• お問い合わせ
  • RSSを購読
  • TwitterでFollow

ジュネーブに鳴り響いた革命歌=紅歌コンクールは習近平への服従の証なのか―中国コラム

2011年06月11日

次期指導者への服従の証

何亜非という外交部副部長(外務副大臣)がいました。昨年1月にスイスにある国連ジュネーブ事務局大使となりました。ところが、ニューヨークの国連本部の仕事とは違い、こちらへの転属は明らかな左遷なのだそうです。


Chinese flag / Philip Jägenstedt


*当記事はブログ「中国という隣人」の許可を得て転載したものです。


■中国大物外交官の出世街道

最近では駐米大使を務めた李肇星、楊潔篪が連続して外相に就任していますが、中国の大物外交官キャリアは、副部長か部長補(政務次官)クラスが大国の大使を務め、帰国後にまた副部長に戻るというのが一般的です。

例えば、駐日大使だった王毅は、党中央台湾工作弁公室主任(閣僚級)として党中央と国務院の対台政策に関わっており、中央委員会入りも果たしています。後任の崔天凱も帰国後は部長補から副部長に昇進。外交官にとっては大過なく職を全うしたことは評価ポイントになるのでしょう。


歴代国連ジュネーブ事務局大使(中国外交部ウェブサイト)」によると、外交問題で荒れると出てくる呉建民がフランス大使、喬宗淮が副部長、李保東が国連大使になるなど、ジュネーブ事務局大使を経て出世コースに乗ってくる人もいますが、その前歴はというと中堅国の大使か、外交部局長からの横滑りです。

副部長から国連ジュネーブ事務局大使になったのは何亜非が初めてですし、この異動は明らかに降格人事です。


■何亜非はなぜ左遷されたのか?

何亜非が左遷される原因となったのが、一昨年暮れに開催されたCOP15での発言と言われています。

<COP15>米国は「あまりにも常識を欠いている」=中国が批判―コペンハーゲン(レコードチャイナ、2009年12月13日)

9日、スターン特使は「米国が公的基金に拠出した資金が中国に流れることはないと思っている。中国には自らの行動を支えるだけの十分な資金があるはずだ」と述べ、中国以外の最貧国への支援が重要だとの見解を強調した。また、「米国やその他先進国は、過去の二酸化炭素(CO2)排出に対する補償を行うべきだとの考えを断固否定する」との姿勢を見せた。

スターン特使の発言に反発したのが何副部長。「米国は先進国、中国は発展途上国。国連気候変動枠組み条約でも、その責任と義務には本質的な区別がある。(スターン特使の発言は)法的な基礎にも事実にも合致しないもので、「あまりにも常識を欠いている」と強く批判した。

何副部長はスターン米特使にかみついた他にも、メルケル独総理が提案した途上国向け排出量計画も拒否してしています。わざわざ環球時報が報じていることからも明らかですが、当時の外交部の反応は「中国外交大勝利」(解振華・中国代表団長)でした。

何副部長の発言事態は他国に譲歩したくない温家宝の意向を汲んでのものだったのですが、予想以上に欧米との関係が悪くなってしまったため、詰め腹を取らされた、というのが裏事情らしいのです。

ついでに、COP15に出席した解振華・中国国家発展改革委員会副主任の入場用IDに顔写真が貼ってなかったため会議場への入場が拒否されたという珍事についての責任もかぶせられたんでしょう
(参考記事:「中国代表COP15会議場へ入場拒否」中国という隣人、2009年12月10日)


■ジュネーブで革命歌を熱唱

さて、左遷された何・ジュネーブ事務局大使ですが、就任2年目を迎えた今年にはっちゃけたパフォーマンスを見せています。中国の駐国連ジュネーブ事務局公式サイトは、中国共産党建党90周年を祝う式典の写真を掲載しました。

国連ジュネーブ事務局代表団党委が建党90数年式典、歌唱コンクール開催

RFIも式典について報道。
何亜非はジュネーブで誰に紅歌を聞かせるのか(RFI中文、2011年6月10日)


20110611_ceremony2


20110611_ceremony1

この式典では『沒有共産黨就沒有新中國(共産党がなければ新中国はない)』『社會主義好(社会主義はいい)』『我和我的祖國(私と私の祖国)』など、恒例の「紅い歌」限定合唱コンクールも開催。最後に『歌唱祖国(祖国を唱う』でフィニッシュするいつもの展開で幕を閉じたと伝えています。

20110611_ceremony3
*このちょっと寂しい規模が何亜非の置かれた状況を表している……。

何亜非は祝辞で「紅歌は党と新中国の発展と共に発展してきた」「紅歌コンクールは革命の歴史に対する追憶であり伝統の継承」「同士諸君には紅歌から貰った力を業務上に生かして欲しい」と目に余る紅歌押し。


■紅歌コンクールは再浮上を狙う何亜非の策略か

RFIによると、記念式典は国内で報道されたものの合唱コンクールについては報道されておらず、何亜非による紅歌押しは独自の判断によるものだったと指摘。再浮上の機会をうかがっていた何亜非が、元祖紅歌政治家である薄熙来・重慶市共産党委員会書記に聞かせるためだったのではと推測しています。

この程度で薄熙来にすり寄れるならば、紅歌コンクールが国内で開催されまくってもいいはずなのですが……。まあ、左遷され失うものがない外交官にとってはこれくらいしか逆転の手段がないのも事実でしょう。

なるほど、薄熙来に恭順の意を示して中央への返り咲きを狙うという56歳左遷外交官が打ったバクチか、と思いきや、他でも同じことをやっていました。ベラルーシ、ラオス、ベトナム、サウジアラビア、エジプト、タイの中国大使館や領事館でも、同様の合唱や「優秀な革命の伝統を継承」みたいな演説はやってるみたいで。皆考え付く事は同じなんですね。

紅歌が薄熙来、ひいては薄の活動に支援を表明した次期国家指導者・習近平への近さを表す基準になりつつあるのだとしたら、来年秋の党大会に向けてさらにこういった恭順表明が増えそうです。

*当記事はブログ「中国という隣人」の許可を得て転載したものです。

トップページへ

コメント欄を開く

ページのトップへ