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「中国は雷雨の中を走る列車、我々はその乗客」=高速鉄道事故の本質と庶民の声―中国ビジネスなう

2011年08月13日

■中国高速鉄道事故の本質と中国庶民の声■

起きるべきして起きたと各界から叩かれまくりの中国高速鉄道事故だが、海外、いや失礼、中国国外、つまり米国と米国寄りの日本の報道に限って言えば、その叩き方は何というか笑えるものでしかない。被害者遺族の声やネット世論の一部が格好の報道材料となっている一方で、中国で実際に生活している肝心の一般庶民の声には、誰も関心がないかのように見えるからだ。


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*中国ネット上の「もし君が落雷による追突を信じろっていうなら、僕はむしろこの原因を信じたいね」というテロップ付画像。


もちろん、40人以上もの人が死んだという事実そのものは少しも笑い事ではない。とはいえ、技術面における中国品質がどうこうという判をついたような論調、事故車両をさっさと埋めてしまうといういかにも中国風な処置を格好の報道材料としてここぞとばかり叩きまくる姿勢、挙句すべては中国政府=中国共産党の政治的体質のせいだとほのめかす西寄りの報道は、まあ遠からずとはいえ、事故の本質からすれば程遠い。

*当記事はブログ「富史の中国ビジネスなう」の許可を得て転載したものです。


■中国庶民は誰も鉄道部に怒ってなどいない


非常に遺憾なのは、在日の中国人ジャーナリストである莫邦富氏までもが、「中国高速鉄道事故で国民が鉄道部に怒り狂う背景には、これだけの伏線がある」(ダイヤモンド・オンライン)で同じ落とし穴に陥っている点だ。

中国・鉄道省の腐敗の歴史の開陳は確かに興味深いが、安全な国外にいる中国人知識層の一人であるのならば、国内の知識層の間でささやかれている「陰謀論」「政治的権力闘争」について、特に国内外の世論操作を示唆する「反胡錦濤側勢力関与の可能性」についてなぜ声を発しないのか。

いや、遺憾なのは莫邦富氏が中国国内の知識層を代弁し損ねているという点だけではない。「国民が鉄道部に怒り狂う背景」というが、知識層の人々はともかく、少なくとも北京市内で怒り狂っている中国国民になど、ただの一人も出くわしたことがない。

事故そのものより政府の報道規制に憤懣をぶつけるメディア本位の論調や中華思想由来の建前的憂国論が報道の大勢を占めている。だが、その陰に覆い隠された、「今回事故の被害者の大多数は結局のところ、高速鉄道に乗るだけの余裕があった富裕層の人々でしかない」という一般庶民の正直な気持ちを、なぜ誰も代弁しないのか。
(関連記事:「中国高速鉄道事故:メディアの抵抗続く 鉄道省やり玉に」毎日新聞、2011年8月5日)


■「中国は雷雨の中を走る列車、我々はその乗客」

「陰謀論」と「庶民の声」、この二つはそれぞれ対極に位置しながらも事件の本質に迫りうる視角と言えるだろう。「結局、カネは身の守りとはならなかった」という庶民の声については、ウォールストリート・ジャーナル日本語版に紹介された、

「1回の落雷で列車衝突が起きてしまうほど国が腐敗すると、トラック1台が通ると橋が落ち、何袋かの粉ミルクを飲むと腎臓結石になる。だれも例外ではない。中国は今や雷雨の中を走る列車だ。我々は見物人ではなく、列車の乗客なのだ」

というネットユーザーの声が興味深い。ひと言で言えばカネの追及、しかも社会挙げてのカネの追及こそが問題なのだ。粉ミルクしかり、高速鉄道しかり。近年中国で起きた一連の事件すべてを生じさせている事の本質と言えるだろう。


■批判ではなく自嘲


それにしてもWSJがこのコメントをもって「中国高速鉄道事故、ネット上で怒りの声強まる」とは、あんまりなミスリードである。このコメントの真意は「我々庶民はいつでもカネの追及の犠牲者、今や富裕層までが例外ではなくなった。やれご愁傷様」であって、批判というよりはむしろ自嘲、自虐に類するものだ。

簡単にまとめるならば、他でもない中国人自身が、あんまりな中国品質に今や空いた口がふさがらない状態なのだ。中国人の「無所謂」(それなりであれば何でもいい)な民族性も若干関係してはいるものの、純粋におカネ、つまり経済的な事由で粗悪で危険なものがあらゆる方面に出回った結果、庶民は自己防衛を余儀なくされている。他人の事故どころではないのだ。

