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【鉄道追突】報道規制に反抗した民間メディア=日本人が知らない報道の多様性―北京で考えたこと

2011年07月30日

温州列車事故に怒れる中国民間系メディア―中国メディア多様性の再認識

今週はずっと温州列車事故の話題で持ちきりです。メディア関係者、特に中国大陸のメディア関係者は眠れぬ日々を過ごしていることかと思います。

事故からちょうど1週間がたった7月30日、「事故報道を控えるべし」というメディア規制が発令されたとの情報が新浪微博などマイクロブログ、ネットで飛び交いました(そして、その情報自体も削除されました)。実際に多くの新聞は前日から一転、かなり抑制的な紙面となっています。

新聞の売れ行きはどうだろうかと気になり、午前10時頃に新聞を買いに行くと、新聞スタンドは早くも各種朝刊をお片づけ。早いなあと思っていると、残っていた今日発売の「経済観察報」の一面、特集が目に止まりました。

20110730_news_paper
*メディア規制発令当日に、「鉄道部解体」というタイトルと印象的な紙面。記者の怒りと意気込みを感じます。


*当記事はブログ「北京で考えたこと」の許可を得て転載したものです。


骨太の特集ですので、まだ全部読み切れていませんが、自分の印象に残った記事をここで紹介します。民間系メディ アの官製メディアに対する怒り、そして今回の事故報道に関する正義感が激しく伝わってくるメッセージがありました。「中国メディア」というくくりで中国各紙を一緒くたにはできないのです。記事のタイトルは「做有良知的媒体」(良識あ るメディアたれ)です。以下、抄訳でご紹介します。

「做有良知的媒体」(良識あるメディアたる)

23日の列車事故後は全国のあらゆるメディアが声を挙げた。あの人民日報を代表とする中央政府官製メディアでさえ「起きるべきでない事件がなぜ起きたか?」と詰問し、中央電視台さえも追跡報道を行った。

そんな中、それでも一部の官製メディア、例えば「環球時報」や「公益時報」(鉄道部の機関報である「人民鉄道報」は論外だが)は信じられないような論調を掲げ、これら新聞の関係者はメディア人として基本的な良識と節操、そして亡くなった40人の命に対する最低限の敬意を持っているのかすら疑われる。

環球時報
が25日に発表した「高速鉄道は中国が経験すべき自己鍛錬」と題した論評では、「鉄道部は事故後すぐに上海鉄路局局長らを解雇するなど正確な一歩を踏み出している、今回事故の結論が高速鉄道の速度を落として昔の鈍行電車にもどることであってはならない」としている。

鉄道部を追求すべきでなく、高速鉄道という新しい技術に対する疑念を持つ社会にその責任を求めるべきと言うのか?事故後すぐに責任者を交替したのは単にスケープゴートを作っただけで、事故処理現場は更に混乱したのではないか?乗客は実験用ラットになってまで「鍛錬」をして高速列車を走らせなければいけないのか?

同日、25日に出された公益時報は「温州列車事故から見る中国社会主義の優越性」と題し、黒いものを白と主張する奇々怪々な文章を出している。事故後まだ救出作業をしている時に社会主義の優越性を訴えるなどバカげた超楽観主義ではないか?資本主義体制の日本では新幹線開業から47年間大事故を起こしていないというのに、何が「中国社会主義の優越性」だ!

我々メディア人がすべきことは「嘘を言わない」ことである。完全な真相を書くことはできない時があるかもしれない、ただ少なくともメディアに嘘を言わないことを求めることはできるはずである。ペンで真っ白な紙を汚してはならない、自らの良心に背くようなことがあってはならない。

(経済観察報、2011年7月30日)

【考えたこと】
禁令下での大特集。新浪微博でも「良くやった!」と称賛の声が相次いでいます。経済観察報など民間系メディアは、中国の厳しい環境で常にぎりぎりの仕事を強いられています。その仕事振りに心から敬意を表すと同時に、今後この怒りがどうなっていくか、不条理な懲罰を食らわないかどうかを懸念します。

そして、同時に日本語メディアの方に言いたいのは、中国メディアにも他の国と同様これだけの多様性があることを踏まえてから、中国メディアの声を引用して欲しいということです。特に環球時報などは日本関連の記事も多く、多くの日本メディアが「中国メディアによると…」など大雑把に解説して実は環境時報の記事を伝えたりします。

それを日本の読者は「中国によると…、中国人によると…」と誤読しかねないリスクもあるわけです(そう読んでいる人も少なくないでしょう)。「どうせ、中国のメディアって統制されているから、どれも一緒なんでしょ?」という誤解と共に。

これらのメディアの多様性(若干の特徴と論調の傾向、組織背景)をきちんと注記することは多少の追記でも良いわけです。その僅かな努力は是非惜しまずに、よりリアルで多様な中国をきちんと伝えて欲しいと私は思いますし、今回紹介した記事を書いているような中国の多くのメディア人が真に願うところではないでしょうか。

*当記事はブログ「北京で考えたこと」の許可を得て転載したものです。


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 コメント一覧 (1)

    • 1.
    • 2011年07月30日 16:22
    • いやー今回の事故はびっくりしたよ
      事故自体も相当びっくりしたけど、フツーに中国民衆が政府の隠蔽体質を批判してんのには驚いたね。それにとどまらず、温家宝首相、謝っちゃったからね!一昔前の中国ならありえなかったよこれ

      まだまだ問題の多い政府だけど、政府と民衆が呼吸してる感じは新しいね。新しい中国だね

      多分政府は今後少しずつ民衆に寄り添うようになるんじゃないかな?楽観はできないけどね。個人的にはその先が心配だ。日本も大正時代、昭和初期の全体主義のムードが現れる前には、かつてない自由主義の風が吹いてたからな。

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