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「10年後の人たちが読める本を書いた」安田峰俊『独裁者の教養』出版記念インタビュー(2)

2011年10月26日

作家にして、人気ブログ「大陸浪人のススメ」の管理人でもある安田峰俊さん。このたび星海社新書から3冊目の著作となる『独裁者の教養』を出版した。「ここで仕切り直す!」という意気込みは聞いていたのだが、ゲラをもらってみると、今までの著作とはがらりと傾向を変えたアグレッシブさ、濃さに驚いた。

そこで、その理由や本作に込めた思いをインタビューしてみた。未読の方はまず前編からご覧いただきたい。

20111025_独裁者の教養_安田峰俊
*本日10月26日、星海社新書より発売された安田峰俊著『独裁者の教養』。書影クリックでamazonページへ。


■どうしてこんな内容に?


C:
『独裁者の教養』の評伝の部分は、リビアとかカンボジアとかシンガポールとか、各国の現代史がわかっていいよね。ところで、ニヤゾフみたいにマイナーな人も収録しているけど、ムッソリーニや金日成はないよね。コラムでは触れていたけど。なんで?

*サパルムラト・ニヤゾフ……トルクメニスタン初代大統領。




Wonsan, North Korea / yeowatzup

*日本人に最も馴染みの深い独裁者と言えば……。

安田:

単純に分量の問題がひとつ。あと、本文でヒトラー・スターリン・毛沢東と古典的独裁者の「ビッグ3」を紹介してしまったので、ムッソリーニを入れると古い話が多すぎると思ったんです。ほか、金日成は若いころに何をやったのか正確な情報を見つけるのがおそろしく大変だったのでボツ。キューバのカストロはカダフィと微妙にキャラがかぶる気がして泣く泣くボツ。ルーマニアのチャウシェスクは、共産圏の指導者が増えすぎるのでボツ。

ちなみに、本文で紹介しているトルクメニスタンのニヤゾフ大統領は自分のなかではボツ候補だったんですが、完成原稿を読んでくれた人はみんな「ニヤゾフの記事がおもしろい」って言うんです。こちらは結果オーライかも(笑)。


*トルクメニスタン100mana紙幣。肖像はニヤゾフ。



C:
他に、本文に入れたかった独裁者はいる?


安田:
中華民国の蒋介石と韓国の朴正煕は入れたかった。こういう、硬い系の軍人のオヤジって好きなんですよ(笑)。特に蒋介石は参考資料の下読みまでやっていて、本の分量をあと50ページ増やしていいのであれば入れていました。いつか、台湾の本でも書くことがあれば反映したいけど、機会あるかなあ……?


General Chiang Kai Shek / San Diego Air & Space Museum Archives

蒋介石。第3代・第5代国民政府主席、初代中華民国総統。

C:
ぶっちゃけ1万数千字で、独裁者の面白すぎる人生をまとめるのって、きつかったと思うんだけど。どうだった?あと、独裁者の皆さんを公正に評論しているけど、好き嫌いとかある?お気に入りは?


安田:
大変だった。当初は副担当の平林に「5000字くらいにまとめろ」と言われていて、それを5000字にまとめようとしたら、各人物の評伝の文字数が1万数千字になった(笑)。ちなみに独裁者の好き嫌いだけれど、書いてるうちに「あー、こいつにも事情があったんだよね」となってしまって、嫌いな人はいないです。

ちなみに、個人的なお気に入りは毛沢東とリー・クアンユー。ある意味で、この2人は「デキる中国人」のネガだと思う。ここに蒋介石も入れてあげたかったのだけど……。

 
mao-tse-tung / blvesboy Minister Mentor: Lee Kuan Yew / madaboutasia
毛沢東、初代中華人民共和国主席と、リー・クアンユー、シンガポール初代首相


■なぜ「ワ州」を選んだのか?


