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アップルはなぜ不動産会社にならないのか?本業軽視の中国民間企業と政府権力

2012年04月15日

「アップルはなぜ不動産事業をやらないのか?」と聞かれても、日本人ならば大半の人はなんじゃそりゃと意表を突かれるのではないか。だが中国ではそうではない。


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2012年4月2日付フィナンシャル・タイムズ中国語版のコラム「なぜ中国民間企業は多角化を偏愛するのか?」がなかなかに興味深い内容だったので、ご紹介したい。

中国民間企業の多角化について簡単に紹介しておくと、中国では資本家が金を持つやいなや、いろんな事業に手を広げるというのはありふれた話。記事「中国不動産会社が破産申請=「不動産バブル崩壊か!」と盛り上がる一部メディア」で紹介した兪中江さんの会社は、香料・油脂の製造からスタートし、貿易やら不動産やら米取引やらと事業を多角展開。本業の香料生産は順調だったようだが、他の事業で焦げ付きを出して破綻してしまった。

なぜ中国の企業家はこれほど多角化が大好きなのだろうか?まずは記事のざっくりとした要約を。


■なぜ中国民間企業は多角化を偏愛するのか?

■なぜアップルは不動産事業に進出しないのか?

2012年4月1日から3日にかけ、海南省瓊海市でアジア版ダボス会議ことボアオ・アジア・フォーラムが開催された。「中国民間企業はなぜ多角化経営するのか?」が話題に上げられたという。

多角化こそ中国民間企業が貴ぶもの。多角化で成功を収めたGEのジャック・ウェルチ元会長の人気が高いのもそのためかもしれない。1日の議論では春華資本の胡祖六理事長が「中国の企業家の多くは、事業を専業化していたとしてもそれはリソース不足、人材不足のために多角化できないためだ」と指摘。そしてこう付け加えた。「アップルは今や時価総額世界一の企業だが、きわめて専門的なIT企業だ。手持ちのキャッシュも1000億ドル以上と豊富。ではなぜアップルは不動産事業に進出しないのだろうか?」、と。


■中国人の民族性?それとも……

あるいは中国人はギャンブル好きという文化的な原因なのだろうか?だが、同じ中華圏である台湾では事情は異なるようだ。フォーラムに参加した台湾の企業家は、競争が激しい台湾では生き残るために専業化することが多いと発言。多角化するにしてもまず本業の基礎を築いてからだという。

近年、中国アパレル企業の多角化が驚くほどのペースで進んでいる。中国杉杉集团の鄭永剛理事長は専業化の必要性を否定せず、「知らない分野に進出しても失敗するだけ」と発言したが、一方で「中国民間企業は有望な業界への参入を許されてはいないので、多角化するしかないのだ」と新たな問題を提起した。もし銀行のような大分野への参入が許されるならば、必然的に専業化する」、と。この言葉から中国民間資本の置かれた苦境が読み取れるだろう。


■市場の不確定性に対応する西側企業家、政策の不確定性に対応する中国の企業家

多元化、専業化は通常、企業戦略の問題だが、中国では制度の問題となる。起業環境は日々変化し、経済政策の変化も激しい。業種の盛衰も先が読めない。こうした高度に不確定なリスク社会において、企業が短期間に資金を回収しようと考えるのは理性的に見て必然の選択だろう。ならばある業種への素早い参入、そして素早い撤退にもまた道理があることになる。リスク分散を考えれば自然なのだ。

市場にはリスクがつきものだが、そのリスクにも種類がある。経済学者・張維迎によると、不確定性は市場の不確定性と政策の不確定性とに分けることができる。そしてイノベーションは技術・商業のイノベーションと制度のイノベーションに分類される。中国の企業家は政策の不確定性と制度のイノベーションを追求し、西側の企業家たちは市場の不確定性と技術・商業のイノベーションを追求する。

政府に対応、あるいは従うことが企業家にとって最大の課題である社会では、さまざまな形で降りかかる権力の関与やアクシデントに企業家は振りまわされ、疲れ果ててしまう。


■景気減速の今が中国民間企業のチャンス

もっとも欠点があるということは何も悪い情報とは限らない。経済成長が減速している現状は、民間企業にとってはメリットとなる可能性もある。中国民営企業連合会の保育釣会長は、2012年の民間企業経営状況は好転すると断言した。なぜならば、中国の民間企業はこれまでも国の経済状況が悪い時期にこそ成長してきたからだ、と。

温家宝首相は2012年は「最も困難な1年になるだろう。しかし最も希望のある1年でもある」と発言した。現在、中国経済はハードランディングのリスクと産業構造転換の苦しみという2つの課題に悩まされている。今後も政府投資が成長を牽引する従来の道を踏襲するのか、それとも持続可能な発展の道を歩むかの分岐点に差し掛かっている。複雑な問題だが答えは案外シンプルかも知れない。そう、中郷経済振興には多額の投資は要らない。民間資本に対する規制を緩めればそれでいいのだから。

■政府がみんな悪いんだ!

記事の主張をざっくりまとめると、

政策によってある業界の盛衰は決定的に左右され、先が読めない

だからあわてて資金回収をする腰を据えない商売ばかり

一つの事業だといつ潰れるか分からないから、複数の事業に手を出しておく

というもの。規制と権力の干渉を減らせば、中国民間企業は他国同様、腰を据えてのじっくりとした経営で成長するはずなのにね、というお話だ。


■民間企業も甘い汁を吸っている?!

「民間企業は政府に振りまわされてかわいそう」的な書き方だが、これはこれで甘い汁を吸っているのが現状だ。なんらかの事業に成功して名士となれば、権力者とのコネができる。そのコネをてこにしてさまざまな事業への認可を獲得し、多角化の道を歩んでいくわけだ。

中国の地方には有象無象の中小不動産開発業者があるが、その多くがコネ・レベルを高めて、儲かる不動産分野に進出した企業だったりする。また最近はやりの民間金融で、「年利30%、40%は当たり前!」という明らかに怪しげなうたい文句に引っかかる人が続出するのも、「コネ・レベルが高い人ならば、それだけの金利を支払ってももっと儲けられるおいしい話に加われるに違いない」という発想がある。

「一所懸命」の日本的美徳からはほど遠い中国の現状。産業構造転換が課題の今こそ、いろいろと改革しなければならないはずだが、広大な中国の大地にがっちりと根を張った権力とコネのネットワークを分解することは果たして可能なのだろうか?

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