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タイ軍兵士が中国人13人を惨殺した=メコン川中国人船員殺害事件の犯人逮捕

2011年10月31日

2011年10月28日、メコン川中国人船員殺害事件の犯人逮捕が発表された。


■事件の経緯

タイ当局は当初、現地武装勢力の犯行である可能性が高いと報じていたが、犯人はタイ辺境の兵士だったことが明らかとなった。

事件が起きたのは今月5日のこと。メコン川タイ領内で輸送船3隻が襲撃された。1隻は逃げ切ったが、残る2隻が拿捕された。乗員の中国人船員13人はいずれも遺体として発見されたが、目隠しをされ手を縛られた状態で銃殺されるという無残な死を遂げていた。


■中国国内で政府の弱腰批判

この事件は中国国内でも大きく報道され、泣き崩れる遺族の姿に、タイ政府、そして弱腰の中国政府に対して怒りをぶつける声が上がった。今回の事件に限らず、中国政府の弱腰が批判されるケースが近年目立っている。よく知られているとおり、中国商人は世界中に散らばっているが、「反中感情」の的として暴動や殺人事件のターゲットにされる事件が増加しているが、海外での「被害」が報じられるたび、中国では政府批判の声が上がっている。

共産党による強固な支配をしいている中国政府だが、一方で世論に敏感に反応するという特徴も持っている。事件発覚後、中国政府は事件を迅速に解決するようタイ政府に要求したほか、警察官を派遣し「合同調査」という形式を採ることで、政府としての取り組みをアピールしている。それでも「人民解放軍が武装勢力を討伐するべき」といった強硬論は根強く、21日付南都週刊には「どんな軍艦をメコン川に派遣するというのだ?」という世論をたしなめる記事が掲載されたほどだった。


■現地武装勢力が中国メディアに出演し潔白を主張

当初、事件の「犯人」と見られていたのは現地武装勢力だった。事件が起きたのはあの「黄金の三角地帯」。かつてと比べて麻薬生産量は大きく減少したとはいうものの、複数の勢力が居を構える秘境地帯である。武装勢力の中でもミャンマーの軍閥「ワ州連合軍」による犯行の可能性が対メディアにより示唆していたが、驚くべきことにワ州報道官を名乗る李祖烈氏が雲南テレビに電話出演し、ワ州の潔白を訴えるという一幕もあった。

20111025_アヘン王国の少年兵
*ワ州の少年兵。撮影:安田峰俊。


いや、潔白を訴えただけではない。目撃者の証言を集めた結果、真犯人はタイ警察だという驚きの「真相」を述べている。にわかには信じがたい話だったが、28日の発表でワ州報道官の話が「半分」当たっていたことが明らかとなる。警察ではなく軍兵士による犯行だったとはいえ、犯人はタイ当局関係者だったのだ。

報道によると、襲撃当日に現地付近を「たまたま」巡回していた「第一発見者」のタイ軍兵士が真犯人だったという。彼らは銃撃戦の末、船を取り戻し、輸送船から大量の覚醒剤を発見したと報じられていた。タイ政府は軍による組織的な犯行ではないと強調しているが、兵士たちが所属する第三軍管区はタイ北部の国境防衛を担当しており、地元武装勢力と癒着して薬物の密輸に手を染めていたと環球時報は現地リポートを伝えている。


■まだ終わらない「事件」

さて、真犯人は逮捕されたものの、これで一件落着となったわけではない。中国世論に押されるかのように温家宝首相はタイ政府に連絡し、「犯人に厳正な処分を望む」と伝えている。逮捕された9人が死刑に処されない場合、中国国内の政府批判もまた盛り上がる可能性がある。

事件後、メコン川で水運業に従事していた中国人が集団で帰国する騒ぎもあったが、メコン川の安全航行を今後、いかに確保するかも課題だ。31日、北京市で中国、ラオス、ミャンマー、タイの国際会議が開催され、メコン川の安全航行体制作りが協議される予定となっている(BBC)。


■「黄金の三角地帯」の現状

もっとも現地は地図上の国境があまり意味を持たない地域で、公権力の力が完全に及んでいるわけではない。実際にワ州に潜入した生々しい体験記を新刊『独裁者の教養』(星海社新書)で発表した作家の安田峰俊氏は、現地の状況について次のように話している。

独裁者の教養 (星海社新書)

『黄金の三角地帯』の北部に相当するミャンマー領のシャン州は、同国中央政府の統制が事実上及ばず、大小のゲリラや軍閥が割拠する混沌とした地域。現地の人々はパスポートなしで気軽に国境を越えており、なかにはミャンマーの軍閥が麻薬利権などで近隣国の官憲と癒着している場合もあるといいます。中国・タイ・ラオスを含めたジャングル地域の『治安のブラックボックス』のなかで発生した事件だけに、真犯人や動機といった真相は、文字通りの『藪の中』となるのでは。中国政府の対応が注目されます。

中国国内世論、中国とタイの外交、メコン流域の安全問題などいくつもの問題が複雑にからみあうだけに、解決は一筋縄にはいかなさそうだ。


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