C:
ところで、なんで「ワ州」なんて無名の地域を取材対象に選んだの?「潜入してくる」と言われた時、本気で心配したんだけど。


安田:

中国語が通じるから大丈夫だろうと思った。仮にこれが北朝鮮やジンバブエだったら、トラブルが起きた時に解決できる言語がないもの。本来、他の日本人にとっては中国語とワ語が公用語であるワ州だって、ジンバブエと同じくらい「言葉が通じない場所」なんだけど、俺は中国語はいちおう問題ないのだし。自分がいちばん大きなアドバンテージを持って取材できるのがワ州だった。

20111025_ワ州国境_2
*ワ州国境。撮影:安田峰俊。


C:
なるほど。


安田:

あと、詳しくは『独裁者の教養』の本文で触れているけれど、ワ州って文化大革命当時の紅衛兵の残党と中国・ミャンマー国境の少数民族が作った「中国のパクリ国家」なんですよ。「主席」がいて、「党中央」があって「人民大会堂」がある。中国ウォッチャーとしては政治体制をすごく理解しやすかったし、「本家」の中国を知っているからこその面白味もあった。だから、現場を見たいと思った。

20111025_ワ州人民大会堂
*ワ州人民大会堂。まるで東武ワールドスクエア……。撮影:安田峰俊。

C:

作中で「ありえねー!おまえ、ノンフィクションの神様がついてるんじゃないか!?」っていう編集者の言葉があったけど、マジで出来すぎの展開もあったような気がするんだけど? どこまでが脚色でどこまでが本当?


安田:

本文中に写真がたくさん挿入されていることからもわかるように、基本的な登場人物や出来事なんかはほぼ事実。ワ州密航記の中盤で、本当に「ありえねー!」な事態が起こるのだけれど(笑)、あれもノンフィクション。完全にフィクションなのは、登場人物の名前や固有名詞を仮名にしたことぐらいかも。

20111025_金三角の星より_ワ州連合軍とアヘン畑
*ワ州連合軍とアヘン畑。


■ワ州取材だけの本にしなかった理由


C:
ワ州密航記が全体の3分の1以上という結構なボリュームなんだけど、これだけで一冊分を書けたんじゃない?


安田:

間違いなく書けた。でも、そうしたくなかったんですよ。

C:

どうして?


安田:
ワ州密航記は……、自分で言うのもなんだけど面白いし、サクサク読めると思う。でも、これだけで本にしちゃうと「軽すぎる」と思うんですよ。結果、読者の人たちはもちろん、出版社やテレビ局の視点で見ても、安田峰俊はAVとかオタクとかの話題を喋らせて使い捨てで消費される「中国ネットウォッチャー」から、危険な場所に送り出して使い捨てで消費される「中国現地突撃ライター」にクラスチェンジするだけ。

俺自身の立ち位置はちっとも上がらない。ここはちゃんと、「安田はその気になればちゃんと文献を渉猟して重い内容も書けます」というアピールが必要だった。

C:
もっと息が長い仕事をするために?


安田:

うん。でも、自分でこう言うのは欺瞞かもしれないけれど、世の中のためにもちょっとは必要かもなーと。いま、小説以外のジャンルで若い物書きってかなり少ないじゃないですか。でも、いくら出版産業がドン詰まりでも、今後も一定の需要はあるはず。なのにノンフィクションの書き手が誰もいない。

ここで、ごく少数の例外である俺まで、二冊目のこの本みたいに、なんとなく薄っぺらいことだけを書く仕事をやって一瞬で消費されちゃったら、これから10年後とか20年後の人たちは何を読めばいいんですかと。俺は数十年後もそんな人たちのために本を出したいから、いまマジメなことも書いておこうと思った。……って、あれ? やっぱり私欲じゃねーか(笑)。

C:
いやいや(笑)。でも、マジメに書かれている評伝の部分もかなり面白いよ。繰り返しになるけど、頭っから今までの安田さんとは全然イメージ違うような本になっていると思う。でも、特にラストはかなり攻めていると思うんだけど(笑)。なんでだろう?


