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数字合わせの食料安全保障=内情は深刻な状態に―中国農業コラム

2011年01月07日

質より量!?中国18億ムー耕地を守る「耕地取引」がもたらすものは?


南粤之湛江新农村 / llee_wu


中国において食糧生産は非常に大事とされていて、そのために耕地面積の18億ムー(=約1.2億ヘクタール)堅持は国家目標とされてきております。しかし、その数は達成されているとしても「その中身はどうよ?」というのが1月6日付南方日報紙の記事。数合わせのゲームの中で、実際の食糧生産に結び付く耕地がきちんと維持されているのか、この「耕地取引」とも言うべき実態について、まずは記事の抄訳・要約をご覧ください。
「占补平衡」(耕地の占有はその補填を持ってバランスをとるという意)政策は1ムーの耕地を潰したら、その分1ムーの耕地を新たに造成しなければならないということであるが、これが中国の耕地確保に大きな脅威となっている(過去記事「中国7億人の農民が怯える「新農村建設」=中国各地で農民暴動が頻発する背景とは」参照)

国土部門(訳注:土地使用に関しての管轄機関である国土資源部系統の意)関係者によると、2002年4月に浙江省では「山海協作工程」というのが行われ、杭州や寧波などの経済が発展した地域が耕地増加ノルマを達成するため、発展の遅れた地域のノルマを買うような形で資金を流し、都市部での建設用地を確保するというものであった。このような試みは当時浙江省で多く行われていた。その中で、元々農業に向いた良い土地であった地域が都市建設に用いられ、アルカリ成分の多い土壌で何年も土壌改良しないといけないような土地が「農地」として新たに認定されていった。

公開資料によると、1998年時の全国耕地面積は19.45億ムー、7年後には18.31億ムーに減少し、非農業用途がやり玉に挙げられた。北京師範大学環境学院の趙教授の調査によれば、1997年から2010年までの農業以外の農地占有は2746.5万ムー、海南省の半分くらいの広さにも及ぶと言う。
*当記事はブログ「北京で考えたこと」の許可を得て転載したものです。

2006年9月に行われた国務院常務会議で耕地面積の目標を2010年まで17億ムーとする案があがってくると、温家宝総理はそれをみて「17といったら16になってしまう。絶対18は守るんだ、しかも2020年まで!」と語ったと、中国地質大学の呉教授は回想する。

これで、18億ムーは疑問をはさみえないボトムラインとなった。2009年4月に「ハイブリッド米の父」袁隆平(訳注:中国で超著名な農学者)が「都市化が進展すれば耕地確保は難しい。アメリカが測ったところによれば、もう既に18億ムーには3000万ムーほど足りないらしいじゃないか(!?)」と語ったところ、国土資源部の官僚は即座に「紅線」(訳注:18億ムーを、絶対死守ラインとしてこう呼ぶ)は大丈夫と反論した。

ただ、そうは言っても「最も悩ましいのは、耕地を守りたいのは中央政府であって、実はそれを望んでいないのは他ならぬ農民」と趙教授。国土資源部関係者は「農民が今所有する耕地は本当に可哀想なほど小さく、生活を何とか維持するには良いが、胸を張って尊厳ある生活を維持するのは不可能。失礼な言い方をすれば、現在の農地はぼろぼろの「棉袄」(訳注:綿入れの上着)、脱ぐと寒いが着れば恥かしい。何が保障機能(訳注:ここでは社会保障的な機能という意と思われる)だか、難しいよ。」

「占好补差,占多补少」良い土地を占有(=農地を潰す)して、悪い土地を補填する、多く占有して少なく補填する。例えば北京のある機関が海淀区(訳注:北京市街地北西部、大学・研究機関やIT企業など多し)の土地を占有した時、結局その後補填したのは延慶(訳注:北京市郊外北西部)の山奥の土地。当時、地元の担当官は生産量ではバランスが取れると主張、でも「海淀では2期作物が作れるだろうに、延慶では1期、それでどうやってバランスを?」との質問も。

