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地方政府と不動産バブルの仕組み=経済成長は出世の手段―中国(岡本)

2011年12月30日

■地方政府とは?<岡本式中国経済論33>■

*当記事は2011年12月24日付ブログ「岡本信広の教育研究ブログ」の許可を得て転載したものです。


蓝天白云下的广州
蓝天白云下的广州 / llee_wu

■「積極果敢なアクター」中国の地方政府

中国の地方政府について考えてみたいと思います。

梶谷(2011)は、中国の地方政府は「積極果敢なアクター」であるとして捉えています。地方政府のふるまいを確認しつつ、ここでは地方政府は成長を最大化するための経済主体であり、これを「群雄経済」であると定義したいと思います。


■(1)経済学が意味する地方政府


地方政府が存在する意義とは何でしょうか?また地方政府の役割はなんでしょうか?オーツの分権化定理にその秘密があります。

地方政府が存在する意義は、中央政府よりも地方政府の方が地域住民のニーズや選好を把握しているため、地域住民が必要とする公共財・サービスを効率よく提供することができる、というものです。中央政府が各地域一律に公共財を供給しても一部地域にとっては必要でない場合もあります。この場合公共財の資源配分が失敗することになります。したがって地域のニーズや住民の選好という情報を把握している地方政府に、地域の公共財供給を委託する方が資源配分が最適化するということになります。これは定理の名前の通り、分権化の基礎理論となっています。

地方政府の役割は、その地域に住んでいる住民へ公共サービス(衛生、水、図書館など)や地方公共財(道路、橋梁、消防など)を提供することです。そのための財源として地方税を住民や企業に課すとともに、必要であれば地方債を発行することによって財源を確保します。この応益負担と公共財・サービスの供給が資源配分という観点から最適かどうか効率的かどうか、これが地方政府の行動を考える上で重要な視点となります。

とはいえ、地域間で格差が発生することは多々あります。この場合、国の水準(National Minimun)を満たすことができない地方政府があると、中央政府により補助金や交付金が回されて、最低限の公共財や公共サービスが提供できるようにしています。

経済学では中立的な立場から、地方政府を、市場の失敗を補正するために税を徴収し地方公共財を供給する役割として捉えています。


■(2)地方政府の財源が土地?!

中国の地方政府においては、地方公共財の供給のための財源がやや特殊です。財源調達のニュースではこうあります。

地方政府の「赤字」は21兆円に=土地収入減、公共支出増で財政悪化―中国
レコードチャイナ、2011年11月1日

2011年10月28日、北京商報は今年第3四半期時点で、中国地方自治体の「赤字」額は1兆7638億元(約21兆円)に達していると報じた。

第3四半期時点で、国家財政は1兆2182億元(約14兆5000億円)という膨大な「黒字」を抱えている。しかし、地方政府の「赤字」は国の黒字をはるかに上回る規模。合計で1兆7638億元に達している。全国31省・市で黒字を達成したのは、北京市、上海市、浙江省、江蘇省、広東省の5省・市しかない。

地方財政悪化の原因は不動産価格抑制政策により土地売却が困難化し収入が減ったこと、低中所得者向け住宅の建設など公共事業の増大により支出が増加したことがあげられる。裕福な中央財政と債務を増やす地方財政という現状を変えるには、税収分配の構造改革が不可欠となろう。(翻訳・編集/KT)

このニュースによれば、地方政府の財政は悪化していること、そしてそれは土地売却が困難であるため収入が減ったことが示されています。中国の地方政府にとって税とともに土地は財源の重要な柱になっていることを示しています。

次に中国の地方政府の財源について歴史的に振り返ってみます。


■(3)財政制度の変遷
(記述は主に梶谷2011を参照にしています。)


計画経済時代の財政制度は、支出・収入を中央政府が統一的に管理する「統収統支」方式が基本でした。(ただし時期によって違いがあるとともに地方に権限が委譲されていた時期もあります。詳細は梶谷(2011、第1章)を参照。)

改革開放とともに地方財政請負制度が始まります(1980年の「「収支区分、分級請負」の財政管理体制の実施に関する暫定規定」)。これは定額を中央に納めたあとは、地方に財政資金を留保できるというシステムです。これにより地方政府の地方財政に対する徴税・管理に関するインセンティブが上昇します。

ただこれにより中央財政の全国財政に占める割合は減少していきます。中央政府の財政収入が減少するということは、国家の公共財の一律供給に支障をきたす可能性があります。中央政府は財政の安定を図るため、地方政府の反対を押しのけ、1994年に分税制を導入します。

分税制とは、中央固定収入に関わる税(関税、消費税、中央企業管轄企業の所得税など)と地方固定収入に関わる税(営業税、都市維持建設税、都市土地使用税、不動産税、土地増値税など)、および一定の比率で中央・地方間で分配する中央・地方調節収入に関わる税(増値税、自然資源税、個人所得税、地方企業所得税など)に分類して、徴税の規範化と中央政府による財政収入の再分配機能を向上させることを意図しました。また支出についても、安全保障、外交、国家機構の運営費などを中央政府が支出し、それ以外を地方が支出するといった中央―地方の役割分担の調整も行われました。

