• お問い合わせ
  • RSSを購読
  • TwitterでFollow

揺れる遺伝子組み換え米問題=当局内部でも対立―中国農業コラム

2010年12月21日

「遺伝子組み換えコメの禁止は停止!?」:福建省遺伝子組み換えどたばた騒動記から考えたこと


お米 / hibisaisai1


相変わらず中国でも議論の多い遺伝子組み換え農産品。ネット上でも常に話題は絶えないようですね。今回は南方週末がそんな中で「どたばた」が福建省でも起きているとの記事。推察(邪推?)の想像力をたくましくすると色々ありそうな・・・。地方政府の「遺伝子組み換え米禁止」がすぐに「停止」されたという、そんな記事のまずはご紹介から(以下は南方週末12月16日号記事の抄訳です)。
地方政府で出された初めての「遺伝子組み換え米の販売禁止」行政規定が、僅か十数日で取り消された。これは12月3日の「福建晩報」が当初伝えたもので、福建省糧食局を中心に、食品安全委員会弁公室、農業庁、工商行政管理局など4部門が連名で出した「遺伝し組み換え米の管理強化に関する通知」が遺伝子組み換え米の栽培、加工、販売を禁止したとのこと。この異例のはっきりした行政規定にメディア、専門家、ネット上でも議論が沸き起こった。ある人は福建省政府リーダーに敬意を表し「(訳注:アヘン戦争前にアヘン禁止に尽力した)林則徐のアヘン焼却にも劣らない(立派な)行為」とまで褒め倒した。
*当記事はブログ「北京で考えたこと」の許可を得て転載したものです。

ところが、数日後に福建省糧食局に連絡を取ると、その文章は「秘密文章に加えられた」といい、公開を認めようとしない。電話インタビューでは「メディアが過剰に注目したため、同政策は「取り消された」という。福州晩報(訳注:上記福建晩報とどちらかが間違えか?)の記者も「もう政府ウェブサイトにも載っていない、どうしてかわからない」。その記者は12月初旬に取材した際に、糧食局は「何の心配もしていない様子だった。局は一つの調査報告を出し、通知を作成する予定だ」と語ったと言う。南方週末が政府情報公開の手続きから把握するには、糧食局はこの文書の公開申請を行なったが、まだ正式な返事は無いようだ。

福建省が6月に遺伝子組み換え米について調査報告をしたのは、今年4月に出されたグリーンピースの報告書がきっかけ。その中で福建省は、他の省と並んで、遺伝子組み換え米が違法で売買されていると指摘されていたのだ。福建省独自の調査報告後、7月には対策案が各部門の決裁プロセスに入ったが、結局同通知が了承されたのが11月26日、5ヶ月もかかったのはどうしてか?またそれ程時間をかけた通知があっという間に取り消されてしまったのは何故か?

遺伝子組み換え米の管理所掌に鑑みて言えば、研究、生産などの「上流」を管理している農業部門が、流通を管理している糧食部門(訳注:「糧食」は食糧の意、ここでは食糧作物流通管理部門を指している)よりも発言権がある。この文章が起草されている間にも、福建省農業庁は遺伝子組み換え関連業務で忙殺されていたが、大筋の方向性は同通知と一致していた。農業庁では組み換え作物などの安全管理について、この8月にもトレーニングなどを行なってきたが、「早くからやりたかったところに、ちょうど農業部のプロジェクトが来てやれることになった、部も非常に重視している」と福建省農業庁科学教育処の行政官。同氏によれば、農業庁の主要な役割は「上流管理」(原文:「源头管理」)、研究開発、種子審査の際の遺伝子組み換え(か否かの)検査、種子企業へのトレーニング実施と監督管理、及び農産品加工企業の遺伝子組み換え生産許可証管理制度などである。

ただ、仕事は管理ばかりではなく遺伝子組み換え農産品の「宣伝、普及」も役割の一つ。9月、10月にはそのような宣伝活動も行なった。その宣伝冊子には;遺伝子組み換えは未来が明るく、技術の優位も明らか。既に大規模に応用されており、「人が食べても大丈夫」、また国家安全審査をクリアした遺伝子組み換え米、トウモロコシは、普通の作物と「同じように安全」・・・などと、ポジティブな側面が語られている。

