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【中国本土ミステリの世界】中国は推理小説不毛の地じゃない!新たな才能たちの胎動を見よ

2010年12月19日

ブログ「トリフィドの日が来ても二人だけは読み抜く」の阿井幸作さんに、中国本土の推理小説界の現状を報告していただく連載を引き受けていただきました。今回が第1回となります。まだまだマイナーな世界ながら、新たな芽が着実に育ち始めているとのこと。まったく知らない分野なので、まさに目からうろこのレポートでした。それでは阿井さんの記事をどうぞ。(「Kinbricks Now」管理人・Chinanews)

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いろいろ不便が付きものの中国での生活では趣味の読書すら満足にできない。もし中国ミステリを読んでみたいという人がいても、残念ながら難しいと言うしかない。中国本土のミステリは、特に探偵とトリックが存在するいわゆる推理小説は、日本や台湾と比べてまだまだ未成熟だ。

まず書店に行くと推理小説のコーナーが見つからない。書店では推理小説はホラーやサスペンスなどと一緒のコーナーにまとめられ、広義の意味での『ミステリ』として『懸疑小説』と分類されている。

書店で売れ筋の推理小説は、中国人ベストセラー作家に加え、外国人作家ではコナンドイルやアガサクリスティ、エラリィークイーンなどの古典と日本の東野圭吾や京極夏彦、そして島田荘司といった新本格作家の作品が新旧混然と名を連ねる。

中国の推理小説系ベストセラー作家としては鬼馬星や天下覇唱が挙げられるが、いわゆる本格推理小説とは一線を画する。そして残念なことに中国本土作家の本格推理小説を書店で買うことは非常に難しい。


となると、中国本土には本格推理小説が存在しないと思われる方もいるかもしれない。実際、2009年にアジアを対象に開催された中国語小説を対象とした(追記訂正:同賞の応募資格は『応募者の国籍や居住地は問わないが、中国語での創作であることが求められる』であり、実際にイタリアやカナダからもエントリーがあったとのこと。おわびし訂正いたします)島田荘司推理小説賞も本土の作家は台湾勢に及ばず、最終候補に選ばれた3作はどれも台湾人作家の作品だった。

だが知られていないだけで、中国本土は決して推理小説不毛の地ではない。いま本土に推理小説のブームを起こそうと息巻いている雑誌がある。それが『歳月・推理』という月刊ミステリマガジンだ。

掲載作品がオリジナルのミステリであることを何より重要視している同誌は150ページほどの厚さに4、5人の作家の短編と1、2人の海外作家の過去作品が詰め込まれている。トリックあり、謎解きあり、そして何より個性のある推理小説が楽しめる。

しかしこの『歳月・推理』の知名度は低く、雑誌としての立場もまだ弱い。同誌が買えるのはごく一部のキオスクだけ。買い逃すと二度と手に入らない。また同誌を発行する歳月文学雑誌社は、連載作家の単行本を数多く出版しているが、やはり一般書店には並ばずキオスクに置かれている。買い逃さないよう、編集部から雑誌や本を郵送してもらっている読者も少なくないようだ。

書店という表舞台にこそ立っていないものの、『歳月・推理』の活動は実を結びつつあり、徐々にではあるが中国本土からも人気作家が生まれている。その代表例が日本で翻訳本『蝶の夢』が出版された水天一色だ。加えて、『歳月・推理』とその姉妹誌『推理世界』で50近い作品を発表している杜撰、島田荘司の御手洗潔シリーズに多大な影響を受けて御手洗濁シリーズという長編を書き続ける御手洗熊猫も注目株に挙げられる。

蝶の夢 乱神館記 アジア本格リーグ4蝶の夢 乱神館記 アジア本格リーグ4
著者:水天 一色
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中国本土で推理小説家が活躍する舞台はまだ整っておらず、推理小説に対する認識も薄い。しかし、日本や台湾に負けじと若い作家たちがオリジナルの作品を次々に発表する努力が、徒労に終わっては欲しくない。現状を打破するためには、作家が良作を書くだけではなく、出版社の積極的な営業による販路拡大が求められている。


(執筆者・阿井幸作)

運営ブログ「トリフィドの日が来ても二人だけは読み抜く」

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