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ベトナム国会議員は共産党の操り人形ではなくなったのか?ベトナムの改革と中国―北京で考えたこと

2011年05月03日

指桑罵槐(?)のベトナム論(その1:ベトナム国会と民主化の動き編)

今回は久々にベトナムの話題をとりあげます。以前の記事「中国がベトナムから学ぶこと=ベトナム共産党大会報道を読む」ともすこしかぶりますが、「中国から見たベトナム」という視点です。今回ご紹介するのは鳳凰週刊2011年第11期号の特集「ベトナム共産党の革新=コントロール可能な民主」です。

20110502_vietnam1
*ホーチミン市人民評議会庁舎。写真はPhuket Observerより。

*当記事はブログ「北京で考えたこと」の許可を得て転載したものです。

何と22ページにわたる長編特集ですが、1月に行われたベトナム共産党第11回大会を題材に、ベトナムの政治指導者の変遷とその背景などを詳細に紹介しています。特に「コントロール可能な民主―ボトムライン上でのベトナム党外民主実験」と題して、共産主義国家における民主化という、中国にとっても敏感なテーマを扱っています。

「ベトナム政治をこんなに熱く、しかも長編記事で取り上げて、果たして読者がいるのかな?」とは少し疑問に思いましたが、中国については一言も触れないで、しかし中国はこうあって欲しいという、若干美化されたベトナム政治と民主化の姿が描かれているように思えるのが興味深いところです。

ある人に言わせれば、これはいわゆる「指桑罵槐」だとのこと。「桑を指さして槐(えんじゅ)を罵る」(桑の木を指しながらも、全く似ても似つかない槐の木を罵る)とは、ある対象を批判するように表向きは見せかけながらも、本当はまったく別の対象を批判するという、中国メディアや文化人の十八番。

今回の記事もまさに「指桑罵槐」だと感じます。さて、今回は「ベトナム国会と民主化の動き編」と題して、記事からベトナム国会に関する部分を中心に紹介します。紹介されている事柄を中国に置き換えて考えてみると……。

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「言うことを聞かない」国会議員


今年1月の共産党大会から遅れること4カ月、ベトナム国会第13期選挙(任期は2011~2016年)は5月22日に実施される。ベトナムの国会議員選挙、そして地方議会選挙は差額選挙制が導入されているが、ベトナムの党外における民主化の進展を示す物差しとしてとらえられている。
(訳注:差額選挙とは信任投票ではなく、議席を複数名で争うことを指す)

現在は全国会議員中、共産党員が91.1%を占める。しかし高速鉄道建設案、ボーキサイト開発を否決するなど、その役割に関する評価は高まっており、必ずしも共産党の命令に従うものではないと認知されている。「原則的には党と国家機関の職能を分離していくという方向であることを示している」例だと、白石昌也・早稲田大学教授は分析している。
(訳注:高速鉄道建設案、ボーキサイト開発案秘訣については、記事「中国がベトナムから学ぶこと<2>=ベトナム国会、政治指導者、メディアを考える―北京で考えたこと」を参照。)


党のコントロールか、自由意思か?


前回の国会選挙を例に取れば、祖国戦線など共産党以外の団体により選抜された候補者リストは876名に上り、それが182選挙区に割り当てられた。一選挙区に4~5人が立候補し、2~3人が当選する形となる。党の要職にあるような重鎮が「当選確実」であることを除けば、決して安心できない倍率である。
(訳注:祖国戦線について、鳳凰週刊では中国の政治協商会議に類似の組織と紹介されています。確かに設立の歴史的背景は似ていますが、政治プロセスなどへの関わりはより深いものであり、たんに類似している言い難い存在です。)

現在ベトナムでは選挙活動は許されていないが、候補者とは名乗らずに新聞に寄稿するなどの形で活動する候補もいる。「選挙運動禁止が選挙が盛り上がらない原因だ」と、意識の高い裴民さん。そのため、選挙運動解禁を期待する声もある。
(訳注:裴民さんはベトナムの市民の声の例として出てきますが、こんなに政治参加意識の高い人あんまりいないと思う……。)

Vietnamese-Propaganda-Poster
Vietnamese-Propaganda-Poster / bernardoh

*共産党のプロパガンダ・ポスター。

選挙当日、住民や住民の代表は、有望候補者の「紹介会議」に出席し、暗に投票行動が誘導される。しかし、その効果には限界があり、誘導に従う者もいれば、資料を良く読んで自ら選択する人もいる。候補者リスト上位には学歴の高い、党が当選させたい候補を置いて「意中の人」を暗示するが、裴民さんは「それには惑わされない」と言う。43.6%という淘汰率は、共産党が大局をコントロールしつつも、個別には選挙民に選択を委ねていると言える。


どこがボトムラインか、民主化と揺り戻しの間で


ベトナムのリーダーは、民主拡大、プロセス公開の取組は成功しており、これからも続けていくと話している。しかし、「どこまで民主化を拡大するかは現在模索しているところ」だと言う。

民主化はベトナム共産党統治の合法性を損なうものではなく、むしろ強化するものとして機能している。海外で民主化運動を展開する反ベトナム共産党勢力は多党制を要求しているが、ベトナム共産党はこう反論している。ベトナムにはもう多様な勢力と意見が存在する、だから多党制は必要ないのだ、と。

共産党第11回大会の政治報告には「公民社会」という言葉が入るのではと期待されていたが、総書記の差額選挙同様、実現しなかった。また、2月26日には、中東、北アフリカでの民主化運動に呼応し、ベトナムでも「街に出よう。共産党中央政治局を廃止しよう。若者は中東とアフリカの民主運動の勢いに乗り、集会を開いて抗議をしよう」という宣伝資料を配ろうとした医師が逮捕された。

2009年がピークとなったが、反ベトナム共産党の活動家の逮捕が続いた。諸々の反体制運動についても、政府は厳しい態度がとり続けている。「2011~2020年経済社会発展戦略」では経済改革と同時に政治改革も必要とはうたわれてはいる。しかし、経済運営でも諸々脆弱な部分が存在するなか、全ては「ゆっくりと」(慢慢来)進展することになるだろう。

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【考えたこと】

以前の記事でも感じたことですが、多少ベトナムのことを美化し過ぎている感がある気がします。上述した国会選挙への投票プロセスなんかでは、実際には(特に農村では)長老にあたるようなおじいさんが一族の票全てを代理投票するようなことが普通に行われており、その長老には当然共産党組織の「指導」が入っているわけですから、党のコントロールの方が強いのは明らかです。「共産党が大局をコントロールしつつも、個別には選挙民に選択を委ねている」は言い過ぎなのかなと感じます。

ベトナムから中国にやってきた個人的感想では、中国と対比させてベトナムが(過剰に)良く見えると言うのは、分野を問わず、わりと中国に関わっている多くの方に見られる現象です。中国のイメージが強すぎるからかなあ、とも思う次第です。

まあ。こういった他国の共産党を議論する記事では、中国との比較を引き立たせるためになのか少し改革の側面が強く書かれるのかもしれません。でも、なかなか中国共産党のことをストレートに語れない中国メディアにとっては、他の共産党独裁国(まあ数少ないですが)を語ると言うのは、引き続き一つの言論のあり方として続いていきそうです。

*当記事はブログ「北京で考えたこと」の許可を得て転載したものです。




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