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「夫が妻を殺害し遺体を焼却」中国プロパガンダメディアが描くチベット人焼身ストーリー(tonbani)

2013年03月21日

■相次ぐ中国版焼身ストーリー■

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何度かとりあげてきたが、中国はチベット人の焼身抗議について、隠すのではなく、中国が作り上げたストーリーを大々的に宣伝するという方針にシフトしてきた。海外のチベット人団体が焼身者は讃えられるなどと誘って教唆しているというものが中心で、”教唆犯の自白”が記事にされたこともある。

さらにそればかりか、「焼身と言われている事件は夫婦ゲンカの末に夫が妻を殺害し、死体を焼却したもの」との驚くべきストーリーまででっちあげている。



■焼身の教唆・扇動、国家分裂企図でチベット人3人に懲役4~6年の判決

2013年3月18日、青海省海東地区人民中級法院は3人のチベット人に対し、焼身を教唆・煽動し国家分裂を企てたとして懲役4年から6年の刑を言い渡した。19日付チベットタイムズチベット語版、20日付ボイスオブチベット中国語版が伝えた。

3人の氏名と刑期は以下の通り。ケルサン・ドゥンドゥップ(སྐལ་བཟང་དོན་འགྲུབ་)に6年の懲役刑、政治的権利剥奪4年。ジグメ・タプケ(འཇིགས་མེད་ཐབས་མཁས་)に5年の懲役刑、政治的権利剥奪3年。ロプサン(བློ་བཟང་)に4年の懲役刑、政治的権利剥奪2年。

上記3人が誰の焼身に関わったとされたのかは明らかではない。これまで海東地区で起きたチベット人焼身抗議は2件のみ。2012年11月19日にヤズィ・ゾン(ཡ་རྫི་རྫོང་循化撒拉族自治县)カンツァ・チベット族郷(་རྐང་ཚ་ཞང་岗察藏族乡)のカンツァ僧院傍で焼身したワンチェン・ノルブ(དབང་ཆེན་ནོར་བུ་)(関連記事)。そして今年2月24日にバイェン県(青海省海東地区化隆回族自治県)にあるチャキュン(ジャキュン、བྱ་ཁྱུང་དགོན་པ་、夏琼寺)僧院内で焼身したパクモ・ドゥンドゥップ(ཕག་མོ་དོན་གྲུབ་、ラモ・ドゥンドゥップと伝えるメディアもある)(関連記事)である。

パクモ・ドゥンドゥップは病院に運ばれる途中家族と共に当局に拉致されたという報告の後、消息が途絶えたままである。生死も確認されていない。状況や時期を考えれば、今回の判決は前者のワンチェン・ノルブの焼身と関係があると思われる。彼の葬儀は大々的に行われ、ダライ・ラマ法王を讃える詩句も大声で唱えられたと言われ、これに対し部隊も派遣されている。

今回刑を受けた3人がパクモ・ドゥンドゥップとどういう関係であったのか、どのような状況で逮捕されたのかについては未だ不明である。


■インド在住のチベット人僧侶が国際指名手配に

同じく新華社電の記事によれば(こちらは全文ではないが日本語にもなっている(中国網)。四川省警察が今年2月19日にンガバ州ゾゲ県で焼身、死亡したリンチェン(17)とソナム・ダルギェ(18)の焼身を強要した犯人を特定することに成功したという。

その犯人とはリンチェンの義理の叔父であり、ダライ集団「独立組織」の「情報連絡グループ」のメンバーであるとされている。また、長期間に渡りこの少年(リンチェン)と連絡をとり「チベット独立」の考えを吹き込み、「焼身者は民族の英雄である」として焼身自殺を強要したと書かれている。そして、「中国警察は関係国に対し、容疑者の調査協力を求めた」そうだ(サーチナが新華社の記事を翻訳、転載している)。

日本語バージョンには書かれていないが、元記事にはこのとき焼身を行おうとしていたのは3人で、1人は思いとどまったとされているようだ。

中国がリンチェンの叔父として名前を上げた「旦巴降措」は現在ダラムサラ・キルティ僧院にいる僧侶テンパ・ギャンツォ(またの名はクンチョク・タムディン)であると特定された。これに対し、ダラムサラ・キルティ僧院の内地連絡係りである僧ロプサン・イシェはVOTのインタビューに対し、