経済力があれば、粉ミルク禍は逃れることができた。その比較的裕福な人々が、開通して間もない高速鉄道をべらぼうな値段の乗車料金まで払ってわざわざ利用したのに、事故に遭ってしまった。これに中国一般庶民がご愁傷様以上の感慨を持たないからと言って、誰が彼らを責められよう。
(関連記事:「京滬高速鉄道 乗車料金確定 最低410元」中国網日本語版、2011年6月13日)


■中国人も認識している危険性


莫邦富氏は、7月16日、つまり事故のちょうど1週間前にNHKの番組「週刊ニュース深読み」に出演した時、「中国の高速鉄道の安全性は?」と聞かれ、「安全性はこれから検証されなければならない。ソフトの面ではまだまだだ」と答えている。

サーチナ
は6月30日の北京・上海間高速鉄道開通以来、故障や緊急停車が相次いだことを伝えている。その末に今回の事故があったわけだが、中国人の友人もちゃんとその事実を知っていた。富裕層ならば間違いなく知っていたはずだ。それなりのリスクがあることは知られていたのだ。自己防衛のチャンスはあったはずだ。

だから、日経ビジネスオンラインが今回事故と同時に、そのほんの数日前に起きたバス炎上事故に注意を向けているのは正しい。炎上事故でもやはり40人以上の無実の庶民が命を失ったが、中国人でさえもう驚かない。日々の新聞報道を見る限り、こちらのお国でこの種の事故は日常茶飯事だというのに、日経ビジネスオンラインの「中国では社会的地域、政治的地位、資産の多寡によって命の重さは大きく違う」というくだりにはただ苦笑するしかない。


■社会挙げてのカネの追求という亡者


「ありゃ落雷による天災だからね、仕方がないよ。」事故翌日に乗ったタクシーの運転手はこともなげにそう話した。技術上の問題の話もなければ、鉄道省や政府への批判も何もない。あるのは、「何があっても責任不在。何があってももう驚きません。それで何か?」という感情だ。中国一般庶民のしたたかさともいうべきだろうか。「事故に遭ったのは庶民じゃないし?」と返すと、その運転手は笑っていた。

最近はガソリン代が急騰していることもあってか、他人の事故どころではないようだ。だがそのタクシー運転手が怒りに身を震わせていなかったとしても、一体誰が責められようか。一般庶民の一人として、彼はこれまでさんざん煮え湯を飲まされてきたのだ。そして、中国での悪しき出来事の根源、「社会挙げてのカネの追及」という亡者を、一体誰が追い払えようか。

*当記事はブログ「富史の中国ビジネスなう」の許可を得て転載したものです。

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 コメント一覧 (3)

    • 1. ( ^-^)_旦""
    • 2011年08月14日 00:53
    • 「チベットや新疆ウイグル自治区は中国だ!」と言いながら
      助け合うべき一般市民は、チベット人やウイグル人を虐殺するのに無関心だった。

      西側諸国の報道が市民からかけ離れてる?
      一般市民は被害者だ?

      自業自得だろ!笑わせるな!
    • 2. とおりすがりさん
    • 2011年08月14日 02:24
    • 中国/国外、庶民/金持ちとか二元論すぎますせんか?
      で、拝金主義が問題の本質ってそれじゃあまりにも…
      たしかに外国メディアは、それみたことで
      おおはしゃぎだけど
      説明を二元論にしたせいで
      単純な図式に落とし込んではいませんか?

    • 3. Chinanews
    • 2011年08月15日 00:08
    • >とおりすがりさん
      コメントありがとうございます。サイト管理人のChinanewsと申します。

      おっしゃることはよくわかります。ただ政府対メディア、ネット民、世論というこれまた二項対立で描く構造ばかりがはびこっているなかで、執筆者の大串富史さんは中国在住者という立場からのカウンターをお書きになったのではと理解しています。

      大串さんが叩く政府対ネット民という構図は、私自身もしばしば陥りがちなものかもしれないと深く反省した次第です。

      実際には地域の違い、政治問題への関心度など、もっと細かい線引きができるはず。先日、「大陸浪人のススメ」の安田さんともこの話題になりまして、中国本がこれほど多くでるようになった今、もう少し細かいひだひだを追うことが必要ではないかと話していました。

      近いうちにこの問題をまとめられればと思ってはいるのですが……。

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