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「剣からしたたる血は3滴まで」細かすぎる中国のマンガ輸入検閲=ONE PIECEを題材として

2012年12月21日

■中国のマンガ輸入検閲~ONE PIECEを題材として~■

P8053879
P8053879 / NickEast


都市快報がマンガ『ONE PIECE』を事例にして、中国のマンガ輸入検閲に関する記事を掲載しているのだが、これがなかなか面白いのでご紹介。あまりに面白すぎたせいか、元記事は削除。東方早報など転載したメディアも記事を削除しているので、中国検閲当局的にはちょっとまずい話が書いてあるのかもしれない。

日本人には自明の部分は省略し、ざっくり訳したものであることを明示しておく。ポイントとしては、

・正規版権を持つ出版社の『ONE PIECE』単行本、関連本の販売部数は2012年で60万部
・マンガ輸入にとって最大の難関は当局の許可を得ること
・年に5タイトルまでとの枠がある
・検閲を担当するニュース出版総署の細かすぎる修正要求

といったところだろうか。


■刀に着く血液は3滴まで?!中国出版社、『ONE PIECE』輸入について語る
都市快報(グーグルキャッシュ)、2012年12月19日

◆ONE PIECE人気
ONE PIECE(中国語訳は『航海王』、または『海賊王』)の人気のすごさを想像することは難しい。漫画連載開始から15年、最新アニメ映画「ONE PIECE FILM Z」は公開初日に7億5000万円の興行成績をあげた。日本在住の中国人ネットユーザーが「ONE PIECEと比べれば、同時期上映の「ホビット」なんてまるで空気」のよう」と冗談を言っているほどの人気だ。

中国では杭州翻翻動漫文化芸術有限公司(以下、翻翻動漫)の『ONE PIECE』正規版権取得からすでに6年が過ぎた。石膏人民美術出版社の編集者・馮瑋さんは2006年の中国語版スタート時点からの担当。当時は日本マンガについて知識も興味もなかった27歳の女性が今では娘を持つ母親となった。馮さんは子どもに「まもって守護月天」や「ウルトラマン」などのアニメ・特撮を見せるばかりか、自分も他のファンと同様、ネットでマンガの連載を追いかけている。「余暇はマンガに占領されそうです」と馮さんは笑う。

「自分が好きなのはギャグマンガや少女マンガです。「魔王的父親」(べるぜバブ)、講談社の「有你的小鎮」(君のいる町)、白泉社の「会長是女僕大人」(会長はメイド様)とかです」。

現在、浙江人民美術出版社が出版するすべての書籍の中で、『ONE PIECE』は最大の部数を誇る。2012年はマンガ及び関連書籍で60万部を販売した。重版印刷数は100万部弱に達し、今もなお続々と版を重ねている。


◆マンガ輸入の最大のハードルは検閲

12月3日にオリコンが発表した2012年コミックランキングのトップ3はONE PIECE、黒子のバスケ、NARUTO。すべて集英社だ。そして中国本土における集英社唯一の版権代理企業である翻翻動漫は、すでに「ONE PIECE」「遊戯王」「家庭教師ヒットマンREBORN!リボーン」などのマンガを中国に送り出してきた。来年は「トリコ」「黒子のバスケ」など人気マンガ及び10タイトル以上の正規版電子マンガが発行される予定だ。

慎重な日本人は簡単に版権を任せてくれない。しかしながら、翻翻動漫にとって最大の難題は日本から版権を獲得することではない。「出版総署の認可を得るのが、マンガ輸入において最も困難で、時間がかかる過程になります」と馮さん。「中国本土のマンガ輸入枠は年4~5タイトルしかありません。当時、私たちが『ONE PIECE』1~20巻を出版しようとした時、認可、修正、交渉に半年以上かかりました。」

翻翻動漫で版権輸入を担当する高級マネージャー、沈春燕さんも、認可には最低でも3カ月、最長で1年が必要だと認める。国情の違いから、中国国内の検閲は往々にして「青少年の成長に利する」ことを重視する。ゆえに絵の修正は避けられないという。

例えば2006年、『ONE PIECE』第1巻の認可を得る時のこと、剣士ゾロの武器である「和道一文字」の切っ先をもともとの尖っている絵から丸くするように要請された。また剣から流れる血は3滴以上になってはならないなど、細かく指導されたという。

また『ONE PIECE』第1巻には主人公ルフィが自分の顔に傷を付けるシーンではあいまいに見せるよう要求された。もともとは刃が顔を傷つけるシーンが描かれていたが、刃は顔の横を通り過ぎるだけ、次のコマで突然傷ができることで読者が想像できるようにするべき、と要請されたという。


■日本人も細かすぎる

ここまでで記事の前半。この後に「日本人は一切の修正を許さないネタがある。

・ONE PIECE関連本で金獅子海賊団の旗がバロックワークスのマークと入れ替わっていたが日本人は修正を許さず間違ったままで出版するよう要請してきた。
・翻訳本の見本を集英社に持っていったらばらばらに分解されて1ページずつ日本語版と比較された。定規で吹き出しの大きさまで測られた。

というエピソードが。面白いのは「!!!?」など感嘆符や疑問符を連続使用する場合の処理。中国は政府が定めた符号使用規定があるため、そのまま掲載すれば”間違った中国語が掲載された本”になってしまう。結局、3個までならば連続で使用してもいいという内規を作ったのだとか。

このパート、そしてこの記事全体が律儀な日本人と細かすぎる修正要求を突きつける当局との板挟みになる中国企業というノリで描かれている。個人的には「コネ・パワーで中国当局の認可を得るだけのお仕事で、中間マージンがっぽりの中国企業許さまじ」というイメージがあったのだが、「認可を通すのも大変でござる」といいう反論はなかなかに面白い。日本側担当者と中国側担当者の口論調対談とかあれば、ぜひぜひ読みたい。


■この記事のどこが問題だったのか?

ラストのネタが日本の漫画雑誌の価格。集英社の分厚い月刊誌ジャンプSQを例に、この価格、この紙の薄さ、この印刷精度で雑誌を作ることは中国ではまだできないとの説明あり。そして「マンガの輸入は本当に大変なんですよ。だからマンガ好きの人には正規版を買ってもらいたいです」という沈さんのコメントでシメ。

大変面白い記事なのだが、気になるのは何がひっかかって記事が削除されてしまったのかという点。中国ネット民の間で「血は3滴まで、とかそんな無意味な検閲しているの?!バッカみたい」と話題になったのがまずかったのだろうか。なにせこの記事で怒るとしたらニュース出版総署、新聞社を直接管轄する立場にあるだけにいくらでも無理を言える。

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