更に規模の大きい国家プロジェクトではどうなるのか?それもそこまできちんとはやれていないだろう。ただ、国土資源部幹部にインタビューすると「国家プロジェクトこそ率先してきちんと耕地を補填するべきだろう!そうでなかったらそれこそ「上梁不正下梁歪」(訳注:上がしっかりしないと下も結局ダメになるの意)じゃないか!」と怒りのコメント。ただ、一方で国家重要プロジェクト(南水北調、北京・上海高速鉄道など)は、北京、天津、上海といった土地資源の不足する地域にも関係するため、基本である「省内でバランスと取る」原則から、例外的に国家レベルでバランスをとるやり方も議論されているという。

もう一つ悩ましいのは、全てを国土資源部門が行っていて、土地の質が確保されているのか、「プレーヤーと審判と両方やっているのでは?」という疑問である。これに関しては、農業部に土地の質に関して審査する機能を持たせるべきではと提案する学者もいる。他方、国土資源部系統も現在「全国耕地質量等級調査与評定制度」を確定しており、農地の質を15段階でランク付けし、質の悪い土地に関してはノルマとしては割り引いて考えるなどとしている。また、「基本農田保護」を徹底し、GPSなどできちんと場所を特定した上で、18億ムーの8割程度を「永久基本農田」とすることが望まれる、と北京師範大学の趙教授。「昔、道路を作る際に昔からの古木や文化財があったら、道を迂回して作ったじゃないか。どうして基本農田は迂回できないんだ?」と。

【考えたこと】
確かに統計だけ見ていると守られてきているように見える農地の規模。ただ、これが「質より量」というか数合わせのゲームになっていませんか、というこの記事の含意。この農地転用と18億ムーを守るための土地ノルマのやり取りの問題では、以前のブログでもそのプロセスの中で、半ば追い出されるように農地を手放させられる農民もいるということを取り上げましたが、この南方週末の記事は実際にこれらが農業生産という最終目標につながるのであろうかということを考えさせられます。

実際にただ土地だけ「農地」と呼んでいても決して農産物生産にはつながりません。そこには人もいるし、投入も必要だし、その前提としてそれなりのアウトプットを期待させる農地自身のポテンシャルも無ければ、誰も手を着けはしないでしょう。経済発展地域と後進地域が資金融通によってノルマを達成していく姿はまるで「排出権取引」のようにも思え、タイトルに「耕地取引」なんて書きましたが、排出権取引がCO2換算という比較可能な客観的な尺度で成り立っているのに対して、同じように「客観的」にも一瞬思える面積の同等交換というのが、農業では簡単には成り立たないことがネックです。

上述の中にもありました「農民自身が農地を死守したいと思っていない」、これに関しては農業に関する幾つかの記事をこのブログでも紹介しました(怠け農業の記事などご参照ください)。最近は実質所得補償補助金化しているような、各種の補助金もある農業ですが、やはり担い手の問題はここでも大きいです。

数字だけを見ていても中国農業・農村の姿は見えなそうですし、またその数字の見方も、幅広く農村を見ていれば違った見え方をしそうです。KY(空気しか読まない)ではなくて、きちんとSY(数字を読む)と同時にGM(現場を見る、by 藻谷浩介氏)で行きたいですね(今読んでいる同氏著「デフレの正体」より)


*記事についての情報や間違いなど教えて頂けると大変助かります!コメント欄か、メール(kinbricksnow●gmail.com、●を@に変えてください)でお願いします。

*当記事はブログ「北京で考えたこと」の許可を得て転載したものです。





<過去記事>
中国7億人の農民が怯える「新農村建設」=中国各地で農民暴動が頻発する背景とは―中国

「儲かる農業」でネオンきらめく大都会に=「農業都市」寿光を見た―中国農業コラム

【中国農業コラム】来年の農業政策の行方は?「中央経済工作会議」を読む


三度の飯より米が好き?!政府が「米を食べ過ぎるな」と呼びかけるちょっと不思議なお国柄―インドネシア情報


「農作業?だるいッス」やる気ゼロ農民急増中?!恐怖の怠け者農法―中国農業コラム

 コメント一覧 (2)

    • 1. 青青
    • 2011年01月07日 22:14
    • 「怠け農業の記事」の部分のリンクが間違っていますよ~。
      正: http://kinbricksnow.com/archives/51617425.html
    • 2. Chinanews
    • 2011年01月07日 22:53
    • ご指摘どうもです!修正しました!

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