糧食局が作成した今回の通知はそれら冊子と口調がはっきり異なる。通知には「今のところ、我が国では遺伝子組み換え水稲を鑑定する組織は無く、遺伝子組み換え水稲を商業化生産する認可は下りていない。勝手に栽培、加工、販売をすることは全て違法行為である」とあった。

12月8日の農業部記者会見では、遺伝子組み換え技術研究・応用に関して、同部スポークスマンは「それが大勢の流れ」で重要な戦略的措置の一つであること、また中国の遺伝子組み換え農産品管理は世界でも「非常に厳格なもの」だと述べた。昨年9月には「農業遺伝子組み換え生物安全管理条例」を公布、また「農業遺伝子組み換え生物安全管理関係部局連席会議制度」も設立した。2010年の中央一号文件(訳注:ここ7年連続で国務院の政策文書第一号が毎年三農問題に関してであることから、最近は「中央一号文件」が三農政策文書の代名詞となっている)でも遺伝子組み換え農産品の推進は謳われており、米を含めた新しい品種の産業化への決意が表れている。

1996年には既にモンサント社が中国国内での遺伝子組み換え綿花の販売に関する提案を中国国務院に提出、国務院は中国東北地方の研究機関に中国独自の遺伝子組み換え綿花を研究するよう求めた。これにより中国の綿花は「守られた」が、大豆に関しては国外の遺伝子組み換え製品に国内大豆が「ボロ負け」して、今では輸出国から輸入国にまでなってしまった。「欧米では過去どうして何年も安全を理由に遺伝子組み換え大豆の生産が禁止されていなかったのか?そして、研究で中国に分のある水稲分野がどうして「ハイリスク」なのか?」と同分野の研究者は語る。

業界で有名な話では、1990年代中ごろにワシントン大学などの研究機関が中国農業科学院を訪れ、好条件で中国側に共同研究話を持ちかけた。唯一の外国側の条件は「灿稻63」=袁隆平(訳注:中国のハイブリッド米の父と呼ばれる有名な農学者)が開発した、現在全国で最も普及している米の品種を研究に入れることであった。これを中国側は拒否、その後中国より水稲研究が進んでいない海外勢が中国国内で先んじるようになってくる。「今は中国の水稲研究はまだ世界トップレベル、ただここで立ち止まっていてはまた誰かの市場になってしまいかねない。やるかやらないかの問題ではない、自分がやらなければ他人がやってしまう、ということだ」と同研究者。

グリーンピース担当者である方立峰氏も、中国政府が研究をするのに反対しているわけではない、ただ人体への影響に関する議論の多いことなので、研究や政府の認証情報を公開し、大規模な商業化の前には社会の各方面の意見に耳を傾けて欲しいということ、としている。方氏は福建省が遺伝子組み換え米に取ろうとした、部局横断的な政策を支持している。ただ実際には、主要責任各部門は自らの役割をき ちんと把握していない。福建省食品及び薬品安全監督管理局は今年初め職務が改正され、薬品、保健製品、化粧品や医療器械などの監督管理に特化していたが、昨年までは他の部門をコーディネートして「食品安全重大事故」の対応に当たるとされていた。遺伝子組み換え食品管理の具体的な事情に関して、同局の女性職員はほとんど何も知らなかった。逆に質問をされ「私も調べているのだけれど、あなたは何かわかった?」と逆取材される程であった。

【考えたこと】
以上、抄訳と言いながらほとんど全訳になってしまった文章にお付き合い頂きましてありがとうございました。幾つか論点があるかと思います。遺伝子組み換え自体の是非は置いておいて、ここから見られる論点としては・・・

①政府の遺伝子組み換えへの微妙な立場:押すか引くか・・・

遺伝子組み換え農産品に議論があるのは中国に限りませんが、中国では上記政府政策(一号文件)にもありますように、政府が公式には遺伝子組み換えには前向きです。一方で、「実際は既に広まっちゃっているよ・・・」という噂(これもかなり有力)はとりあえず置いておくと、政府公式見解では未だ農産品、特に基本食糧作物では商業栽培はされていないということになっています。ただ、昨年には水稲の組み換え品種が安全認定リストに載ったというのが話題になりました(こちらのブログ記事も参照)。さあ本格的な商業化かと沸き立ちましたが、その後農業部幹部は「リストに載ったのと、商業生産とはわけが違う。まだまだ時間がかかること」と即座の幅広い応用を否定しています。

