• お問い合わせ
  • RSSを購読
  • TwitterでFollow

「娘にiPadを買ってやろう」出稼ぎ農民の母親が語るちょっとぐっとくる話―中国

2013年02月20日

「2013年、娘にiPadを買ってやろう」。


フィナンシャルタイムズ中国語版に掲載された記事。タイトルとはうらはらに、娘を思う親心にぐっとくる内容。話があまり筋道だてられていないのも、朴訥さが伝わる印象でさらにぐっと来る内容ではないだろうか。

しかもたんに「ちょっといい話」ではなく、中国の戸籍制度、出稼ぎ農民の現状、物価高、大学の郊外移転など中国の時事ネタ、社会背景にも触れられる内容となっている。野暮は承知で注記したが、「いい話」メインで読みたい人は読み飛ばして欲しい。


2013年、娘にiPadを買ってやろう
フィナンシャルタイムズ中国語版、2013年2月15日


■娘が故郷に帰った

2012年、私の上海生活も16年目を迎えた。娘は小学6年生になり、故郷の学校に入ることになった。

娘は2001年に上海で生まれてからというもの、ずっと私たちと一緒で上海で育った。別れがたいのが本心だ。しかし上海の戸籍がない。だから上海では大学受験に参加できない。今の小学校に入学する時も、必死にコネをたどってどうにか入れてもらえたのだ。

安徽省と上海市では学校の学習進度が違う。安徽省の進度に追いつくため、故郷の学校に入らなければならなかった。故郷の学校では6年生はまだ小学校扱い。今年の夏に中学受験がある。
(中国では大半が小学校6年中学校3年の六三制を採用しているが、上海市や山東省では小学5年中学4年の五四制を導入しているという。なお山西省の一部地域では小学5年中学3年で、義務教育9年間が満たされていない状況だという)

ただ娘はなかなか故郷の学校の進度に追いつけなかった。そこで放課後、先生の家で補習を受けることにした。1時間100元(約1500円)。私たちの収入から考えれば大きな負担だ。ただ勉強、そして大学進学だけが娘にとって唯一の活路なのだ。以前、私たちの村から名門・清華大学の合格者が出たことがある。その時、村の入り口には大きな赤い横断幕が掲げられたものだった。


■上海での暮らし

私と夫は安徽省馬鞍山市和県葛家村の出身。代々米を作ってきた農民の出だ。しかし農業ではいくらも稼げはしない。村の若者のほとんどは街に出稼ぎに出ている。故郷の土地は他の農家に貸すか、老人たちが使うか、だ。

私たちは1996年に結婚した。その後すぐに夫は上海に出稼ぎにでた。華東師範大学裏門の棗陽路に物件をみつけ、お店を開いた。彼は千層餅を作れるのだが、商売は上々だった。
(千層餅は山東省泰安市東平県の名物の焼き菓子)

20130220_写真_中国_iPad_

私も一緒に上海にやってきた。最初は月300元(約4500円)のぼろぼろの家を借りるのがやっと。数年後、ようやく長風一村に二間の部屋を借りることができた。家賃は今、1500元(約1万9500円)にまで値上がりしている。私たち夫婦は毎日朝6時に起きて店を開き、夜10時まで働く。夏だと商売になるので、店を閉めるのはもっと遅くなる。時には深夜1時、2時にようやく帰宅することもあるほどだ。週末はない。

2年前、商売がうまくいっていた時には月の収入は1万元(約15万円)に足した。今は学生たちはみな郊外の新キャンパスに移ってしまったのでお客も少ない。それに都市管理局の監視が厳しい。ずっと見張りがいることもある。これでは露天商たちは商売をすることができず、棗陽路はすっかりさびれてしまった。
(近年、中国の大学は新キャンパスを作ることが多い。そのほとんどが土地が安い郊外に作られている。学部1~2年は僻地の新キャンパスにどうぞ、というパターンが多いようだ。)

この2年、物価の上昇が凄まじい。(コストがかさんで)今の収入は月5000元(約7万5000円)しかない。夏休みで人がいない時、旧正月で帰省する時はもっと少なくなる。仕事を替えるにしても私たち夫婦は千層餅を作る以外は何も覚えていない。故郷で農業をすることなどもっと無理だ。こんなに長いこと農作業をしていないのだから、とっくの昔に忘れてしまっている。しかも農業の収入は今の商売よりも少ないのだ。


