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2012年08月12日
Kaifeng | 開封 / takwing.kwong
■北宋の古都の町おこし
魏(戦国時代)、後梁、後晋、後漢、後周、北宋、金と7つの王朝が都を構えた開封。北宋時代は世界最大の都市であった。しかし今では軽工業と観光を産業とするたんなる地方都市だ。しかも軽工業はいまや大不振。観光業も伸びているとはいえ、お隣の洛陽が年間のべ3780万人を受け入れているのに対し、のべ2800万人と太刀打ちできないのが実情だ。
この窮地を打開しようというのが今回のプロジェクト。平屋が並ぶ旧市街地・20平方キロを再開発し、北宋時代の街並みを再現しようとするものだという。
■費用は1兆円超に
問題は費用。たんに空き地にテーマパークを作るわけではなく、今現在人が住んでいる旧市街地を再開発して古い街並みを再現しようというのがこのプロジェクトの主眼。なんと十数万人の住人が立ち退きすることになる。その費用は最低でも1000億元(約1兆3000億円)になるという。
年間予算50億元(約650億円)の開封市にとって、常識的にはとても不可能に思える巨大プロジェクトだが、すでに計画はスタートしている。今年だけで3万5000世帯が立ち退きする予定。4年以内に土地収用を完成させる計画だ。
中国ではいかにお上が力を持っているとはいえ、住民も最大の財産である住宅をそう簡単に明け渡すことはない。立ち退き補償金、あるいは代替住宅の提供は一定の基準に従って産出されるのだが、住宅なのか、商業地なのか、あるいは登記書にない建物や部屋をどうカウントするかなどなどもめ事のタネはいっぱいだ。
例えば、平屋建ての家に住んでいるのだが、部屋が足りなくなったので庭に別棟を建てているというのはよくある話。違法建築である別棟に補償金を支払う必要はないと主張する当局と、実際に生活しているのだから補償金をもらわないと引っ越せないと主張する住民とのバトルなどはしょっちゅうだ。
短期間での膨大な数の立ち退きを完了させるとなると、これは地上げ屋さんにとっても千載一遇の大プロジェクトになるのだろうか。中国全土から一流の地上げ屋のみなさんが集結……といった絵が見られるかもしれない。
■お財布は銀行
1兆円を超える費用は基本的に銀行融資でまかなう方針だという。地方財政を危うくする元凶と批判されている融資プラットフォーム、すなわち政府旗下の企業が土地を担保にして銀行融資を受ける仕組みが採用されるという。
また民間の不動産開発企業のお財布もあてにされているようだ。古都の姿を再現するため、再開発後の建物は高層化が許されないなどの制限があるが、別に新たな工業開発区を作り、そちらの土地を安く譲渡するという条件で、旧市街地の再開発に企業を呼び込む予定になっているようだ。
■今がチャンスと暴走する地方政府
ひなびた田舎町に不相応な巨大観光開発プロジェクト。あまりのぶちあげ感にちょっと微笑ましくもあるのだが、実は今、各地でこうした地方政府発のビッグプロジェクトが次々と発表されている。
7月には湖南省長沙市が8200億元(約10兆6000億円)の投資計画を発表して話題となった。こちらもお財布は銀行。貴州省も今後10年間で10兆元(約130兆円)を投じる観光開発計画を発表している。
中国経済の先行きが不透明になるなか、中央政府は引き締め路線の緩和に踏み切ったが、これ幸いと地方政府が景気の良いプロジェクトをばんばんぶち上げているもようだ。ぶちあげられたプロジェクトは実際に資金が確保できるかは不透明で、貫徹できるかは謎だが、引き締め路線が緩和されている間に許可をとってしまえ、後はなんとかなる、という見切り発車感がすばらしい。
開封のプロジェクトにしても古都テーマパークにしては大がかり過ぎる。観光開発を隠れみのに、旧市街地再開発をやりたかっただけじゃないのかと邪推したくなる。土地収用を全部済ませてから「やっぱり金が足りないので古都テーマパークの規模は縮小します。残る地域は普通にマンション立てて売りますわ」という展開などがありそうな予感。
すきを見せれば速攻で暴走しようとする地方政府の皆々様方。こういう人たちをうまくてなづけ、狙ったとおりの政策効果をあげなければいけない中央政府の苦労がしのばれる。
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