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「民主主義じゃないのに俺たちは豊かになれてしまった」元天安門闘士が語る現代中国(金浪)

2011年12月24日

■新浪微博の実名化に怒りの声を上げるネットユーザーたちは、 何らかの行動を起こせるのだろうか■


燕京啤酒
燕京啤酒 / abon


ブログ「大陸浪人のススメ」 と「KINBRICKS NOW」のコラボ企画「金ブリ浪人のススメ」、略して『金浪』。一つのネタについて、迷路人(安田峰俊)さんとChinanewsが別々に解説してみようという企画です。

安田さんが北京で出会ったある中国人との会話についてのエピソードです。

北京で別件の取材をしていて、偶然に現在40歳の頭脳労働者(記者とかそこら辺の仕事のサラリーマンだと思われたし)と一緒にごはんを食べる機会があった。

祖母が満洲族だったという彼は生粋の北京っ子であり、北京の胡同の風情や、肉を食いまくる北方中国人の習慣の素晴らしさを力説していた。

正直、彼とは意気投合した。ガツガツと飯を食ってビールとタバコをバカバカ開けながら話をしているうちに、彼はこんなことを語りはじめた。



北:
あのさ、1989年の六四天安門事件な。俺は当時は18歳で大学に上がる前だったが、いやー、街に出てガンガンにデモをやったもんだ。こうしないと中国は生まれ変わることができない、そのためには俺たちが共産党を倒さなきゃ、ってね。

俺:

あー、そういうご世代なんですね。なぜ当時はそう考えたんですか?

北:
まさにそんな時代だったのさ。文革が終わってまだ10年ちょっとくらいで、庶民の生活は貧しい。だが、改革開放で官僚やら太子党やらだけが大金持ちになって贅沢をしている。社会への不満は現在よりもずっと大きかった。俺たちは貧乏だったからね。

俺:
なるほど。

北:

あと、時代が時代だよね。当時のソ連や東欧に元気がないのは、俺たちにだってわかった。やっぱり社会主義は間違いで、人間を貧乏にするだけなんだ。逆にアメリカの価値観は何でも正しいはずなんだ。民主主義になれば俺たちも豊かになれるんだぞ、と。はは、単純でかわいいもんだろ? あの頃は若かったよなあ。

俺:

当時の記録映像を見たことがありますが、やっぱりそんな印象でした。

北:
ああ。それで人民解放軍の兵士に散々ぶん殴られてね。6月4日の清場(=天安門事件)があった後には、俺も他の市民もみんな怒っていて、大通りを走る解放軍の戦車に石をぶつけていた。でも、あの時に石を投げていた連中、前の方にいたやつらは捕まってどこかに連れて行かれたな。いまだにわからないんだけれど、あいつらどこに行ったんだろうなあ……。

俺:
……。

北:

もうね、共産党が憎くて仕方なかったよ。庶民に不公平で貧乏な暮らしを強いてきて、それに文句を言ったら「戦車」だ。なんて非道い連中なんだってね。……でもな、最近はそうも言えなくなってきた。

俺:
言論の引きしめですか?

北:

違う、逆だよ。中国に民主主義や言論の自由は相変わらずさっぱり無いのだけれど、経済改革に成功したことで、俺たちは豊かになれてしまったんだ。そりゃあ貧富の格差は非常に大きいし、社会問題は多いけれど、天安門の時よりも社会が格段に良くなっていることも確かではある。民主主義じゃないのに、俺たちは豊かになれてしまった。

俺:

北京の街を見ていると説得力がありますね。10年前と比べるとすごい変化だ。

北:

そうさ。民主主義体制の下で現在のような経済建設ができたか?都市を発展させられたか? 14億人にとりあえずメシを食わせる政治を実現できたか?それができた日本や台湾は幸せだよ。でも中国大陸において、そんなことはやっぱり無理だったと思うんだ。そして、中国共産党は経済発展を成し遂げて「功績を作ってしまった」。その功績もまた決して小さくないんだよ。

