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警察発表とネットの噂、どちらを信じます?交通事故に見る中国羅生門的世界

2012年03月25日

2012年3月22日、広東省肇慶市懐集県で、「群衆」がパトカーにレンガを投げつけフロントガラスを破壊する事件があった。その原因について政府発表のニュースとネットに流れる噂が180度の食い違いを見せている。


■羅生門事件が多発する中国

世界で通用する日本語は「KAROSHI」「BUKKAKE」だけではない。「RASHOMON」(羅生門)も英語や中国語で結構よく出てくる言葉だ。黒澤明の映画「羅生門」が語源で、複数の当事者が語る出来事がまったく異なる様相を示すことを意味する。特に中国では当局発表に信頼性がおけないためかわからないが、ニュース記事に「羅生門」という単語が使われているケースが多い。

今回取り上げる懐集県の交通事故はまさに典型的な羅生門事件である。


■ネットの情報

20120325_写真_中国_交通事故_羅生門


ブログ・中国茉莉花革命の記事「【オリジナル記事】広東省懐集県で1000人が交通警官を包囲、パトカーを破壊【写真8枚】」によると、事故の経緯は以下のとおりとなる。

2012年3月22日午後2時、懐集県崗坪鎮中心部で事故が起きた。ナンバープレートを付けていないバイクを捕まえるため、交通警察は危険をかえりみずに街路を追跡。子ども2人の腕が折れる事故が起きた。民衆と交通警官は言い争いになったが、警官は謝るどころか老人を殴り、けがをさせた。これに人々は怒り、1000人近くが集まって警官を包囲。パトカーを破壊した。

黄炳金副県長が警官400人を率い現場に急行。暴力で人々を追い払った。多数の負傷者がでたほか、十数人が逮捕された。

「正義を遂行するべく狭い街路をぶっとばしたパトカーが子どもとぶつかった」という筋書きだ。

ブログ・中国茉莉花革命は昨年、ちょっとだけ盛り上がった「中国ジャスミン革命」の広報サイトの一つ。マスコミが報じない、ネットの噂をまとめてくれる記事も多いので重宝している。もちろんそこまで信頼性があるわけではない。

記事には写真が掲載されているが、その写真の初出であるマイクロブログ(微博)の書き込みをチェックしてみると、

22日午後2時、交通警察がスピード違反を検査。違反者を見つけるとその前に回り込み、ぶつかって押し倒した。これに起こった周囲の市民たちが警官に詰めより、罵倒を浴びせた。さらには警官を殴り、パトカーを破壊する事態に発展。また携帯で録画する市民もいた。その後、警官も市民を殴り始めた。

との記載が。うーむ、全然違う。


■政府発表

22日、県警察局は事件に関する見解を公表している。

22日午後1時50分、ナンバープレートをつけていないバイクを運転する男が電動バイクと衝突。電動バイクに乗っていた金さんは左手に擦過傷を負った。また電動バイクのミラーも破損している。事故後、バイクは逃走した。
事故を目撃した警察は、被害者を助けて電動バイクを道の脇に移動させた。その時、現場にいた少数の人間の扇動により、事故と無関係の野次馬が警察を包囲。警察が被害者に賠償するよう言い立てた。群衆は警官を罵倒し、車から引きずり出したほか、レンガを投げつけパトカーのフロントガラスを破壊した。
野次馬の数はどんどん増え、現場は2時間あまりにわたり渋滞した。通報を受けた黄副県長及び警官が鎮共産党幹部とともに住民の説得に当たった。だが人々は説得を聞き入れなかったため、警察は道をふさいでいた13人を現場から連れ出し、交通秩序を回復させた。

当局の説明だと、「優しいお巡りさんが被害者のバイクを動かすのを手伝ってあげたら、警官が交通事故を起こしたとデマを流され、賠償しろコールを浴びせられる事態に」ということに。


■どっちにしてもありそうな話?

ド田舎のどうでもいい話だからか、それとも報道規制が入っているのか、マスコミでの報道はなし。しかし懐集県のローカル・ネット掲示板では結構な話題に。面白いのがこれほどの人が集まった事件なのに、現地人の集まるネット掲示板でも「おれは見ていた!真相を教えてやる」という書き込みがないこと。みなみな伝聞情報をもとにいろいろ言い合っている。

「スピード違反のバイクにパトカーが体当たり、民草が激怒」というのもありそうな話なら、「ひきにげ野郎が逃げてしまったので、助け起こしてくれた人を犯人に仕立て上げて賠償金をねだろう」というのは中国でよく聞く話。相手が警官というのがちょっと特殊だが。

真相を知るためには、当事者を捜し当てて事実を特定していく作業が必要だが、おそらくはそんな機会もないだろう。かくしてこの羅生門事件は、「中国の警官ひどすぎ」と「中国の民度低すぎ」の両方の根拠として使える物語になるのではないか。

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