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中国人も「ソーシャル疲れ」=実名制導入前に見えていた微博の陰り

2011年12月20日

2011年12月19日、第一財経日報は中国で「微博疲れ」が始まっていると報じた。


新浪
新浪 / 中国北京-Beijing, China


■中国マイクロブログとその発展

「微博」とはマイクロブログの中国語訳。ミニブログという言い方もあるが、「小博」ではなく「微博」なのだからマイクロブログという表記にこだわりたい。ときおり「短文投稿サービス」という訳語も見かけるが、日本語にしようとした揚げ句、もっとわかりにくくなっているような気もする。

さて、中国のマイクロブログだが、当初はツイッターの模倣からスタート。文字制限も140字と一緒である。だが、現在ではコミュニティ機能やゲーム機能などリッチな機能が追加され、ツイッターとはかけ離れたサービスとなってしまった。

2010年はマイクロブログ元年と呼ばれ、2011年も快調にサービスは普及。マイクロブログ二強の新浪微博、騰訊微博はともにアカウント数3億ユーザーを年内に突破し、そして2012年にはマイクロブログと融合したネットショッピングなどさらに多くのサービスが普及してにぎわっていく……はずだった。


■マイクロブログ実名制、海外サイトへのリンク禁止、属地主義的管理

その勢いに水を注したのが先日、条例が公布された実名制導入だ。気軽につぶやけることが売りのマイクロブログに実名制を要求することで、普及に水が注されるのではないかと懸念されている。すでに登記済みのユーザーがアカウントを抹消されることはないが、身分証番号などを入力しないと3カ月後には「見るだけ、つぶやけない」アカウントになってしまう。

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また北京市の条例は他にもいくつか面白い点が含まれている。OSSCHINAさんの記事で指摘されているが、ICP認証、すなわち中国政府のウェブサイト認証を持たないサイトへのリンクが禁じられている。個々のユーザーのつぶやきにまでこの規制が及ぶのかはまだ定かではないが、あるいは海外サイトへのリンクを含むつぶやきは許可されなくなる可能性もある。

またもう一つ興味深いのは、ネットにさえつながればどこからでもアクセスできるウェブサービスの管理に対して、「属地主義」の方針を明確にしたことだ。新浪微博の管理は本社がある北京市当局が担当する、B2B大手のアリババは本社がある杭州市が担当、将来的には「属地主義」的管理が徹底されることになるだろう。


■マイクロブログに陰り

実名制導入がIT企業の業績に与える影響が懸念されているが、第一財経日報の記事は意外な事実について伝えている。すなわち、実名制が導入されるより前、温州高速鉄道事故で「マイクロブログの威力」が喧伝されていたちょうどその頃に、マイクロブログ離れ、マイクロブログ疲れの兆候が始まっていたという。

「ジョークを言い尽くしたら、有名人は黙って静かに利用をやめる。」これはハルビン工業大学博士課程の于霄さんが新浪微博に対して抱く感想だ。于さんは新浪微博を利用する有名人のアカウントを分析したところ、意外な結果を得た。多くの人にフォローされている人気アカウントのつぶやき数が減少しているというのだ。

また米IT調査企業・アレクサのデータによると、今年8月前後から新浪微博の訪問者数はほぼ横ばい。ユーザーあたりのページ閲覧数、滞在時間数はむしろ減少傾向にある。

20111220_写真_中国_マイクロブログ_微博
*画像はアレクサのデータ。

もちろんこれをもって単純に「マイクロブログの衰退」と決めつけることはできない。アレクサのデータはPCのブラウザからのアクセスを集計したもので、マイクロブログ利用の新たな中心となりつつある携帯電話経由のアクセスを除外しているからだ。新浪微博の携帯アクセス数はすでに全体の40%を占めているという。


■ゾンビ・アカウント

とはいえ、マイクロブログがやや色あせて見えてきているのは事実だと記事は指摘する。問題の一つはゾンビ・アカウント問題だ。

有名人や大手企業は数十万、数百万人のフォロワー数を誇るが、その多くが金で買ったゾンビ・アカウント。いわゆるボットと呼ばれるもので、中に人間はおらず決められた動作を繰り返すだけの存在でしかない。企業のメッセージをつぶやき、それが1000回、2000回転載されたとしても、ボット同士が転載を繰り返しているだけかもしれないのだ。

于霄さんの研究によると、有名人のつぶやき転載回数のうち84%がゾンビ・アカウントによるもの。本当のファンによる転載はわずか16%に過ぎなかった。


■マイクロブログ疲れとROM専

もう一つの問題が「マイクロブログ疲れ」だ。かつて日本でも「mixi疲れ」が話題になったことがあるが、マイクロブログの利用に飽き、アカウントを持っていても利用しない人が増えているという。大事件があった時はマイクロブログに帰り、人の意見を見たり議論したりと利用するが普段は使わない、というパターンの人もいるのだとか。

そもそも中国人のマイクロブログ利用は芸能人のつぶやきを見るための「ROM専」(リード・オンリー・メンバー、読むだけ専門)というパターンが少なくない。日本貿易振興機構(ジェトロ)が「中国マイクロブログ(微博)調査(2011年11月)」という報告書を出しているのだが、そこにある驚くべき数字がある。

6月末時点の数字だが、新浪微博が約2億ユーザー、Twitterが約2億1000万ユーザーとアカウント数がほぼ並んでいた時期がある。今では新浪がだいぶ上にいるはずだが。ところが、である。1日のつぶやき数で見ると、ツイッターは約2億ツイート。新浪微博は2500万ツイートしかない。新浪微博ユーザーはTwitterユーザーの8分の1しかつぶやいていない計算だ。


■マイクロブログは成熟したサービスになれるのか?

毎日経済新聞記事には、ある騰訊微博関係者が匿名でコメントを寄せている。「どんなウェブサービスにも決まった成長曲線があります。ユーザー数が一定数に達した後、ユーザーの疲労感は強まります」と素直にマイクロブログ疲れを認めている。

今後は携帯端末の普及に伴い、マイクロブログは生活の必需品になっていくだろうとの予測。ただし登場したばかりのような新鮮さや活発さは失われるだろうともコメントしている。

ユーザー獲得のために有名人に金を払ってアカウントを開設してもらうなど、「焼銭」(資金投入)型プロモーションを続けてきた中国マイクロブログ業界だけに、一つの転換期が近づきつつあるのかもしれない。それを乗り越えて成熟したサービス、すなわちネットインフラという境地に立てるのか、実名制導入も含めて試練の時期が訪れているようだ。


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