この結果地方の取り分が減少します。地方政府は「予算外収入」を増加させ、地方政府としての財政安定を目指すことになります。

分税制以降、地方政府の重要な歳入減は、税金(中央からの再配も含む)という予算内収入と地方政府の自主的財源である予算外収入とに分かれました。予算外収入では各種税付加、地方政府が経営する病院やホテルなどの事業体からの収入、地方管轄国有企業の内部留保金などからなっています。

中央政府は予算外収入をそのままにしておいたわけではなく、1990年代の改革を通じて、予算内に組み入れるように透明度を増すようにしてきました。このような中、90年代後半以降、不動産取引にかかわる収入は地方政府の重要な財源としての位置を占めていきます。(中国の土地制度<岡本式中国経済論29>


■(4)地方政府の財源

分税制が導入されて以降、地方税の中に不動産関連の税種目が多く含まれました。例えば

都市土地使用税
固定資産投資方向調節税
都市維持建設税
不動産税
印紙税
耕地占用税
契約税
土地増価税
国有土地有償使用収入税

があります(任2009表1より)。任(2009)によれば、不動産関連税は全国の財政収入の中で5%程度ですが、地方政府の財政収入では12%に達します。そして不動産事業が活発な、北京、上海、広州などの大都市ではさらに重要な財政収入となっています。地方政府の中でも省(直轄市)級政府の取り分よりも県級政府の取り分が多く、基層政府にとって重要な財政収入源となっています。

このような税収入以外にも予算外収入としての土地収入があります。土地出譲金(土地の譲渡費用)、土地徴収管理費、耕地開墾費、土地登記費、不動産質量監督費などさまざまな名目で徴収される費用(手数料)が存在します(任2009)。同じく任(2009)によれば、浙江省のとある調査結果を引用しながら一部の県では土地出譲金の収入が予算外収入の6割を超えると報告しています。

地方政府にとって土地はカネのなる木です。経済成長のために必要な投資資金は、税収からではなく土地という不動産に関する費用徴収による収入で、賄われているということを意味します。

2008年の金融危機以降、地方政府はさらなる錬金術を生み出します。それが融資プラットホームです。これは4兆元の内需拡大策を中央から求められたときに地方政府が編み出した錬金術的手法です。

融資プラットホーム(「融資平台」)を簡単に説明してみましょう。

地方政府が、道路建設をしたいと考えます。とある土地区画を道路建設用地として土地の開発権限を、地方政府が出資した○○道路建設集団という公営企業に与えます。公営企業は、地方政府のお墨付きを得ているので、銀行から融資を受け取ります。受け取ったお金で道路建設に取り組みますが、開発する道路周辺の土地を住宅地にしたり、企業用の工業団地にしたりして収益を得ます。その収益を銀行融資への返済にあてるというものです。

簡単に言ってしまうと、地方政府の企業が銀行からお金を得て土地資産を開発することによって返済と開発を進めようとする、きわめて土地バブルを誘発しやすい構図をもっています。これが近年の不動産バブルの元凶だとも言われます。


■(5)債券発行

中国の地方政府が融資プラットフォームのような不動産バブルを誘発しやすいシステムを採用する理由は、開発のためのインフラ整備における税収不足、そして地方政府による債券発行が禁じられていることが考えられます。

そこで、最近、中央政府は地方政府の債券発行を認める決定をしました。

中国地方政府が土地中毒から脱却か?地方債解禁で財源補てん
サーチナ、2011年10月24日

 <中国証券報>中国国務院はこのほど、上海、浙江、広東、深センの4省・直轄市に地方債の自主的な発行を試験的に認めると発表した。この決定について専門家は、不動産引き締め策によって主力財源である土地譲渡収入を奪われた地方政府の懐を豊かにし、不動産引き締め策に対する地方政府の積極性を引き出すことができると分析している。21日付中国証券報が伝えた。

 地方債は現在、財政部が代理で発行する仕組みがとられているが、4省・直轄市に限って自主的な発行を試験的に認める。地方政府の財源確保に新たな手段を提供することで、地方政府の資産と負債の均衡を促すことが期待される。

 関係者によると、財源を安定して調達できるようになれば、地方政府は財源確保のために土地使用権の譲渡を急ぐ必要がなくなり、中央が進める不動産引き締め策の有効性をより高めることができる。

 ただ試験都市の一つに選ばれた浙江省の省都、杭州市の政府関係者からは、「地方債の償還財源を土地収入に頼る事態にも陥りかねない。地方債の自主発行が、土地収入に過度に依存する地方政府の体質を変えられるとは思わない」という声も出ている。(編集担当:浅野和孝)

