都市伝説大国・中国。さまざまな都市伝説が渦巻くこの国だが、中でもよく聞くものが「移植用臓器を狙った殺人事件」ネタだ。

wuhan / toehk

■腎臓を盗まれた女子大生？！

2011年12月3日、投稿型ニュースサイト・コモンポストに「中国で仕事の応募に行った女子大生2人が腎臓を盗られ殺される!!大学側はあらゆる手段で隠蔽工作」という記事が掲載された。

中国であまりにもひどい事件が発生しました。中国・湖北省で、2人の女子大生が仕事の応募に行った先で、腎臓を盗られ、死体を遺棄される事件が発生しました。被害者の親たちは、大学のキャンパス内で抗議したものの、大学側は暴力によってこれを排除したといいます。

という内容。女子大生が死亡したのも、被害者親族が抗議したのも事実だが、「腎臓を盗まれた」という点は間違っている可能性が高い。


■誇張された噂

この件について日本語メディアでは、11月29日付時事通信、12月1日付レコードチャイナが報じている。

女子大生ら3人が連続殺人事件の犠牲に＝「遺体からは腎臓が盗まれていた」とのうわさも―湖北省武漢市

レコードチャイナ、2011年12月1日

「就職活動中の武漢紡績大学の女子大生が殺された。腎臓を抜き取られた遺体が打ち棄てられていたのが発見されている。同様の事件は最近多発しており、犠牲となった大学生は50人を数える」というのがうわさの内容だ。

29日、武漢市警察広報関係者は、今年10月から武漢紡績大学学生を含む女性が殺害される事件が3件相次いでいたと認めた。仕事を紹介すると誘って人気がない場所に連れ込み、絞殺するという手口だった。連続殺人事件捜査に力を入れた警察は、11月17日、容疑者・甘（41歳）を逮捕した。強盗などの犯罪歴があり、2009年に釈放されたばかりだったという。

警察は動機を報復と見ており、腎臓が摘出されていたとのうわさを否定したが、捜査中の刑事事件だとしてそれ以上の情報公開は拒んだ。遺族、大学生からは本当に腎臓が摘出されていなかったのか、遺体を公開してほしいとの声が上がっている。

実際に3人が殺害される連続殺人事件があったというのが驚きだが、噂がありえないほど誇張されているのがわかる。


■地元警察の発表

警察は容疑者を逮捕したとはいえ事件の捜査中ということで、遺族にろくすっぽ情報を開示せず、また遺体も見せないというひどい扱いをしていたのではないか。17日に犯人を拘束していながら、29日まで連続殺人犯逮捕というニュースを公開していないのである。

あるいはまた別の事情（犯人が警察官だったとか、市のイメージを傷つけたくない）で遺体を隠していた可能性はあるが、それはそれでまた別の陰謀論の話である。

11月28日に遺族の親がデモ。29日に新京報が報道し、警察が釈明会見という流れだ。「別の陰謀論」が存在せず、たんなる警察の人情ゼロの怠慢だった場合、騒ぎになった時点であっさり遺族に見せている可能性もある。

29日の警察発表を一切無視して記事を組み立てているのが、コモンポストの元ネタとなった法輪功メディア・新唐人テレビだ。ニュースは30日にアップされているのに、それまでに明らかになっている情報を一部ばっさりカットしているのがなんとも。中国をブラックに描ければなんでもいいや、という態度なのだろうが……。


■都市伝説の王道

私も中国に留学していた時、「あそこの角で先月、留学生が殺されたんだ。臓器は全部抜き取られていたんだって」という都市伝説を聞いたことがある。数年後にも「あそこの角で先月……」と同じ話を聞かされて爆笑したことがある。

「都市伝説」については、この分野における代表的な書物である『オルレアンのうわさ―女性誘拐のうわさとその神話作用』でも読んでいただくか、あるいはウィキペディア「都市伝説」 でも眺めていただければいいが、「臓器を狙った殺人事件」というのはまさに典型というべきだろう。

他にも「赤い服を着た女性だけを狙う殺人事件が相次いでいる」とか、中国では毎年あちこちで都市伝説を発端とした騒ぎが起きている。


■臓器摘出は病院で

中国で臓器ネタがやたらと真実味を感じられるのは、非正規の臓器移植ビジネスが横行しているからだろう。先日も韓国人の臓器移植ツアー仲介組織が摘発されたし、iPadが欲しくて親に黙って腎臓を売ってしまった少年という話も話題になった。
（関連記事：「中国人死刑囚の臓器が売られている！韓国で違法仲介業者を摘発」「「iPadが欲しかったから」17歳の少年、両親に内緒で腎臓を売る―中国湖北省」）

しかし、実際に臓器を売ったと確認されるケースでは、いずれも病院やら診療所やら医療機関で摘出されている。その意味でも、臓器を盗るために拉致して殺害したというのは信憑性に欠けていそうだ。