我々は中国側の話を完全に否定する。連絡係りは私とカニャク・ツェリンの他にはいない。外部の記者を完全に遮断している状態で、中国側が何を言おうとそれをどうやって信じろというのか?中国が今行っている焼身者を唆したという嘘によってチベット人を裁くというやり方では焼身は決して終わらないであろう。そうではなく、真実に基づいて、政策を変更するというやり方に変えない限り終わりはないと言いたい。

と話している。


■焼身したのではない、「夫に殺された後焼かれたのだ」

RFA中国語版が中国政府系報道を引用して伝えるところによれば、四川省ンガバの公安局は「真相は焼身に見せかけた殺人事件。妻を殺害、ガソリンをかけて燃やした夫を逮捕」という事実を突き止めたそうだ。

四川省阿壩で故意殺人遺体焼却事件を解決
新華網(ちべログ@うらるんた訳)、2013年3月20日

新華社ネット成都3月20日電(党文伯記者) 四川省阿壩州の警察機関はこのほど、緻密な内偵捜査により、故意殺人と死体焼却損壊事件を解明し、犯罪容疑者であるドルマ・キャプを既に逮捕した。

判明したところによると、2013年3月11日夜、犯罪容疑者ドルマ・キャプ(男、チベット族、32歳、若爾蓋県)と妻クンチョク・ワンモは、ドルマ・キャプの禁酒や賭博断ち、夫婦感情のもつれから激しいけんかとなり、けんかの最中にドルマ・キャプは手でクンチョク・ワンモの首を絞めて窒息死させてしまった。翌日2時ごろ、ドルマ・キャプは死体を隠して証拠を隠滅するためにクンチョク・ワンモの遺体を焼いた。

現在のところ、犯罪容疑者のドルマ・キャプは故意殺人罪で若爾蓋県警察に刑事拘留されており、事件はさらに捜査が進められている。

中国の公安は、この事件が発生したのは11日の夜と発表しているようだが、どうみてもこれは亡命側に「2月13日の夜中、クンチョク・ワンモ(30)が焼身抗議を行った」として伝えられている事件のことと思われる(関連記事)。

ダラムサラには「焼身があった後、すぐに軍・警察が来て彼女は連れ去られた。翌日、夫に遺灰だというものが渡された。当局は夫に対し『焼身は夫婦喧嘩が原因ということにしろ』と脅迫したが、夫はこれを拒否したところ連行された」と伝えられている。

中国はチベット人の焼身について、いくつも奇想天外なストーリーを作り続けてきた。ただこれまでは状況からしてもおかしいと客観的判断ができるものばかりだったが、今回の場合は「ひどい作り話をする」と思いつつも、明らかに矛盾を指摘するのが難しい筋書きだ。

そこでこの情報を現地から受けたとされるRFAの友人に電話して、突っ込みを入れてみた。

質問:目撃者はいるのか?

彼:夜中だったし、いなかった可能性が高い。とにかく今は現地とまったく連絡できず、確かめようがないのだ。

質問:夫が警察に「原因は夫婦喧嘩だったと言え」と言われ、それを拒否したところ連行されたとなっているが、これはどうやって分かったのか?現場に誰かいたのか?

彼:誰からの情報ということはできないが、現地からの報告だ。夫の兄弟かだれかがその場にいて、その話が伝わったと思われる。警官が彼女を連れ去った時にはまわりに人がいたようだ。「まだ死んでいなかった」と言っていた。情報を伝えたチベット人はこれを伝えるためにわざわざその地域を離れ、別の場所から連絡してきたのだ。嘘とは思えない。中国はこれまでにも色んな作り話をでっち上げて来たが、今度のは酷いと思う。

質問:目撃者の話が入ればベストだよね。これから追加情報が入る可能性はあるだろうか?

彼:そりゃ、あるだろうが、とにかく時間がかかりそうだ。今はまったく電話が通じない。

私:まあ、本当に夫が殺したのなら、当局が急いで遺体(?)を火葬にして遺灰だけを夫に渡すというのは、あり得ないことだよな。証拠隠滅したのは当局ということになるな。

彼:嘘に決まってるだろ!
ということであった。

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*本記事はブログ「チベットNOW@ルンタ」の2013年3月20日付記事を許可を得て転載したものです。

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