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高速鉄道問題を徹底解明!!!と思いきや中国共産党トップは夏休みを満喫中―中国コラム

2011年08月18日

■【温州列車追突】事故原因調査より党人事?

先月起きた高速鉄道事故の記者会見で、名言をいくつも生み出した王勇平報道官が、停職処分を受けたと報道がありました。

王勇平・鉄道部報道官が停職(人民日報、2011年8月16日)

「新華社英語版によると、鉄道部は8月16日、王勇平報道官を停職処分にしたと発表した」となっているものの、鉄道部サイトでは全く触れられていません。

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*王勇平鉄道部報道官。時代週報の報道。


しっかり国内メディアに転載されているのに、英語版や海外版がソース源という中国がたまにやる謎の迂回報道は気になりますが、まずは矢面に立って失言を繰り返した報道官を切るというトカゲの尻尾きりだと、はじめは思いました。

*当記事はブログ「中国という隣人」の許可を得て転載したものです。


■迷走極まった王勇平

事故が発生してから最初の記者会見で、「全ての質問に答え、どんな厳しい質問にも逃げたりはしない」「みなさんの質問に誠実に答えていく」「皆さんには私を信じて欲しい」と大見得を切ったにもかかわらず、死者数は二転三転しましたし、技術は先進的なもので信用に足ると強弁して、微博で随分叩かれてしまいました。

公の場から姿を消したことで解任説が飛び交い、7月29日にはわざわざそれを否定する声明が「鉄道部関係部門責任者」から出ています。

極めつけは、なぜ先頭車両を現場に埋めたかについて「世の中の皆が知っている事故を隠蔽は出来ないのに、何故こんな愚かな質問が出るのか」と返し、「救助作業をしやすくするためだと説明を受けている」「(私が受けた説明を)信じるかどうかは自由だが、私は信じる」という名言に昇華させています。

救助活動終了後に救助された少女について「奇跡だ」と言ってしまうなど、自分の発言がどう捉えられるかまで頭が回らない辺り、突発的な事態対処は不慣れなのだと思います。

彼の経歴を見ていると宣伝部畑が長いのですが、こうした記者とのやり取りに離れていないのでしょう。いつもは春運(旧正月)の列車運行状況やネット交流でご高説を述べるくらいですし、報道官としてろくな教育をうけていないのだと思います。


■目くらましの解任


ところが、今回の「解任」は引責ではなく単なる目くらましに過ぎないことが分かりました。

鉄道部「王勇平停職はデマ。待遇に変更なし」(中国新聞網、2011年8月17日)

正常な異動であると説明する担保ですが、「不再担任」(もう担当はしない)という単語が使われているので、解任ではなく円満であると強調する狙いがあるのがわかります。

夕方の鉄道部発表によると、王はOSJDという旧ソ連など共産圏を中心とした鉄道機構の中国側委員として、ポーランドに派遣されることが分かりました。左遷ではあるかもしれませんが、党内の級別(階級のようなもの)は変更しないのですから、数年後ほとぼりが冷めた頃に本国に戻されているのかもしれません。


■蘇った張徳江

また、7月24日以来行方不明だった張徳江副総理が、15日、16日と北京で開かれた大会に出席して、無事だったことが確認されました。

全国和諧労働関係構築先進表彰・経験交流会(人民日報、2011年8月17日)


張徳江は同じ日程で行われた高速鉄道に関する会議にも出席し、したり顔で「検査チームは科学的発展観を実行し、実事求是の態度で」などと何事も無かったかのように振舞っています。

国務院高速鉄道及び建設中プロジェクトの安全大検査部署動員会議(新華社、2011年8月16日)


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*左から駱林、張徳江、馬凱。新華網の報道。

20日間以上姿を見せていなかったのは誰もが知っているわけですから、横にいる馬凱や、実際に現場で調査を指揮していた駱林などは「こいつ終わってるのによく出てこられるなw」とか思っているのではないでしょうか。


■宿題を放り出して夏休み?

この時期、「党と国家の指導者」(政治局委員以上の共産党員、全人代副委員長、全国政協副主席、中央書記処書記など)は河北省にある北戴河と呼ばれるリゾート地で休養を取るのが恒例となっています。事故現場に出向いた温家宝を除くと、常務委員の動態は23日の政治局会議から8月上旬まで、ほとんど報じられませんでした。

やっぱりみんな北戴河に来ているんだな、と勘ぐりたくなるのはこの記事です。

賀国強、北戴河で休養中の全国紀律検査系統先進工作者を訪問(新華網、2011年7月29日)

劉延東、北戴河全国科学技術成果巡回展を参観(科学技術部、2011年8月8日)

かいがいしく働く党員を表彰する意味で、北戴河に避暑に来させる伝統があるそうですが、状況証拠から「党と国家の指導者」は地方トップ(薄熙来、汪洋)を除いてほとんどが集まっていたようです。張徳江も現場は閣僚級に任せ、さっさと家族を連れて避暑地に向かっていたのでしょう。

親民のフリをする温家宝も7月29日の記者会見以降、9日の国務院常務会議まで報道が途絶えており、情けない限りです。本来なら休養など返上して事故処理にあたってしかるべき規模なのに、現場にいたのは駱林という庁の長官クラスが最高位という体たらくであります。


■党中央のやる気のなさ


「党と国家の指導者」約70名にとって、列車事故よりも来年の党人事や避暑の方が大事であると図らずしも露呈してしまったわけですが、今のところ詰め腹を切らされたのが上海鉄道局の3人だけというのは、事故調査に対する党中央のやる気のなさがうかがえるようです。

ただし、張徳江に対する温家宝の厳しい批判や、氏がいち早く姿を消したのは事実ですから、依然として事故処理のトップにいるのは何らかの手打ちがあったから、という可能性は頭に留めておくことにします。

関連記事:「失言連発の鉄道部報道官の「左遷」=入れ替わるように復活した張徳江副総理―翻訳者のつぶやき」KINBRICKS NOW、2011年8月18日

*当記事はブログ「中国という隣人」の許可を得て転載したものです。


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