• お問い合わせ
  • RSSを購読
  • TwitterでFollow

香港の「粉ミルク持ち出し制限令」は無用の法律、中国人蔑視の産物か

2013年03月02日

2013年3月1日、香港で「粉ミルク持ち出し制限令」が導入された。初日から10人の逮捕者がでている。
 

森永 ドライミルクはぐくみ 大缶850g
■香港の粉ミルク禁止令

2008年、メラミン混入粉ミルク事件が中国を騒がした。タンパク質含有量の低い生乳を販売するため、酪農業者が有機化合物の一種、メラミンを添加した。その生乳から作られた粉ミルクを飲んだ赤ちゃん30万人が腎臓結石などの被害を受け、6人が死亡する惨事となった。

これを期に中国では外国製粉ミルク信仰が高まったのだが、観光客や転売目的の業者が香港で粉ミルクを買い占め、香港人が粉ミルクを買えないではないかとの不満につながった。

香港政府は3月1日より許可がないかぎりは粉ミルクの持ち出しは2缶(約1.8キロ)までとの粉ミルク持ち出し制限令を施行。違反者には最大で50万香港ドル(約600万円)と2年の懲役刑が課される。


■香港だけではなかった、中国人の粉ミルク買い占め

この粉ミルク買い占めだが、実は香港だけではないという。新華社日本語版は1月18日に「オランダで粉ミルク不足、中国人の買い占めに非難殺到 蘭メディア、「中国に帰ってほしい」」、レコードチャイナは1月21日に「ドイツの粉ミルク、中国人が飲みつくす?=買いあさりで地元の母悲鳴―独紙」との記事を掲載している。

また網易のニュース特集サイト・今日話題は、米国、ニュージーランド、オーストラリアの一部スーパーで買い占めを制限するルールが登場したこと。2013年1月にマカオで住民に優先的に粉ミルク購入を保障する登録制度が実施されたことを紹介している。


■粉ミルク不足は本当か

さて、この手のニュースだと紹介されるのは「中国人のせいでうちの子に飲ませる粉ミルクがない!」という声が中心。中国本土の人の声といえば、「メラミン混入粉ミルク事件もあったし国産は心配やで」というのが関の山だ。では今回の持ち出し制限令を中国本土の人がどう見ているのだろうか。

これが批判的な声が多いようだ持ち出し制限令は粉ミルク不足という現実の社会問題解決を狙ったものではなく、香港人の中国人蔑視に由来しているのではないかという指摘である。。「香港の粉ミルクが買えなくなる」から批判しているのだろう、と勘ぐる人もいると思う。ただ個人的には、蔑視かどうかはともかくとして、あまり役にたたない法律であり、たんなるパフォーマンスではないかと考えている。

というのも中国人の買い占めと品不足はよく話題にされているが、世界的な規模での粉ミルク不足にはつながっていない。そもそも粉ミルクを輸入している香港は足りないならば輸入量を増やせばいいだけの話だ。

今日話題によると、香港の粉ミルク輸入量は2008年時点で1万5100トンだったが、2012年には4万4400トンと急増している。香港経由で中国本土人がお買い上げしてくださることで、香港にもお金が落ちているわけで、これは本来ありがたい話ではなかろうか。

一部製品が品薄にはなっていても香港全体の粉ミルク供給量が不足しているということはないという。もちろん、ある香港人からしてみれば、いきつけのドラッグストアに予期せぬ中国人団体客が襲来。売り切れになっているというレベルでの品不足はあるかもしれないが。

香港の粉ミルク不足にせよ、あるいは上述した世界各国の粉ミルク買い占め問題にせよ、それは予期せぬ中国人の大挙襲来による一時的な品不足というのが実情に近いと言えそうだ。


■香港人と中国人の対立

ここ数年、香港人と中国人の対立を伝えるニュースが続いている。詳しくは文末関連記事を読んで欲しいが、中国人としての国民教育を香港で義務化することへの反対運動、地下鉄車内で子どもにおやつを食べさせた中国人女性に対するマナー違反とのバッシング」、「中国人はイナゴだ」との新聞意見広告、世論調査で「自分は中国人ではなく香港人」としてのアイデンティティが高まる……などなど枚挙に暇がない。

数々の事件の伏流となっているのは、公共の場所で騒ぐ、タンを吐く、タバコのポイ捨てといったマナー問題に加え、中国人が越境出産してくることで産婦人科病院が満員に、中国人の不動産買収で地価高騰、そして粉ミルクの買い占めといった生活に直接関連するトピックだった(ちなみにあるデモでは、ヤクルトが買い占められた!許せん!という笑えるスローガンもあった)。

中でも深刻なのが産婦人科病院が満員になる問題。2011年12月にはドナルド・ツァン長官(当時)が温家宝首相に直訴までしている。粉ミルクは世界的にも十分な供給があるうえに輸入が可能だが、産婦人科病院は輸入するわけにはいかない。一応、規制策は導入したもののあの手この手でくぐり抜けている越境出産をしている人が多いようだ。

また輸入ができないのは不動産も一緒。ビビッドな香港事情を伝えているブログ「ジャパナビりえ的香港TV道」は地価高騰によって、家賃を払えないお店が次々と撤退し、代わりに中国本土旅行客のお店が増えているという香港人の関心事を伝えている。

さて、こうした経緯を考えると、「粉ミルク持ち出し制限令」は現実の社会問題解決を狙ったものではないという中国本土人の指摘も納得できるのではないだろうか。香港人の社会生活にとってむしろ重要なのは解決が難しい産婦人科病院や不動産の問題のはず。粉ミルク持ち出し制限令は香港政府の「仕事したふり」パフォーマンスに過ぎないのではないか、とも思えてくる。

関連記事:
「香港人は犬畜生」天安門事件参加者から北京大学教授になった男の「暴言」―中国
「中国人は醜いイナゴ」香港で高まる反中感情=募金を募り新聞に意見広告
汚職官僚の妻は香港で子どもを産む?!一人っ子政策逃れの裏技に規制案(水彩画)
中国人妊婦が香港の病院を占拠=困った現地政府は温家宝に直訴(水彩画)
反日でもヤクルトはやめられない?!美白豊胸にまで効く中国のヤクルト信仰
吉野家(香港)がプチ炎上?!メニュー改悪に怒ったネット民たち
「香港人は中国を罵倒してばかり」「デモに規制を」ジャッキー・チェンの「失言」


トップページへ

 コメント一覧 (3)

    • 1. maab
    • 2013年03月07日 02:45
    • 香港在住です。
      ただ単にこれは完全な脱税行為であり、違法です。
      中国蔑視とかはその後にあるものです。
    • 2. Chinanews
    • 2013年03月07日 14:11
    • >maadさん
      コメントありがとうございます。
      粉ミルクに限らず、中国本土の個人輸入(?)は脱税ベースで商売がなりたってますね。税金がかかった瞬間にほとんど立ちゆかなくなるんじゃないか、と。

      ただこの場合、関税をとるのは中国本土側なので香港政府の対応とは無関係ではないでしょうか。



    • 3. 犬
    • 2015年01月06日 13:19
    • 正直、香港の問題であって日本人がどうこう言っていい問題じゃないですね。

      ただし、日本でのオムツもそうだが本当に品薄になっているのなら転売目的は非常に迷惑な行為ではあるとしか言えない

コメント欄を開く

ページのトップへ