メディアは全般的に人体への影響不安を払しょくできないという立場に同情的で、多くの世論もまだ食糧農産品への応用には不安を示す声が良く示されます。つまり、「前向きなんだが、世論もあり安易には踏み切れない」という、(ネットも含めた)世論の声を無視することもできない今の中国政府の政策の進め方を表しているとも考えられます。何でもかんでも強権的と思われがちですが、領土問題、民族問題など「核心的」と言いましょうか、そういう話題にはかなりまだ強権的な政策をごり押しすることを厭わない一方、経済政策などではかなり世論や他国の政策などを注視しながら実施をしているという、中国政府の違った表情を見せているところです。

②部局間の対立:縦割りの高い壁・・・

生産をつかさどる部門としては、生産力向上を相当程度期待できる遺伝子組み換え技術は待望の技術であり、またこれまで相当に投資を積み重ねてきたものでもあります。毎年増産増産の圧力を受けている農業部門においては、のどから手が出ると言っても過言ではないでしょう。一方、流通のサイドからその安全性をつかさどる部門では「問題が起きたらどうする!」という立場になるのは当然。この温度差が今回の騒動を巻き起こしたのではないかというのは、今回南方週末の記事の主な分析です。

部局間の対立は、後半にもある管理監督における分業体制、協調連携の欠如にもつながっています。食品安全に関しては食品安全委員会などもでき(こちら参照)て、この遺伝子組み換え農産品に関しても上述のように「農業遺伝子組み換え生物安全管理関係部局連席会議制度」という長ったらしい名前の制度を作り、協調体制も制度上はできてきているのですが、まだ機能してはいないのが現状のよう。というか制度なり政策なり作るのは非常に早いが実施はマダマダという中国の事情の一例の一つと言えるかもしれません。

ともかく今回北京で働いていてめちゃめちゃ強く感じますが、中国の官僚機構の縦割りはめちゃすごく、また中国人の情報共有頻度・程度は日本人感覚から言うと本当に低いので、こういう連携関係云々というのは、その制度や会議の数に反比例するようにできていないのだろうなあとの想像に難くありません

③中央の動きと地方の動き:いつまでも続くこの微妙なバランス関係・・・

中央の明確な遺伝子組み換えへの前向きな姿勢は知っていただろう中で、地方省政府がこのように「否定的」とも思える政策を堂々と出した、けどすぐ引っ込めてしまったというのは面白い現象だと感じます。グリーンピースのようなNGOが出す調査がきっかけとして省政府を動かしたというのは南方週末記事のストーリーであるし、それが事実かどうかははっきりとはわかりません。ですが、そのようなレポートが世論の動きにタッチすると、地方政府担当部局を動かし、中央政府とは独自の路線を張るような措置をとることもできると言うこのような報道は、地方政府の自律性の問題として興味深いです。

中央・地方の権力バランスは中国の長い歴史の中での永遠の課題ですが、福建省のような経済力のある地方省は、本当に一つの国のような存在感と振る舞いです(っていうか、本当に「国」ですよねぇ・・・)。今回はどこで横やりが入っての政策変更かはわかりませんが、省政府が中央政府の様子を見ないでやっているとは思えず、知っていてあえてやってやったという意味があるのかもしれません。何か省政府高官の意見具申とメッセージだったのかもしれません。まだそこまでできていませんが、福建省リーダーの中に特別な誰か、或いは特別な考え方を持った誰かがいたりするのか・・・と想像するのもなかなかに楽しいかと思います。

*記事についての情報や間違いなど教えて頂けると大変助かります!コメント欄か、メール(kinbricksnow●gmail.com、●を@に変えてください)でお願いします。

*当記事はブログ「北京で考えたこと」の許可を得て転載したものです。


それでも遺伝子組み換え食品を食べますか?
アンドリュー・キンブレル
筑摩書房
売り上げランキング: 294121




<過去記事>
【中国農業コラム】「中国人は恨み深い民族だ」=ベトナム人が語る中国人像

白米食うなんて生意気だ!新華社コラムは年よりのたわ言か、それとも食糧危機対策か?

鋭いロジックに感嘆、農水省の悪辣さに怒り=『日本は世界5位の農業大国』を読んだよ

「小日本」より背が低い中国人=「隠れた飢餓」が子どもたちをむしばむ―中国

韓国「キムチ危機」に思う=中国の食料安全保障

コメント欄を開く

ページのトップへ