあったこと。結局、同じことが繰り返されるばかりで、あんまり変化がないんじゃないかなー。改革開放から30年を経て、ずいぶんと賢くスマートになった中国当局ですが、ひとたび追い詰められると社会主義的発想がもたげてくるのかもしれません。

政府が価格を決める統制経済は弊害が大きいのですが、最大の問題はちょっと知識がある人はこうしたカラクリをよく理解しており、政府の施策の裏をかいて一儲けしようと考えることではないでしょうか。なにか新技があるのかと楽しみになる一方で、金利引き上げと人民元切り上げという根本的な物価対策に中国政府が今度こそ踏み切るのかにも注目したいと思います。いや、やるなら2年前のほうが条件は良かった気もするのですが……。

それにしても、「世界金融危機から最速で脱出した国」中国の民が物価高で苦しみ、「終わらない不景気」を生きる我ら日本の民が「円高還元セール連発」の恩恵を受けているって、なんとも不思議な感じであります。

(執筆者:Chinanews) Twitterアカウントはこちら
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<過去記事>
中国の政策課題はインフレ対策に=CPIは過去23か月で最高を記録―米紙

物価は上がるけどインフレじゃない?!おなじみの言い訳フレーズが帰ってきた!―中国

胡錦濤最後の戦い?!尖閣問題よりはるかにヤヴァイ敵、その名は「インフレ」

「中央銀行自らが中国バブルを認めた!」中国ネット民を騒がす43兆元騒動を考える

<日中GDP逆転>中国成功の秘密と未来の不安―謝国忠論文(1)

 コメント一覧 (4)

    • 1. まる
    • 2010年12月03日 10:27
    • 社会の問題を正そうと御触れを出すと、反動で別の所から似たような問題が発生するってことですか?
      無限ループのようで恐いですね
    • 2. Chinanews
    • 2010年12月04日 14:48
    • >まるさん
      どっか一部だけに着目すると思わぬ副作用がありますよね。難しい~
    • 3.
    • 2010年12月04日 21:24
    • 為替を固定にすればそれ相応の反動が来るって事だよね。
      ドルペッグが崩壊する日も近いって事かねぇ。
    • 4. Chinanews
    • 2010年12月04日 23:57
    • >名無しさん 「為替を固定~」
      私は経済素人なのでこの手の話をするのはおこがましいのですが、固定レートの問題は大きいということかと。
      とはいえ、リーマンショック後の通貨切り下げ競争の世界では、通貨切り上げというのは勇気がいる選択肢ですよね……。

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