中国の地方政府が「地方債」で資金調達 バブル崩壊懸念で不動産依存から脱却 
MSN産経、2011年11月17日

 【上海=河崎真澄】中国の地方政府が土地使用権の売却など不動産に依存してきた財政を見直し、「地方債」の独自発行で資金調達の多様化を図り始めた。上海市が15日に中国で初めて地方債を独自起債したのに続き、18日に広東、21日に浙江の両省も発行に踏み切る。不動産バブル崩壊懸念で、タダ同然だった農地を工業用地として使用権を売却し、巨額資金を得る“錬金術”にかげりが見え始めた上、債務保証した建設プロジェクトが不良債権となって地方財政の重しになる事態が懸念されている。

(中略)

中国では従来、地方政府の銀行借り入れや起債が禁じられて収入源が限定される一方、インフラ整備や教育、社会保障負担など支出圧力が増大しており、資金繰りが悪化。多くの地方政府が土地の使用権売却収入への依存を強め、農地の乱開発や強制収容、地上げの問題が深刻化していた。

一方、北京の中央政府は、国債と並行して地方債を代理発行してきた。中央政府は今年に入って約1400億元の地方債を代理発行し、地方に財源として提供してきたたが、資金需要に対応しきれなかった。

ただ、今後も地方債の独自発行が相次ぐかは微妙だ。中国の31省・直轄市の地方政府の財政赤字は、今年9月末段階の合計で約1兆7638億元とされ、国家の財政黒字約1兆2182億ドルを大きく上回る。地方財政全体では昨年末の時点で10兆元以上の債務残高があり、その30%前後は不良債権化の恐れがあると指摘される。地方政府によっては投資家が高い金利を求めることも予想され、発行のハードルとなりそうだ。

このように、地方債を一部地域、とくに不動産開発需要の高い地域(上海、広東、深セン、浙江)に発行を認めることで、①不動産バブルを抑制すること、そして②地方政府の安定した財源確保、を図ろうと意図しているようです。

しかし、これも問題がありそうです。それは地方財政の赤字化です。どの国もそうですが、自地域の財政収入不足を地方債発行で行なった場合、中央政府がなんとかしてくれるだろうという考え(ソフトな予算制約)から、適切な金額以上の債権発行を行う可能性があります。また記事にもありましたように、財源の多様化ではなく地方債返済の担保として、あるいは将来的な返済のためにより一層土地に依存した財政状況になることも考えられます。


■(6)結論

現時点で、中国の地方政府とは何なのか、考えてみましょう。

まず、中国の地方政府は、地方発展のための公共財(インフラ)供給を積極的に行うため、地方財政請負制度、分税制の下で、自地域財政の収入増を目指していました。次に、上海、北京などの大都市は都市化に伴う公共財供給のために、旺盛な資金需要が発生し、土地開発、融資プラットフォームによって財源を確保しました。

そして、土地バブルを抑制する、地方財源の多様化を図ることを目的として、上海、広東など土地バブルが誘発されており、財政黒字の地域だけ地方債発行を認めています。中国は経済発展が著しい国であるため、静学的に地方政府の公共財供給とその負担の最適性を論じることは難しそうです。成長が続く限り、最適性も変化すると思われるからです。

それでも、地方政府は経済成長を最大化させることを目標に、そのための財源を確保するという役割、あるいは経済主体であると思われます。これを梶谷(2011)は「積極果敢なアクター」と評しました。

経済成長最大化という行動は、指導者(地方政府の幹部)の人事評価に地域経済運営が含まれているからだと思われます。先日も『明報』で習近平が地方幹部の評価は経済総量の発展だけではだめだ、と指摘しています。裏を返せば、地方政府指導者の評価は経済状況が大きく反映されているという現状があります。

各地方の指導者は、中央(北京)を目指して、熾烈な経済成長競争を繰り広げています。これがさらなる財源確保のアイデアを生み出し、実行されます。そしてその方法は他地域にも普及していきます。

中国の歴史を振り返ると、戦乱時代には多くの群雄が割拠し、中国統一のため中央を目指しました。地方政府の指導者たちも同じような行動原理が働いているように思います。したがって地方経済は「群雄経済」と呼べるような様相を呈しています。


<参考文献リスト>

梶谷懐(2011)『現代中国の財政金融システム -グローバル化と中央-地方関係の経済学-』名古屋大学出版会
任哲(2009)「中国不動産業界における政府関与のジレンマ-中央・地方関係の視点から」『アジア研究』Vol.55、No.1.
中国における地方政府債務問題の現状と展望~短期的影響は限定的だが、課題として残る財政制度の改善」『みずほアジア・オセアニアインサイト』2011年9月28日発行

*太字装飾はChinanews。


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*当記事は2011年12月24日付ブログ「岡本信広の教育研究ブログ
」の許可を得て転載したものです。


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