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公立学校と民間学校=出稼ぎ労働者の子どもにも公平な教育機会を与えることができるのか?―翻訳者のつぶやき

2011年05月21日

見えてきた中国の教育政策の歪み

先日の記事「幼児にも「エリート教育」=高級幼稚園の誕生と待機児童問題」でも、中国の教育政策のひずみについてふれましたが、今回は学区外の学校への進学という問題をご紹介します。


DSC04165 / mikeheth


複数の広東省メディアは、「14日から広州では小学校の入学申し込みが始まった。複数の学校入り口は早くから保護者が長蛇の列を作った。徹夜で並ぶ人も見られた」と報じました。彼らの多くは市外から来た元出稼ぎ労働者やその家族だったようです。なぜこのような現象が発生したのでしょうか。

*当記事はブログ「中国語翻訳者のつぶやき」の許可を得て転載したものです。


出稼ぎから定住へ=先進都市・広州市の課題

ご存知の通り、広州市は前世紀90年代から、四川省や湖南省などの内陸から出稼ぎ労働者を数多く受け入れてきました。彼らの多くは妻や家族を故郷に置いて単身都会に出てきている人たちや中学校を卒業仕立ての十代の労働者だったのです。

いわば「家族は市外(省外)で自分だけ単身赴任」というのが、前世紀の出稼ぎ労働者のスタイルだったといえます。しかしその結果、家族を故郷に置いて単身都会に出てきたことにより、故郷の農村の働き手不足や、いわゆる「留守児童(両親共に都会に働きに行き、祖母、祖父が養育している児童)」の心の問題など、さまざまなひずみが出てきてしまいました。

しかし、2000年以降になると、ある程度お金をためた出稼ぎ労働者が田舎の家族を呼び寄せたり、あるいは出稼ぎ労働者同士で結婚し、都会で家庭を作るケースも増えています。つまり、広州などの大都市では「出稼ぎ労働者=外来人」とは一概には言えなくなってきているのです。


有名公立中学が徴収を始めた「択校費」

都会で家族を持てば当然子どももできます。しかし、元出稼ぎ労働者の子どもが公立の小学校に上がれないといった問題があります。

その理由の1つが、いわゆる「択校費(学校選択費)」の問題です。中国では小学校に上がる際、戸籍がある学区の小学校に通うのが基本です。しかし、90年代以降、「より良い教育を受けたい」と考え、良い小学校を選択する保護者が増加しました。これにつけこんだ一部公立の重点小学校、省1級小学校が施設充実費などさまざまな名目で、「択校費」を入学者に課すようになったのです。

広州では「択校費」は、一般的に有名どころの小学校で6万~7万元かかると言われています。大金を払ってでも、いい学校に入れたいと学区外の学校を選ぶ市民がいるわけですが、特に深刻なのは出稼ぎ労働者。彼らの戸籍は外地にあり、出稼ぎ先の学校に子どもを入れようとすれば、必ず「択校費」が発生することになります。出稼ぎ労働者にとっては大変な負担です。


民営小学校を選ばざるをえない低所得家庭

最近では中国にも民営小学校が登場しています。公立ほど知名度はなく、「択校費」を徴収する学校は少ないようです。よって出稼ぎ労働者の多くは、こうした民営学校に子どもを通わせたいと考えています。南方日報によると、実に7割近くの労働者は公立の小学校に子どもを入れられずにいるのです。

公立小学校の「択校費」問題はまさに、「有名な学校に通わせたい」という保護者の心理に付け込んだもの。公立なのに、、「金持ちだけがいい教育を受けられる」という不公平性を体現したものと言えるでしょう。まさに、中国の教育政策におけるガンの一つです。

「択校費」についてはこれまでも国内の多くの人たちが正当性に疑問を呈してきましたが、廃止されるまでにはいたっていません。政府と教育部門、学校など関係者間の複雑な利権が絡み合っていると考えられます。そして、「それなりに資金を投入して教育施設を充実しているんだ。これぐらいの金はもらっても当然」という意識が小学校の関係者の中にあり、「択校費」廃止の流れを止めているのだと私は思います。


課題となる公平な教育資源の提供

民営学校は国から教育水準を保障されていません。どうしても公立よりも質の確保が難しいのです。今後は民営小学校がどのようにして公立並みの質を確保できるかが課題となるでしょう。

また、広州の民営学校への申し込み殺到は、「家族とともに都市で暮らす出稼ぎ労働者」がさらに増加していることを示すもの。今後は広州のみならず、他の沿海都市においても、彼らの存在感は高まっていくと予想されます。

先頭に立つ広州市が、出稼ぎ労働者を含めた全市民に対して、公平に教育資源を提供できるのか。注目したいと思います。

*当記事はブログ「中国語翻訳者のつぶやき」の許可を得て転載したものです。


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