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「天国に遠く、中国に近い」愛憎半ばするベトナムの対中感情―北京で考えたこと

2011年08月19日

■「天国にはほど遠いが、中国に近い」ベトナムの愛憎半ばする思い■

「北京から考えたこと」としてブログを書けるのもあと3週間余りとなって来ました。今回北京に来てから気にしてきた中国とベトナムの関係、領土問題の緊張もあって注目も集まりました。一貫して感じていたのは、特に領土問題が持ち上がって以降、地政学的、国際政治的な報道が多いこと。

特にアメリカを入れてのキナ臭い話を伝える報道は日々各種メディアをにぎわせました。その一方、ベトナム人が中国をどのように見ているのか、なぜそれ程中国を恐れているように見えるかを、ベトナム人の視点から紹介している中国語メディア報道は少ないなと常に感じていました。まあ日本語メディアも同じですが。

それゆえに、そういう中国語報道を敢えてこのブログでは取り上げてきました。(例えば「【南シナ海問題】ベトナムの若者が抱く複雑な中国観」や「【中国農業コラム】「中国人は恨み深い民族だ」=ベトナム人が語る中国人像」など。)

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*ベトナム特集で表紙からどかっと1面、そしてその後4ページにも渡る特集。

さて、なんともタイミングのいいことに、愛読紙・南方週末のカバーストーリーがベトナム。しかも丸々4面を割いての大特集です。内容も両国間関係はもちろんのこと、政治、 経済、文化の面から見たベトナムにとっての中国という濃い内容です。今回はこれをきっかけに、自分が中国メディアに見た中越関係を総括したいと思います。

*当記事はブログ「北京で考えたこと」の許可を得て転載したものです。


「天国に遠く、中国に近い」

記事のタイトルは「ベトナム:天国には遠く、中国に近い」。記事では触れられていませんが、ベトナムのファム・バン・チャ元国防相のようです。大国アメリカの南にあるメキシコの「メキシコは不幸だ。天国に遠く、アメリカに近い」ということわざから取ったものだとか。つまり、このタイトルはベトナムは不幸だと言っているようなものでは……。

大特集の内容ですが、私が紹介してきた「中国メディアのベトナム観」をまるまる包含するような、総括的な内容です。例えば、政治改革進むベトナムと題したページでは、「大胆な社会主義」と題して、政府に物言う国会が党書記、国家主席、総理に次ぐ第四の勢力となりつつあると指摘しています。
(この点については、以前にも南方週末記事を紹介したことがあります。「中国がベトナムから学ぶこと<2>=ベトナム国会、政治指導者、メディアを考える」をご覧ください。)

日本の新幹線案件をベトナム国会が通さなかったなんていうエピソードも、温州列車事故の後だけにまた趣が違ってより重く聞こえます。社会科学院のベトナム研究者は、「ベトナムは小国だから(改革の)一歩は大きく踏み出せるのだ」と軽く皮肉りながらも、「国会が政府を牽制し始めている」という前向きな改革の姿を認めています。


■ベトナムの中国に対する愛憎

ベトナム人の不安についても多く触れています。領土問題における中国の膨張姿勢、3.5万人いると言われるベトナム国内の中国人労働者と彼らの築く独自チャイナコミュニティ、溢れる中国製品と膨らむ貿易赤字。

しかしその一方、歴史をさかのぼればベトナム文化理解には中国文化が欠かせません。中国語は英語に次ぐ人気外国語となりました。中国には10万人ものベトナム人が留学しています。アメリカに行く学生の10倍という数です。「愛中国、恨中国」(中国を愛し、中国を憎む)という愛憎半ばする思いを幅広く紹介しています。

文化的なエピソードとして取り上げられたのは中越共同ドラマ。中国では『李公蕴:到升龙城之路』(李公蘊:昇龍城にいたる道)というタイトルで放送されたこのドラマは、2010年のハノイ遷都1000年を記念して制作されました。ところが、中国で撮影し、ベトナム王朝・皇帝の描き方が「中国っぽ過ぎる!」と批判されたために、ベトナム国内での放送が禁止されてしまいました。恐らくリアルに描こうと思ってのことなんでしょうが、そうすればするほど「中国寄り」と批判されてしまう。本当に微妙なさじ加減です。

小国ベトナムが、経済的には依存と警戒の間で、文化的には中国化と独自文化の間で、外交的にはアメリカと中国の間で、微妙なバランスを取りながら、そして、矛盾に満ちた感情を抱えながら、北の大国・中国と向き合っている姿を記事は描いています。

それ程、新しい視点があるというわけではありません。特にベトナムにいたことのある方なら、このような中国(経済・商品)の浸透ぶりや、それらに対するベトナム人の見方というのも珍しくはないでしょう。ただ、この4ページ特集は、中国メディアなのに、とにかくベトナムの立場から理解しようという姿勢にこだわっているところに好感を持てます。


■望まれる相互理解

さて、最後に記事で紹介しているベトナム人ビジネス界での笑い話をご紹介します。

ある中国企業の幹部が2008年にホーチミン市に転勤させられることになった。「人間が住める場所なんだろうか?」と不安に思った幹部は正式赴任前に、こっそりと現地を視察した。

という話です。実話ではなく、冗談じゃないかと思いますが、言わんとするのは中国人のベトナム理解がまだまだ足りないということ。

愛憎半ばする矛盾した感情で中国を見つめるベトナム。小さな隣国をちゃんと理解しようという気持ちになっていない中国。南方週末の特集が目指したように、中国人がありのままのベトナムを理解するようになれば、両国の関係はもう少し変わってくるはず。簡単ではないでしょうが、実現して欲しい。そう願わずにはいられません。

*当記事はブログ「北京で考えたこと」の許可を得て転載したものです。


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