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2011年09月15日
■極左サイト「烏有之郷」の後ろ盾は「最後のイデオローグ」
事故前にも、「反腐敗の旗印を掲げ、鉄道私有化という陽謀を行おうとする極右勢力に警戒せよ」という長い論文が寄稿されていたことからもわかるとおり、まさに筋金入りの極左サイト。サヨクにありがちな、やたらに長くて読む気を起こさせない超大作寄稿文が山のように収録されています。
互動百科(中国語)によると、どうやら大物元老・鄧力群がバックにいるらしいのです。鄧力群こそ「最後のイデオローグ」と呼ぶにふさわしい人物。80年代に中央宣伝部長を務めて反精神汚染キャンペーンで胡績偉を人民日報社長の座から引き摺り下ろし、胡耀邦を失脚させるなど大活躍しました。
1987年に趙紫陽に根城を潰され、さらに李鋭に密告されたことで中央委員に落選します。それまでは一貫して宣伝(検閲)畑を歩んだ極左であります。今年96歳なのですが、まだ存命です。八宝山で挙行される大物の葬式に名を連ねる元老の中では恐らく最年長、中共の森繁と呼んであげてください。
■薄熙来の革命パフォーマンスと保守派
鄧力群らは当時左派、保守派と呼ばれていました。六四天安門事件で趙紫陽が退場し政治改革が頓挫すると、保守派の発言力が党内で拡大していきました。鄧小平は後継者2人を失脚させた負い目から、後継者指名や中国の舵取りには口を出さなくなってしまいます。
ところが経済成長や十四大の人事にまで影響を及ぼし始めたので、引退していた鄧小平が反撃。広東省などで保守派を批判する講話を連発し、共産党の方針を再び経済改革へと転じさせました。この一件を機に保守派は政治的な発言力を失ったのですが、よく考えてみると、最近話題になっている薄熙来の革命パフォーマンスは見た目、保守派のそれに他ありません。
(関連記事:過去に向かって大躍進!革命歌ブームを主導する薄熙来―中国コラム)
■薄熙来礼賛の「烏有之郷」
恥ずかしながら、「烏有之郷」についてはほぼノーチェックだったので、サイトの方向性ぐらいはつかんでおこうと読んでいたのですが、かなりの薄熙来推しであることが分かりました。
中には「現代の毛沢東」とまで評している会員もいます。薄熙来の展開する文革イベントに、左派が非常に強いシンパシーを感じている事は間違いありません。また、「薄熙来書記」と肩書きを付けて呼ぶ傾向が強い点も目に付きました。
改革開放で利益を得られなかった人間が意外と多いのです。彼らは「発展こそ道理」という、過去20年の中国を牽引していた経済改革優先思想に反発、「毛沢東時代のような平等を第一に」という薄熙来の主張になびいていく構図が見られます。
どこまで本気かはともかく、薄熙来の重慶モデルがコケれば中国は終了とまで言い切っているのです。7月に重慶市が採択した、「3つの距離を縮小と共同富裕促進に関する決定」で挙げられている平等化にも賛意を表しています。
■胡錦濤の力不足と左派の強さ
薄熙来といえば、最近では「パイ論」(パイを大きくすることを優先するか、それとも平等な分配方法を考えることを優先するか)で対立しているのが、広東省の汪洋書記と彼が推進する広東モデル。
いずれも薄熙来、重慶モデルと対立することから、「烏有之郷」には目の敵にされています。南方都市報や党内右派が「誰かが文革をやろうとしている」と薄熙来を批判した歴史決議座談会も攻撃対象となっています。
(関連記事:ついに胡錦濤が動いた!「文革」薄熙来VS「改革派」温家宝のバトルに新展開―中国コラム)
「烏有之郷」自体にどれだけ影響力があるかはともかく、こうした極左サイトが潰されないという事実を見れば、胡錦濤の力不足、そして「サイト」の後ろ盾の力がうかがえます。
■党大会はイデオロギー対決の場に
来年秋の第18回党大会まで約1年となりました。今回の党大会は習近平(太子党、左派)VS胡錦濤(共青団)+温家宝(政治改革(笑))という構図で、綱引きが展開されることになるのでしょうか。温家宝の政治改革に「笑」がつくのはどうも本気でやっているようには思えないという保留の意味合いがあります。
とはいえ、久々にイデオロギーが人事に影響を及ぼす党大会になりそうです。もちろん、80年代のようなガチの保革対立ではないことには注意しておくべきでしょう。どちらの派閥も、イデオロギー的主張は自派拡大のための方便なのです。
既得権益層である太子党と対立しているから、温家宝は無私だとか改革派だとか思ってはいけません。共青団だってお金は欲しいですしね。。最近、両者の対立が目に見えて酷くなってきたので、中国政治ウォッチャーとしてはワクテカの状況です。果たしてどちらに軍配が上がるのか
ああ、温家宝がまた政治改革について何やらのたまわっているようですが、力尽きたのでこのネタは次回で。
*当記事はブログ「中国という隣人」の許可を得て転載したものです。