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【まとめ】最後の盟友まで離反=東アジアサミットに見る中国の四面楚歌

2011年11月24日

「東アジアサミット参加国18カ国中、中国の盟友は1カ国だけ。そいつも最近裏切りやがった……」

南中国海
南中国海 / heiyo


上記のなんとも悲しい一言は、2011年11月22日付RFIの記事「東アジアに目を向けてみよう=誰が中国の同盟国なのか?」を転載した軍事論壇のスレタイトル。中国ネット民は「うちの政府、また下手うちやがった!」と騒ぐのがお好きなので、より過激なタイトルに変更されたというわけだ。ま、このあたりの心性は日本も似ていると言えるかもしれない。

とはいえ、2011年のアジア外交はまさに激動と呼ぶにふさわしい。「アジアへの帰還」戦略を打ち出した米国が猛烈な巻き返しをはかる中、なるほど、中国は追い込まれているように感じたとしても不思議ではない。ASEANを舞台に日米中印の猛烈な駆け引きが展開されているアジア外交情勢については、日本メディアの報道も少なくないが、俯瞰した大きな構図はまだ見ていないので、ざっくりまとめておきたい。


■炎上!南シナ海問題

火種は以前から準備されていたが、直接の発火点となったのは南シナ海問題。中国が今夏から海底油田採掘プラットフォームを設置するとの噂と、中国監視船によるベトナム漁船に対する威嚇射撃だった。

2011年南シナ海問題が残したもの=東南アジアの軍拡競争(KINBRICKS NOW、2011年9月10日)

詳しくは上記まとめ記事を見て欲しいが、ベトナム・ハノイでの反中デモ、ベトナムの海軍力拡充、フィリピンの猛反発及び新たな軍艦購入と一気に火は燃え広がった。結局、中国は石油採掘プラットフォーム設置を強行せず。9月にはアキノ・フィリピン大統領が、10月にはグエン・フー・チョン・ベトナム共産党書記が訪中し、一応の手打ちが計られた。


■二国間対話を主張する中国、多国間協議を主張するフィリピン、ベトナム

中国との友好関係を通じて、経済的実利を得たいのはフィリピン、ベトナムに共通する思考である。というわけで、いったん手打ちが実現した以上、しばらくは静かな関係が続くのではないかと予想していたが、これは大変な勘違いだった。

中国としては、金の力で懐柔し、二国間対話で各個撃破を重ね、期を見て南シナ海の開発に再び着手したいというプランだったと思うのだが、今回の一件が東南アジア諸国に与えた衝撃は中国側の想像を上回るものだったようだ。各国の動きを主に中国視点で見てみよう。

*フィリピン
・9月22日にASEAN会議を主催。共同開発を核に、南シナ海の領有権紛争解決を多国間で話し合う「平和と友好の海」構想をぶちあげる(レコードチャイナ
・9月25日にアキノ大統領が日本を訪問。野田首相と海洋安全保障での協力を約束。

*ベトナム
・インドの海軍基地を誘致する動き。南シナ海の開発権をインドに提供とも。

*シンガポール
・米海軍の新型艦艇・沿岸海域戦闘艦(LCS)の駐留を求める方針。

*ミャンマー
・ティム・セイン大統領が突然の政治犯の釈放、インターネット検閲の緩和など方針転換。速攻で米国、日本から援助の約束を取り付ける。
・中国資本で建設中だったダム(電力は中国に供給)の建設中止
・次期ASEAN議長国の座をゲット。「中国との独裁ホットライン」から「ASEANの一員」へと華麗な転身。

*オーストラリア
・11月、東アジアサミット参加直前にオバマ大統領が訪問。米海兵隊駐留案がまとまる。

*日本
・新防衛大綱に基づく西南シフトを敢行。九州で大規模演習を実施し、「仮想敵は中国なんじゃ」と世界にアピール。

*韓国
・韓国排他的経済水域(EEZ)内で不正操業の中国漁船に催涙弾、閃光弾を使用しての拿捕作戦。2日間で20隻以上を捕らえる大漁っぷり。

*TPP
・世界2位の経済大国・中国を抜きにして、なんかがっつり固まろうとしている?!


■ありえないほどの四面楚歌っぷりに温家宝がキレた

上記の一連の動きがすべて連動したものなのか、環球時報や香港親中紙などが説く「すべては米国が糸を引いての陰謀なのだよ!」説が事実なのかについては保留するべき点だが、ともかく中国の視点からみると、「近年考えられなかったほどの四面楚歌っぷり」に追い込まれたことは間違いない。

しかも極東のヘタレの勇名を欲しいままにしていた日本までもが、軍人首相(中国紙命名)こと野田佳彦の下、中国に牙をむいている。少なくとも中国視点ではそう見えている。
(関連記事:日本人が知らない日本外交の真実=「やられた……中国は包囲された」と中国官制メディア

極めつけが東アジアサミットだ。ついに登場したオバマ大統領が「南シナ海の航行の自由は守られなきゃね(にやにや」とコメントすると、付き従うASEAN、他の有象無象やらまで「やっぱ多国間対話よね」「中国さんの言う二国間対話って怖~い」とピーチクパーチク。

「温厚なおじいさん」キャラで知られる俳優王・温家宝が珍しくキレて、「それちょっと非礼じゃないすか?!東アジアサミットって、こういう話をする場じゃないじゃん!」と取り乱す一幕もあった。
(関連リンク:「南シナ海問題でキレた温家宝」佐々木智弘の今度は北京で「中国新政治を読む」、2011年11月20日)

中国もASEANのインフラ整備に100億ドル(約7500億円)の借款を供与することを表明したが、極東の軍人首相は「うちは2兆円じゃ!」と一喝。チャイナマネーのパワーはかすんでしまった。


■日本の外交成果

こうした状況で、11月23日、玄葉光一郎外相が中国を訪問した。前日22日には香港親中紙に「「虎の威を借る狐」日・韓・印3国に一撃を!米の主導で中国包囲網を結成」という勇ましい記事が載り、また23日には人民解放軍の艦艇6隻が沖縄本島と宮古島の海域を通過するなどの動きもあったが、懸案だった海上危機管理体制構築に中国も応じる姿勢を示したことで、一定の成果が得られたと見るべきではないか(東京新聞)。

中華人民共和国の外交慣習として「複数の国とはケンカしない」というものがあげられる。四面楚歌の現在だからこそ、日本がポイントを挙げられるものもあるはず。海上危機管理体制だけではなく、福島原発以来となる日本産食品の輸入条件緩和にも中国が応じたとの報道があったが、明らかに日本に秋波を送ってきていると解釈するべきだろう。

年内にも予定されている野田首相の中国訪問でさらなる成果をあげることが期待できるのではないか。だとすれば、就任以来、南シナ海をめぐる問題で積極的な動きを見せ、個人的にはひやひやしていた軍人首相の奮闘ぶりにも高得点を与えるべきかもしれない。


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