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iPad2品薄につけこむ転売屋=包囲されたアップルストア―北京文芸日記

2011年05月28日

黄色い牛がリンゴを囲んでグルグル回っている

外国人店員によるアップルストア前テンバイヤー襲撃事件から2週間以上が過ぎた。結局、店側が被害者に多額の慰謝料を支払うことで手打ちになったようだ。なんともつまらない決着となった。オレもオレもと転売屋が集結。殴られて賠償金をもらうことを目当てに行列をつくる、なんて事態になっても不思議じゃないと思ったのだが。
(「中国でもiPad2発売に大行列=混乱にキレたストア従業員が転売屋を殴打―中国北京市(KINBRICKS NOW、2011年5月10日」参照)


iPad2 screen / paulswansen


ところが、殴打事件も収束した5月24日水曜日、用事があって三里屯まで行ったついでにアップルストアに立ち寄ったところ、異様な光景を目にしたのだった。

*当記事はブログ「トリフィドの日が来ても二人だけは読み抜く」の許可を得て転載したものです。



The Box... / DaveOnFlickr


■遭遇

アップルストアを囲むように立つ10数人の中国人。その全員が大小2つの真っ白な箱を持っている。大き目の箱にはiPad2、香水サイズの箱にはiPhone4と印刷されている。その時はのんきにも「ニュースでiPad2品薄って見たけど、まだこんなに余ってるんだなぁ」としか思わなかった。

それからアップルストアに冷やかしで入って、いたずらに液晶画面に指紋を付けてから店を出た。すると、箱を抱えた中年女性がボクに近寄ってきて、こう言った。

「iPad2あるよ」


そう、アップルストアの周りにいた人々。彼らは全員、転売ヤーだったのだ。
(ダフ屋のことを中国語では「黄牛」という。)


■外で待ち構える転売屋

入り口と出口の周りにいる怪しい人物。ざっと数えると20人以上はいるようだ。男女比は6対4で男性の方が多そうだ。年齢はバラバラ。中年から壮年。20代前半や10代にも見える若者までいる。全員iPad2とiPhone4をそれぞれ1つ以上抱えている。

それどころか、サンタクロースが持っているような大きな白い袋を持っている人までいる。おそらく売れたら、そこからまた補充するのだろう。

アップルストアの入り口と出口には、ガタイのいい店員が配置されているが、転売屋たちを追い払うでもなく、憮然とした表情で無視し続けている。店に近づきすぎた転売屋にだけ注意している。

これ以上の営業妨害はあろうかと感心するぐらいの異常な光景に目が釘付けになった。ただ転売屋には関わりたくないし、アップルストアの店員が厳しい顔つきで立っているので、話を聞くことはできなかった。


■観察

転売屋たちを盗み見しているといくつかのことがわかった。

まず、値段は6000元(約74700円)らしい。iPhone4(16GB)の公式価格が4999元(約62200円)。iPad2が3688元(約45900円)なので、おそらく前者の価格ではないだろうか。

目の前にはアップルストアがあり、iPhone4はすでに売り切れとはいえ、予約すれば確実に本物を手に入れられる。だから商品に希少価値はそれほどないはずだが……。

転売屋たちは大声を挙げない。「iPhone4あるよーiPad2あるよー」などと威勢よく売り込んだりはしないのだ。興味を示した通行人やストアから出て来た人に対してだけ、小声でアピールする。それが正規店への遠慮なのか、はたまた不法行為に対する法的配慮なのかは見て取れない。だがその静けさが逆に不気味だ。

観察しながらアップルストアの周りを歩くと、路上に設置された看板が目に留まった。『最近このあたりで本物かニセモノかわからない携帯電話を売るダフ屋が多発しています云々』と警戒を呼びかける内容だ。そのすぐ向こうでは大勢のダフ屋がたむろしている。

ぐるりと一周して戻ってくると、通行人と転売屋の間で商談が始まっていた。若い中国人カップルがiPhone4を手に取っている。箱を開けて商品を取り出し、操作を一通り確認する。『本物かニセモノかわからない』のだから入念なチェックは当然だ。


■絶好の穴場

彼ら転売屋たちは以前からストア前で商売をしていたのだろうか。映画館の前で海賊版DVDを売っていたり、服屋の前で服やバッグを売っているところはよく目にするが、感覚的にはそれと同じか。なるほど、iPhoneやiPadが欲しい人々が集まる場所を考えてみれば、真っ先に思い浮かぶのはアップルストアだろう。だけど、本当にその場所で商売してしまう面の皮の厚さには恐ろしさすら覚える。

あの殴打事件でアップルストアは評判を落とした。だから今は強引に転売屋を追い払えないのかもしれない。もしくはダフ屋で買ってニセモノをつかまされたヤツが出ても、うちの責任じゃないと黙殺を決め込んでいるのかもしれない。

このすきを狙ってのダフ屋行為だとしたらずいぶんと狡猾だ。


■ハニートラップ

ボサっとしていたらさっきのカップルはいなくなっていた。近くに100元札の束を数える男性がいたが、全然幸せそうな顔をしていない。あの札束のうち、彼の取り分はどれだけあるのだろうか。転売屋たちの間に弛緩した空気が流れ始めたので、ボクはその場を離れようとした。その時だった。かぼそい声で、「iPhone4いらない?」と話しかけられた。

声をかけてきたのは、ベンチに座った細身の女性。ボブカットに緑色の短パン、白と黒の縞模様のニーソックスを履いている。その格好に一瞬値段を聞きそうになったが、幸が薄そうでやる気が感じられない顔に興味をなくす。そもそもボクなんかが財布に赤い毛沢東を何十枚も入れているわけないだろう。彼女だってそう思っているはずだ。
(赤い毛沢東=100元札)

定価より高い価格、ニセモノかもしれないという疑い、そしてATMまで走る手間を考えたら、予約不要のメリット程度じゃ割に合わない。


■毎回考えさせられる「どっちが悪い」くらべ

正規店の目の前で商品を売る転売屋たちには嫌悪感を覚えるが、大枚をはたいて買う人間がいることにも驚愕する。動作を確認できるのだから、ニセモノをつかまされることはないのかもしれない。だが、その見当違いな信頼こそが、厚かましくもたくましい転売屋の生活を支えているのだろう。

*当記事はブログ「トリフィドの日が来ても二人だけは読み抜く」の許可を得て転載したものです。

 コメント一覧 (3)

    • 1.  
    • 2011年05月28日 21:50
    • 今の時期iPhone4を買う情弱って中国人に言ってはいけないのか。
    • 2.   
    • 2011年05月28日 21:52
    • 日本だと大抵は2年縛りの割賦で買う人が多いと思うんだけど、中国人金持ってるなー。
    • 3. Chinanews
    • 2011年05月28日 23:34
    • >1さん
      中国では、iPhone4がアップル製品普及の起爆剤になったので、商品発表サイクルがあまり知られていないような……。

      >2さん
      中国も携帯電話会社で買うとローンです。アップルストアでは一括払いのSIMフリー版です。高いっちゃたかいですが、携帯は社会的地位をアピールできる自慢アイテムでもあるので。

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