俺:
自分たちの生活を良くするために、民主主義は絶対の条件ではなかった。

北:
……ああ。自分の世代も、もちろん現在の中国の20代や10代も、そんな中国を本気で変えたいとは思っていないはずさ。いまの若者はネット上ではいろいろ言っているけれど、実際にデモはしない。だって、そこまで追い詰められてはいないじゃないか。天安門の頃は、もっと本気で社会がどうしようもなくて、貧しかったんだ。

俺:

いま、再びああいう運動をやれるとしたら?

北:
俺は勘弁だなあ。現在の中国で『民主』や『リベラル』を気取っている著名人の多くは、虚栄心やカネや世間体から、ポーズとしてやっていると感じるよ。俺だって、そりゃあ昔は戦車に石を投げていた人間さ。でもね、家のローンとか老後の蓄えとか子どもの教育とか現実的な問題を考えたら、現在の体制の崩壊なんて本気で望めるわけがない。

俺:
少なくとも、いまの中国はそういう「現実的な」問題を考えられるくらいには都市市民が豊かになっていて、それなりの日常が存在する……。

北:
ああ。それは若い連中だって同じだと思うなあ。彼らは、今の中国で大学に入れて、ネットができる子たちなんだから。それに、俺たちの時代と違って彼らは一人っ子だ。俺たちは兄弟が誰か死んでも親を養えたけれど、一人っ子は簡単に死ねない。われわれ中国人の孝道の問題からして、親に迷惑はかけられないだろう。

俺:
説得力ありますね。

北:
まあそういうもんなんだよ。もう一本、燕京ビールを注文したから付き合いたまえ。

*青字コメントは迷路人。

「中国に民主主義や言論の自由は相変わらずさっぱり無いのだけれど、経済改革に成功したことで、俺たちは豊かになれてしまったんだ。そりゃあ貧富の格差は非常に大きいし、社会問題は多いけれど、天安門の時よりも社会が格段に良くなっていることも確かではある。民主主義じゃないのに、俺たちは豊かになれてし まった。」


とはなんとも重い言葉ですね。「中国は革命も輸出せず、飢餓や貧困も輸出せず、外国に悪さもしない。これ以上いいことがあるか」という習近平“失言"に代表される、「経済成長して人民を食わせているのだから中国共産党は正義」という主張を、下からの視点で評したものと受け取りました。
(関連記事:習近平「食わせれば正義論」をどのように批判するべきか?『「壁と卵」の現代中国論』を手がかりとして

私があんちょこ代わりに使わしていただいている名著「壁と卵」の現代中国論』の第7章では、「各国のクロスセクションデータを利用した研究などでも、一国の民主化の度合いと経済成長の間には、直接の相関がないことは通説になっている」と研究動向を紹介しています。

「食えるようになったのだから」「豊かになったのだから」、現体制の崩壊なぞ本気で望めようはずもない。そう考える人は少なくないでしょう。とりわけ中年になり、家族も財産も持つようになった人ならなおさらです。

ですから、問題はそうした状況がいつまで続くのか、いつまで成長を続けられるのか、中国共産党が経済運営におおごけしないのか、まだ家族も財産も持たない若人に希望を与え続けることができるのか、そのあたりにかかっているのでしょう。


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当サイト寄稿者でもある「迷路人」こと安田峰俊さんの新著『中国・電脳大国の嘘 「ネット世論」に騙されてはいけない』が2011年12月15日に文藝春秋社より発売されました。書影クリックでamazonページへ。KINBRICKS NOW寄稿記事、並びに前作の著者インタビューはこちらへ→【寄稿者紹介:迷路人】
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*ネット掲示板引用部分は「大陸浪人のススメ」管理人・迷路人が担当。解説部分はChinanewsが担当しました。迷路人版解説は「大陸浪人のススメ」でお読みください。


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