安田:
なんでだろう(笑)? あの内容って、独裁者評伝のオーラスになっているカダフィの取材を始めるまで、自分の頭のなかにまったくなかったんですよ。カダフィの原稿を書く過程で、日本で2011年2月に反カダフィ・デモを主催したスレイマン・アーデルさんという当時23歳の若い在日リビア人に会って、「革命」って何だろうと考えはじめたのがきっかけになったかもしれない。

C:
いきなり思いついた割には、ラストの部分で一気に伏線が回収されているみたいにも見えるけど。


安田:
ラスト部分を書く際に、俺はそもそもなんでワ州に行ったんだろうとか、なんで独裁者の姿から「成功」を考えてみようと思ったんだとか、「正義」とか「革命」って何だろうとか、現時点での自分なりの答えが見えた気がして一気に書いちゃったんですよ。打ち合わせ段階では、編集者の柿内さんからも平林からも「それ、要らなくね?」とか言われたんですが、「これは書かせろ」と言って。

C:
なるほど。実は最初に読んだ時、ラストはちょっと「攻めすぎ」じゃないかとも思っていたんだよね。繰り返し言ってきたけど、「詰め込みすぎなぐらい濃い本」なのに、最後にまた新しい展開が入るわけだから。


安田:

そうかも(笑)。ちなみに刊行前に『独裁者の教養』を読んだある人によると、「ベテランの作家ならラストの部分は書かないで、伏線部分はそのまま、カダフィを最終章にしてキレイに終わらせる」らしい。確かに、『中国人の本音』コンプレックスから自分の過去のイライラまで、ラスト数ページでいきなり書いた。

なんというか、『シベリア超特急』のラストで水野晴郎がKYになって一人で喋りまくるみたいな、そんな終わり方になったかもしれない(笑)。もっとも、それも他の部分のマトモな記述があってこそのご愛嬌ということで。



C:
なるほどね(笑)。いや実はさ、インタビュー前に読み返してみたらラストは「あり」なんじゃないのかなと印象が変わったんだよね。今回の話を聞いて、「このラストじゃなきゃダメだ」ぐらいに確信が深まったけど(笑)。『
独裁者の教養』は「独裁者は若いころにどんな経験(=教養)を積んでいたのか」を伝え、「独裁下で生きる人民の生活の体験記」であり、そして安田峰俊の挑戦の書でもあるわけじゃない。

過去の自分や今の環境といった個人的な問題から、日本社会という大きな問題にまで今の気持ちをがつんとぶつけた一冊。安田さんの作家としての力量から人間性まで総動員したっていう意味で、本当の意味で代表作なんだってよく分かった。今日はありがとうございました。


<前編>
29歳の「中国ネットウォッチャー」がなぜ独裁王国に潜入したのか?安田峰俊『独裁者の教養』出版記念インタビュー(1)

20111025_著者近影 【安田 峰俊】

1982年滋賀県生まれ。立命館大学文学部、広島大学大学院で中国近現代史を学んだ後に一般企業に就職するも、会社員の「空気」に馴染めず半年で退職。仕事を転々としつつも、中国のネット掲示板を2ちゃんねる風に翻訳するブログを運営していたところ、これが『中国人の本音』なんじゃないかと講談社の編集者に声をかけられて28歳で処女作を刊行。

デビュー後、同業者各位から「ろくに取材もぜずにネットの書き込みをパクっただけで本が書ける、中国ネットウォッチャー様(笑)って羨ましいよね」とイヤミを言われ続けるのが嫌になり、一年間の取材と文献渉猟を経て本書を書き下ろした。ツイッター@dongyingwenren。ブログは『大陸浪人のススメ』で検索のこと。amazon著者紹介より

当サイト『KINBRICKS NOW』でも、メインライターChinanewsとのコラボ企画『金ブリ浪人のススメ』が好評連載中。

独裁者の教養 (星海社新書)
安田 峰俊
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