■子どもを1人しか産まなかったわけ

もう一人子どもを産もうと思わなかったわけではない。政策も許しているし。ただ現在の世の中では、子ども一人でも支出は多い。この世界に生んだ以上、私たちは娘に責任がある。ちゃんと食べさせ、ちゃんと服を着せ、ちゃんと学校に行かせる責任が。
(いわゆる一人っ子政策には例外があり、農村戸籍や少数民族、一人っ子同士の結婚の場合には2人まで出産が許可される地方が多い)

今、私たちの収入の大半は娘のために使っている。もう一人子どもを産んでも育てきれない。私たち夫婦は基本的に外食することはない。時々商品の千層餅をおやつにすることはある。なに、どうせおいしいものを食べたとしても毎日食べれば飽きてしまうのだし。私は普段化粧品を使わない。せいぜい冬にあかぎれにならないよう保湿クリームを使うぐらいだ。
(真っ赤にあかぎれしたほっぺたの人は十中八九出稼ぎ農民。長年都市に住んでいても、一度そうなってしまうと治らないようだ)

それ以外も節約できるものは節約する。買い物は旧正月の帰省前ぐらいだ。近くのお店を回って、いいものがあれば、自分と夫に一着ずつ買うことにしている。
(中国には新年は新しい服で迎えるという風習がある)

旧正月になれば故郷に帰って娘と会える。私はパソコンが使える友人に頼んで、ネットで娘のダウンジャケットを買ってもらった。今のお店の服は高すぎる。ネットで200~300元(約3000~4500円)のダウンジャケットを買って、娘への旧正月のプレゼントにした。
(店舗の賃料を払わないだけではなく、基本的に税金を払わなくてもいいネットショップはちょっとしたお店よりも安いことが多い。ただしウェブで見た写真どおりの、満足するものが来るかという別の問題も……)


■娘にiPadを買ってやろう

娘はいつもiPadが欲しいという。上海で勉強していた時、同級生の多くはiPhoneやiPadを持っていたのだという。ただ3000元(約4万5000円)という価格は私たちにとっては大金だ。それに娘がゲームばっかりして勉強をおろそかにするのではと心配だった。そこで、和県第三中学に合格したら買ってあげると約束した。同校は和県にある4つの中学校の中で一番いい学校だ。

来年夏、娘の中学受験の前に私は故郷に戻るつもりだ。中卒の学歴しかない私には宿題も教えられないが、それでも祖父祖母に頼るわけにはいかない。彼らは娘を甘やかしてしまうし、それに娘も大きくなってなかなか言うことを聞かなくなっている。受験が終わっても私は上海には戻らないつもりだ。夫一人で商売を続けてもらうか、あるいは故郷で人を雇って手伝ってもらうか。ただ人を雇うとなると、月に3000元(約4万5000円)は必要だ。となると、忙しくてもがんばるほうが割に合うだろう。

将来、娘が上海の大学に合格してほしいと願っている。もし教師になれたらすばらしい。平和な日々が過ごせればそれでいいのだ。ただ一生懸命勉強することがすべての前提となる。私たちは娘の大学進学のためにお金を貯め続けている。娘こそが私たちの希望のすべてだ。

ただそれでも私は故郷が好きだ。豊かではないが、故郷の家にはいくつも部屋がある。空気も上海よりいい。近所の家に遊びに行くことも多い。上海のように、お隣さんでもまるで見ず知らずのようだということはない。

関連記事:
【台湾ちょっといい話】コスプレ朝食屋台:女手一つで息子を育てるシングルマザーの驚きのビジネス
【中国ちょっといい話】1杯の刀削麺=「プラスのエネルギー」を伝えよう
中国のちょっといい話=倒れたご婦人を救った「ポルシェ少女」が話題に
【中国ちょっといい話】勇敢な「最も美しい看護師」が話題に―重慶市
ヤラセか?それともホンモノか?かわいくて優しくてテコンドーの達人、ポルシェ少女の人命救出劇―中国
「映画化決定!」はないけど、誠実なタクシードライバーの地味にいい話―インド・ムンバイ
ニュース番組が伝える「幸せの国・中国」=ありえないほどのイイ話にみんなでツッコミ


トップページへ

コメント欄を開く

ページのトップへ