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「中国のYOUTUBE」を目指す戦いがついに決着=動画配信サイト巨頭の合併劇と今後の展望

2012年03月22日

2012年3月、激しい抗争を繰り広げてきた中国動画配信サイトの雄、優酷網と土豆網が合併を電撃発表した。


20111215_土豆網_日本アニメ_テレビ東京
土豆網、テレビ東京特設ページ
 

2012年3月12日、優酷網と土豆網は株式交換による合併を発表した。本サイトでも注目してきた「版権戦争」の最中という突然の合併劇は世間を驚かせるものとなった。すでに日本語でも多くの記事があり、出遅れ感は否めないのだが(例えば山谷剛史の記事「中国2大動画サイト「優酷網」と「土豆網」が突如合併、小さくない日本のコンテンツホルダーへのインパクト」東洋経済オンライン、2012年3月22日)、2012年3月19日付財新網「優酷・土豆=意外な婚姻」という記事が面白かったので、この記事を主に参照しつつ合併問題を取り上げてみたい。


■Youtubeコピー・サイトの誕生

2005年2月、YOUTUBEが創業。そしてそのわずか2カ月後に中国版YOUTUBEこと土豆網が生まれている。今や中国最大の動画配信サイトとなった優酷網が誕生したのは2006年6月のことだった。

米国で流行ったサイトをいち早くコピーし、中国に持ち込む。ネット検閲という貿易障壁により海外企業が参入できないうちに基盤を築く。これが中国IT業界の定石となっている。動画配信サイトもその例外ではない。雨後のタケノコのような勢いで生まれていった動画配信サイトの群れは覇権を目指して戦い、そしてYoutubeコピー系のサイトは今や土豆網、優酷網を残すだけとなっていた。

ICQコピーから8億人近い登録ユーザー数を獲得するにいたったQQ、ツイッター・コピーから一大ムーブメントを巻き起こした微博など、中国のコピー・ウェブサービスに成功例は多いが、Youtubeコピー・サービスはユーザー獲得という点では合格も、利益を上げるという点では赤点が続いていた。


■動画配信サイトの構造的問題

それというのも動画配信サイトはコスト高という体質的な問題があるからだ。第一のコスト要因は「帯域」。ユーザーを獲得すればするほど、滞在時間が延びれば延びるほど、サービスが確保しなければいけないネット回線の帯域幅は膨れあがることになる。

中国最古のYoutubeコピーサイト・土豆網が、優酷網に追い抜かれ決定的な差をつけられたのも、帯域問題が大きな要因になったという。2008年の世界金融危機後、資金調達が困難になったことから土豆網は帯域を制限する方針をとった。一方、優酷網は帯域拡張への投資を続け、ユーザーの快適な視聴環境を確保。土豆網はシェアの逆転を許した。

第二のコスト要因は「版権」。3~4年前から中国国内のコンテンツホルダーが動画配信サイトの海賊版放送を訴えるケースが増えている。いまだに動画配信サイトには海賊版がいっぱいだが、しかし正規の版権を取得する動きも広がっている。各社のコンテンツ争奪戦により版権価格は急騰。4年前だったらテレビドラマ1話あたり3000元(約3万9000円)だった価格が、2010年には20万元(約260万円)に。2011年の人気ドラマ「新環珠格格」(全98話)は、捜狐が3000万元(約3億9000万円)という価格で落札したという。そればかりか、さらに5000万元(約6億5000万円)を投じて、ドラマの広告を打ったとか。版権獲得戦争は驚くほどの過熱ぶりを見せている。


■焼銭戦争の果てに

中国語には「焼銭」というステキな単語がある。もともとの意味は冥界の死者に仕送りするため、紙で作ったお金を焼く風習を指すが、経済界、とりわけIT業界ではシェアトップを目指して赤字を垂れ流しながらも拡大競争を続けることを意味する。動画配信サイト業界はIT業界の中でもとりわけ「焼銭」がシビアだ。

「焼銭」の原資はベンチャーファンドの出資だが、いつまでもそれでは乗り切れない。どかんとキャッシュを確保できる上場が必要だった。先手を打ったのは優酷。2010年12月にナスダックに上場。2億3300万ドルを調達した。2011年5月にもさらに4億ドルを調達した。

優酷網から遅れること半年、土豆網も上場したが、その時、すでに中国株バブルは崩壊した後。上場初日に発行価格を割り込む惨状で、再融資はできない苦境に追い込まれた。もともと土豆網は優酷網よりも早く上場する予定だった。上場が遅れたのは土豆網の王微CEOの前妻が起こした財産分与訴訟。全株式の38%を財産分与せよとの訴訟が片付くまで上場はストップしてしまった。

結果、2011年末時点の現金保有額は優酷網が22億9200万元、土豆網が8億元弱と大差がつけられた。ちなみに2011年の土豆網の業績は収入こそ5億7200万元に達したが、コストを差し引くと5億1100万元の赤字。手持ち資金ではあと1年半そこらしか運営できない状況となっていた。


■巨大合併劇でも終わらない動画配信サイト戦争

業界1位の優酷網と業界2位の土豆網の合併。今後、どのような影響が出るだろうか?まず気になるのが「版権戦争」への影響だ。昨年末、テレビ東京は土豆網にナルトなど人気アニメの放映権を提供。その後、優酷網と土豆網が互いの版権侵犯を罵倒しあった戦いにも参戦した。敵と味方の合併で、テレ東的にははしごを外された格好となってしまった。
(関連記事:テレ東も参戦した中国「版権大戦」=海賊版王国に変化の兆し

またビッグプレーヤーの合併によりこれまで高騰してきた版権価格がどう動くのかも懸念されている。とはいえ、実は中国動画配信サイト業界のプレーヤーは優酷網、土豆網のYoutubeコピーサイト上がりのメンツだけではない。大手ポータルサイトをバックにした捜狐、中国検索最大手・百度の愛奇芸、QQを擁するテンセントの騰訊視頻、新興の楽視網、さらには中国中央電視台のネット版CNTVと強力なプレーヤーがずらり。

動画配信サイト業界の趨勢もまだ固まっていない。ユーザーがアップロードするYoutubeタイプ(といいつつ海賊版タイトルがそろっているが)、有料配信のHuluタイプ、正規コンテンツを広告モデルで回収する折衷型と最終的な勝者は見えない。また今度こそスマートテレビが普及しそうな今、テレビとネット配信の戦いも本格化しそうな勢いだ。

現在のユーザー数では優酷網が圧倒しているとはいえ、そのシェアはまだ36%。今回の合併劇は大きな意味を持つとは言え、動画配信サイトの覇権を賭けた戦いも、正規版権を奪い合う戦いも、そして他社の権利侵害を避難しあう戦いもまだ続くのではないだろうか。

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