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「時速世界一やめます」スタートから4年、転機を迎えた中国高速鉄道

2011年04月16日

誕生からわずか4年、次々と新路線を完成させ、「営業時速世界一」の称号を獲得した中国高速鉄道。それがたった1人の人間が権力の座を追われたことで、こうも一気に風向きが変わるとは……。今、中国の高速鉄道は大きな転換点を迎えている。


武汉站 / chinnian


2007年4月18日、中国は第6回鉄道高速化を実施。中国版新幹線と呼ばれた高速鉄道が導入された。さらにその後は北京・天津間、武漢・広州間などに高速鉄道専用路線を新設。武漢・広州間では最高営業時速350キロを記録し、フランスのTGVを抜いて世界一の座を手にした。今年6月には北京・上海間高速鉄道が開通する。2020年までに中国全土を走る高速鉄道の総営業距離は1万6000キロに達する……はずだった。


最高時速を300キロに制限

すべてを変えたのは今年2月13日の出来事だった。中国鉄道部の劉志軍部長(当時)が収賄容疑で拘束された。同氏は2003年に鉄道部部長に就任。高速鉄道の誕生と発展とを見守り続けてきた存在だった。19日には「中国高速鉄道の第一人者」として知られる中国鉄道部運輸局局長、中国鉄道部副総エンジニアの張曙光氏も汚職容疑で拘束され、中国高速鉄道を牽引してきた大立者が一気に姿を消すこととなった。

4月12日、劉志軍の後を継いだ盛光祖・鉄道部部長は人民日報の取材を受け今後の鉄道計画を語ったが、高速鉄道に大きな修正を加えることを明らかにした。その要点をまとめると、

(1)最高時速を300キロ以下に制限。

(2)高速鉄道専用線に遅い列車も並行して運用する混合運営制度を導入(新幹線でいうのぞみとひかりのようなもの)。一部路線では停車駅を増やすほか、時速200キロの高速鉄道路線には貨物列車も運行する。

(3)今後の建設計画を見直し投資額を縮小。高速鉄道建設予定区間を普通路線に変更することも検討する。

最高時速の制限は航空業界保護が目的か?

盛部長は最高時速の制限は安全性のためと発言している。「時速350キロで走られる能力があるところで、300キロで走ればより安全」などとしれっと言っているが……。

以前、海外メディアが「中国高速鉄道は手抜き工事のためコンクリートの劣化が早い。数年もたてば最高速で走ることは難しい」との関係者の暴露を報じていたので、安全面の配慮もあながちウソではないのかもしれないが、よりうがった見方もある。

もともと過当競争気味だった中国航空業界にとって、高速鉄道は強敵。すでに南京・武漢便が廃止されるなど大きな影響が生じていた。北京・上海間高速鉄道の開通はドル箱路線の収益を圧迫したはずだが、最高時速の制限によって航空便のメリットが際だつことになる。盛部長の発言を受け、航空株は値を上げている。
(参考リンク:金融界電子版、2011年4月14日


混合運営制度は出稼ぎ農民にとっての福音か?

高速鉄道導入後、最大の問題となったのは出稼ぎ農民が利用できない点にあった。主要都市間の直通路線ばかりが整備され田舎には駅がないこと、値段が高すぎて出稼ぎ農民が利用しづらいことがネックとなっただけではない。高速鉄道有線のダイヤが組まれたため、鈍行や急行の数は削減され、また通過待ちでむしろ遅くなる弊害があった。

混合運営制度により途中駅が追加されるほか、より低速で安価な列車が用意されるため、出稼ぎ農民など田舎出身者、低所得者も利用しやすくなるのは間違いないだろう。一方、高速鉄道専用線でも低速度列車が走ることによりダイヤが複雑化することが課題となりそうだ。


高速鉄道負債問題への影響は?

近年、中国高速鉄道をめぐる問題で焦点となってきたのは、その天文学的な負債。現在、中国鉄道企業の負債は1兆8000億元(約22兆5000億円)に達すると推定されている。その財務計画はきわめて楽観的な収支予測の上に成り立っているとも批判され、経営リスクが指摘されてきた。

投資規模の縮小はそうした批判に応えたものと思われるが、しかし、既存路線の運賃割引につながる今回の変更プランがむしろ収支を悪化させる可能性も否めない。中国の高速鉄道専用線の建設は、政府出資の運営会社の資金と銀行融資、社債発行でまかなわれてきた。突然の運営プラン変更が運営会社の経営にどのような影響をもたらすか、注目される。


中国高速鉄道、奇跡の成長は終わるのか?

中国の鉄道といえば、霧のように漂うタバコの煙、床に散らばるヒマワリのタネのがら、カップラーメンをすするおっさん、やかましくしゃべる乗客たちという光景だった。高速鉄道はそうした中国の鉄道の姿を一新した。それだけでも驚きだったが、すぐに北京・天津間高速鉄道など時速300キロオーバーの専用線が登場し、再び大きな変化を感じさせられた。

中国高速鉄道の発展。その裏には汚職や安全リスク、低所得者の利便性無視、あるいは鉄道技術の知的所有権問題などいくつもの影があった。そうであっても、奇跡のように成長する中国高速鉄道の姿には、鉄道百科を何度も読み返した「男の子魂」をくすぐるものがあった。4年間の奇跡的な成長の後に転換点を迎えた高速鉄道は、どこへ向かうのだろうか。

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 コメント一覧 (1)

    • 1.
    • 2011年04月17日 00:20
    • 多少強引に計画を推し進めてしまっても、少しずつ改善していけば問題ない。日本も歩んで来た道ですし。
      目先の利益以外のところに着眼して行くのは素晴らしい事だと思います。
      ただ、韓国、中国、台湾…どんどんJAPANブランドがああああ…なんか複雑(~_~;)

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