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【高速鉄道追突事故】空気を読まないメディアは追い出せ=中国政府がニュース検閲を強化―中国コラム

2011年07月27日

【温州列車衝突】宣伝部とネット民と新聞

23日夜に、浙江省温州で起きた高速鉄道の事故の翌日24日、人民日報が一面はおろか紙面で全く事故の第一報を伝えなかったことは前回ご紹介しました。

事故は前日の午後8時半ごろであり、翌日の新聞に間に合わないはずはないのですが、どう報じるか決めかねていたのでしょうか。ネットでも22日にノルウェーで起きた爆破・乱射事件に重きを置く報道でした。

国内で起きた爆発事故を報じず、インド辺りの列車事故を大々的に報じたりするのは日常茶飯事だったりします。また、賠償金の額が色々と飛び交うのも、日本とは異なる点です。

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*事故により株価が下がったことを伝える風刺漫画。南方都市報の報道。

*当記事はブログ「中国という隣人」の許可を得て転載したものです。


■一夜明け急変した報道体制


ところが更に一夜明けた25日には、全力で事故を報道する体制に切り替わりました。方針が決まったのでしょう。

基本的に、中国の災害報道は負面(マイナス面)の報道を避け、明るい話題を積極的に提供する傾向があります。方針と言っても良いでしょう。事故の翌日が日曜の縮小版だったという理由があったにしても、24日(日曜)と25日(月曜)の差は露骨です。

中央宣伝部が列車衝突報道の記者を呼び戻し(RFI中文、2011年7月25日)



■宣伝部からの報道機関への通知


RFIによると、宣伝部から「追突事故は鉄道部の出す情報を適時報道し、メディアは記者を派遣しないように。特に子会社やサイトは監視を強め、反省を促す報道はしないこと」などと通知が出されているようです。VOAもほぼ同じ内容で報じており、まず間違いないものと思われます。

RFIは未確認情報であると前置きした上で、具体的には

(1)死傷者の数字は権威部門が発表するものに準ずる
(2)報道する頻度を抑える
(3)献血やタクシーの搬送など感動的な報道を増やす
(4)事故原因について掘り下げず、権威部門の情報に準ずる
(5)反省や論評を加えない
となっております。特段珍しい指針ではありません。


■締め出された振興メディア記者


宣伝部に怒られるまで無視して記者を送り込んで報道するメディアも無いわけではありません。しかし、今回は結構厳しく対処しているようで、広東省のメディアである羊城晩報、南方電視台湾、広州日報の記者9名が現場から撤退させられたと、広東省のある記者が明かしています。

大事故が起きた時は「新華社の記事を使いなさい」「地方紙は地元の省以外での報道は禁止」というのは数年前からのしきたりなので、新華社が来る前にいち早く現場に駆けつけて、素早く情報を集めるのが新興メディアのやり方です。

ピーク時に比べると水準は落ちたとは言え、コンスタントにスマッシュヒットを打つ南方都市報が鉄道部弁公庁に情報公開申請を出し、死者の情報などを出すよう求めています。

もちろん、新聞を売るためという側面はあるものの、宣伝部に睨まれれば業界では終了しますから、ただのパフォーマンスと片付けるのは酷でしょう。


■空気を読まない記事
A株「列車事故」で値を下げる(南方都市報、2011年7月26日)

信頼回復を事故の後から始めよう(新京報、2011年7月26日)


同済大学鉄道専門家「追突などありえない事故」(財経網、2011年7月26日)

起きてはならない事故は何故起きたのか(中国青年報、2011年7月26日)

■宣伝部のお達しどおりの記事

温州列車事故の運転手死亡最期までブレーキ離さず(新華社、2011年7月24日)

2歳の男の子両足切断免れる可能性(東方早報、2011年7月26日)


楊峰の妻を捜す苦悩の旅(財経網、2011年7月26日)


最後に救出された項●伊ちゃん(財経網、2011年7月26日)
*●は火へんに韋

救出を第一の任務とし全力で事故処理を行おう(中国青年報、2011年7月25日)


宣伝部のお達しを無視して、鉄道部の運行管理や事故の株価への影響などを報じて、宣伝部路線と真っ向勝負する新聞もあるのです。鉄道部の記者会見からは締め出されたことで、「記者魂」に火を点けてしまったのかもしれません。

また現在は微博という中国版ツイッターもあって、知りたい人は事故に遭遇した乗客のつぶやきを読めたり、事故現場の状況を共有できたりと、宣伝部の情報囲い込みはあまり機能していません。

こういう事件報道については、元より当局発表を鵜呑みにするような人民はまずいないでしょうが、鉄道部報道官の人を食った対応や、高速鉄道に対する安全面への不信感も影響しているのでしょう。

KINBRICKS NOW寄稿者の凛さんも指摘されているように、民工や低所得の庶民などには手の届かない価格設定の高速鉄道が在来線を走ることで、従来の列車は本数が減らされるわけですから、年一回の旧正月に安い路線で帰省する時以外に列車を使わない彼らにとってみれば、敵視されて当然なのです。
(関連記事:「なぜ高速鉄道は大衆に嫌われるのか?奪われた帰省の為の「格安路線」―政治学で読む中国」KINBRICKS NOW、2011年7月26日)


■賠償金に対する報道


中国青年報は擁護記事を書きたいのか、貧乏人の金持ちに対する感情を透けさせる記事を書きたいのか、判断に苦しむところですが、ネット民以外の「民意」を汲んだ記事は珍しい気がします。ネット民ならず低層人民にも良い感情を持たれていない、と察することは出来ているのですね。

列車事故賠償案固まる10日以内に終わらせる構え(財経網、2011年7月26日)


すでに賠償金交渉が始まっており、鉄道部の規定では過去数回の平均から算出された基17.2万元(約208万円)に、保険金20万元(約242万円)を加えた37.2万元(約450万円)が最低ラインとなり、遺族の交通費、埋葬費、今後の生活資金などを入れても45万元(約544万円)を超えない範囲となっています。

ところが、短時間で合意し、なおかつ協議時の態度によっては数万元の奨励金が更に上乗せされるとあり、財経網もこの点に憤っているのか、珍しく記事の当該部分はゴシック体で強調されています。

列車事故で初の賠償合意に金額は50万元(財経網、2011年7月26日)


なお、規定は本当らしく、遺族が50万元(約605万円)で合意に達したとの報道がありました。報道されたことで合意が加速すると思われますが、当局が事故原因も分からない状況で賠償を急いでいるのが丸分かりなのと同時に、札束で遺族の顔をはっ倒すような当局のやり方がまたネット民に叩かれそうです。


■当局を悩ますネット世論

一度は「緩い地盤を固めるため」と地中に埋めた事故車両を、事故調査のために掘り返しすなど、今回は明らかにネットを気にする動きが目に付きます。

私はネットを中国唯一にして最大の世論と呼んでいますが、遺族はもちろん、ネット民も満足させられるような結果を報告しなければ、批判は衰えないのではないでしょうか。新聞が日和らなければ、と期待してしまいます。

*当記事はブログ「中国という隣人」の許可を得て転載したものです。

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