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台湾ラノベを読んでみた!『トイレの上のアラジン』傑作です―北京文芸日記

2011年05月09日

『馬桶上的阿拉丁(トイレの上のアラジン)』

本屋で見つけて即表紙買い。久々に本を裏返しにしてレジに持って行った。 本書は2009年に第1回台湾角川ライトノベル大賞銀賞(日本語版Wikipedia「台湾角川ライトノベル&イラスト大賞」)に輝き、台湾国際角川書店から出版されている。翌2010年に中国大陸版も発行された。

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*『馬桶上的阿拉丁(トイレの上のアラジン)』(著:風聆 イラスト:kurudaz)。アマゾン中国でも販売中

*当記事はブログ「トリフィドの日が来ても二人だけは読み抜く」の許可を得て転載したものです。

あらすじ

主人公・張暁果は普通の身長、普通の体格、普通の顔、「普通」の二文字で形容できてしまう18歳
の少年だ。それが学校のトイレで用を足していると、いきなり便器に話しかけられた。《アラジンの魔法のランプ》の分身を名乗る便器の精霊・阿磨尼亜(アンモニア)の《ご主人》となってしまった張は、学校の先生や同級生の精霊は格好良いのに何でオレだけ便器……とふて腐れる間もなく、超常現象が起きた。張は先生やクラスメイト、そしてパートナーのアンモニアの力を借りて、異変に立ち向かう。
便器を題材にした小説なので、これはライトノベルじゃなくて更に幼い児童文学のカテゴリじゃないかと疑ってしまった。だけど、物語の登場人物たちは典型的なライトノベルにありがちなキャラで、主人公と比べてキャラクター性に富んでいる。

主人公張暁果の2つ下の妹(表紙の女の子)はとびっきりの美少女で、地味なアニキをそれほど敬っておらず、毎朝寝坊しがちな彼をケリで叩き起こすというある種のご褒美をくれる。(張暁果はそれを喜んではいないが)

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同じ精霊所持者の同級生の葉揺濃は張暁果の悪友いわく「学園でも5本の指に入る美少女」で、両親を早くに亡くした薄幸の少女だ。表情は乏しいが小犬たちといるときにだけ微笑を見せる。

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また、文章の随所に散りばめられた小ネタがファンタジーなストーリーに現実性を与えている。例えば便器の形をした精霊のアンモニアを見て張暁果が「まるで某漫画の替身使者(スタンド)みたいだな」とつぶやくシーンなんか、主人公と読者の心が結びつく瞬間だろう。

更に『アラジンと魔法のランプ』と『胡蝶の夢』という有名な古典が伏線となっているので親しみやすさがある。悪い言い方をすれば、いろんなジャンルから良いものを借りてきた最大公約数的なライトノベルだ。

だからこそ、便器が登場するこの三枚目なライトノベルが青春・学園ものの作品の影に潜んでいる《出会いと別れ》を、読者を奇襲する形で描写するとは思わなかった。そして少年少女が世界を救ういわゆる《セカイ系》へと展開する物語から、突然主人公がはじき出されてしまうのはライトノベル読者に対する良い裏切りだった。

個人的には、稲生平太郎の『アクアリウムの夜』や秋山瑞人の『イリヤの空、UFOの夏』を読んだときに劣らない衝撃を受けた。

幻が現実を凌駕するディストピアの中で、この世に存在しない人物に負けてしまうバッドエンドを前にした張暁果は、物語の終盤でセカイ系ライトノベルの主人公になれず、脇役に落ちてしまう。そして、自らの意志で自分の前から消えた大切な人の力になれなかったというやるせなさだけが残る。だがラストにはアンニュイな夢から目覚めたかのような晴れやかさがある。

200ページというページ数は中国の小説からすれば非常に短く、しかも文字のフォントも大きいので思いの外スラスラ読める。しかし小説の構造以上に『軽小説』という中国語名がふさわしい作品を描けた作者の、軽妙洒脱な筆致が何より物を言っている。

続刊が出ているので書店で見かけたら購入してみたいが、この一巻の出来が素晴らしいので蛇足にも思える。

ちなみに表紙は妹がアンモニアに乗っているイラストなんだけど、作中にこのシーンは一切出てこない。これがいわゆるジャケット詐欺である。

関連リンク

*当記事は
ブログ「トリフィドの日が来ても二人だけは読み抜く」の許可を得て転載したものです。


↓第1回台湾角川ライトノベル大賞・金賞受賞作。

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