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遊牧を禁じられた内モンゴルの遊牧民=草原と風車とレアアース―中国

2013年03月30日

■遊牧を禁じられた内モンゴルの遊牧民=草原と風車とレアアース―中国■
 


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ニューヨークタイムズ中国語版に掲載された、内モンゴル自治区の遊牧民に関するコラムが興味深かったのでご紹介したい。中国政府は草原の自然環境回復を目指し、遊牧の制限、禁止政策を打ちだしている。その一方でレアアース鉱山や風力発電などの開発は積極的に進められており、遊牧民との摩擦は高まっている。

2011年5月には鉱山のトラックの前に立ちふさがったモンゴル族遊牧民がひき殺される事件が起き、モンゴル各地での抗議運動に波及。一時は戒厳状態になるほどの緊張状態にあった。

このコラムはこうしたモンゴルの背景をよく伝えていると感じる。特に「草原の回復に反対する遊牧民はいないが、それならばなぜ鉱山開発が進められるのか理解できない」という下り、さらには最後の「草原は自分たちの所有物ではなかった」とモンゴル族の女子学生が悟る下りには、はっとさせられた。

約6000字。目安となる閲覧時間は10分。

草原哀歌
ニューヨークタイムズ中国語版、2013年3月27日


■モンゴル族の女子学生との出会い

今月初頭、ニューヨークで内モンゴル自治区からのEメールを受け取った。差出人は90後(1990年代生まれ)のモンゴル族の女性。故郷の事情について語る彼女のメールで、2年前、初めて彼女にあった時のことが思い出された。

2011年春、内モンゴル自治区の大学で勉強していた烏伊漢は、モンゴル族学生の代表として北京大学に半年間、滞在した。私はあのオルドスの“ゴーストタウン”に行ったばかりだったし、また内モンゴルの粗放な高成長にも興味があったので、学期もまもなく終わろうかという頃、彼女を誘って喫茶店でおしゃべりした。教室では口数少ない、このモンゴル族女性は、ひとたび故郷について語り始めると、堰を切ったように話し出した。

「私の両親は遊牧民です。草原で羊を育てています。実家には200頭以上も羊がいるんです。でも私たちの故郷では遊牧が禁止されてしまいました。牛や羊は草原を破壊するからって。ですから、羊を育てていることがばれると、大隊に罰金を支払わなければなりません。」

大隊というのは禁牧大隊のこと。烏伊漢の実家は内モンゴル自治区ダルハン・ムミンガン連合旗にあるが、同地は内モンゴル自治区で唯一、遊牧を全面的に禁止された自治体である。「長年、過剰な放牧が続いたこと、無節操な鉱山開発や開拓が続いたことで、草原の生態環境が悪化した。2008年1月1日から遊牧を禁止する。期間は暫定的に10年とする」と布告している。

しかし烏伊漢は言う。遊牧は禁止されたのに、草原の開発は中止されていない、と。発電のための風車が次々と設置され、白雲鄂博鉱山のレアアース開発はすさまじい勢いで進行している。風力発電設備や鉱石を乗せた大型トラックが草原を行き交い、砂嵐が空を覆っている。遊牧禁止に際し、遊牧民は補償金を得たが草原1ムー(15分の1ヘクタール)あたり4.8元(約72円)。国家の補助金規定の6元(約90円)よりも2割も少ない。


■草原の家

その晩の対話を終え、私は草原に行きたいという思いに駆られた。そこで翌2011年の夏、北京から列車に乗って包頭市に向かった。駅では烏伊漢と彼女の母親が出迎えてくれた。包頭市からバスに乗ってダルハン・ムミンガン連合旗へ行き、そこからは烏伊漢の父親が運転する車で草原の家に向かった。

2008年に買ったというフォルクスワーゲン・ジェッタは、舗装されていない土の道の上でよく揺れた。道沿いには白雲鄂博鉱山への行き先を示す標識をたびたびみかけた。

白雲鄂博は世界最大のレアアース鉱床を有している。ハイテク製品の製造には欠かせないレアアース。中国のレアアース埋蔵量は全世界の4分の1程度だが、生産コストの安さから生産量は世界の90%超を占めている。教科書や新聞では知っていた知識ではあるが、抽象的な数字と鉱石を満載したトラックによってがたがたになった道を走る体験はまったく別物だ。

そうこうしているうちに烏伊漢の家についた。正確を期すならば、彼女の親戚の家だ。烏伊漢の本来の家は道路の近くにあり、盗牧することは難しい。しかし補助金だけでは生活できないので、草原にある親戚の家に住んでいるというわけだ。その家は平屋で電気も通っていない。家の裏には小さな風車があり、昼間に発電した電力で夜の間、わずかとはいえ電気を使うことができる。

この地の遊牧民にはナイトライフというものは存在しない。彼らの生活は家畜たちの生活リズムと一致している。朝5時に起きだして、牛にエサを与え、乳を搾り、羊を放す。夜には牛と羊を連れ帰る。暗くなれば炕(オンドル)の上で寝る。この地にはトイレはない。すべて草原で解決することになる。女性の生理用品も草原に穴を掘って始末する。シャワーは贅沢品だ。烏伊漢の母親が言うには月に1度、鎮(田舎町)の公衆浴場に行くという。

草原では水も貴重品だ。家の水はすべて烏伊漢のご両親が井戸からくんできたもの。ここ数年、鉱山採掘の影響で地下水の水位低下が著しい。遊牧民が掘る井戸はあまり深くないこともあって、水くみや家畜への水やりは大変になった。井戸の水はくみ終わると1時間待たないと新たな水が出てこない。烏伊漢の母親はたらいに水を入れて手と顔を洗わせてくれた。石けんで洗うのに1杯、それを流すのに1杯。だが烏伊漢とその両親は3人で1杯の水で石けんで洗い、もう1杯で流していた。


■遊牧民の家計簿

到着した翌日の朝、私は烏伊漢の母親に草原の状況について聞いた。実は彼らが所属している日光大隊では2002年から遊牧が禁止されていた。しかも初年度は禁牧補助金もなかったという。翌年から1ムーあたり4.8元の補助金が支給されるようになった。烏伊漢の家はもともと2000ムーあまりの草原を持ち、700~800頭の羊を飼っていた。羊毛を売却した収入は年に20万元(約300万円)を超えていたという。

しかし禁牧補助金はわずかに1万元(約15万円)程度しかない。ひそかに飼っている羊が200頭でその収入が年に5万元(約75万円)程度。烏伊漢は内モンゴル自治区の区都・フフホトの学校に通っているが、その食事代が年に3800元(約5万7000円)かかる。遊牧禁止地域の学生なので学費は無料だ。

烏伊漢の母親はこうした数字を数え上げた後、私に言ってきた。「1年でたったこれだけのお金にしかならない。公務員とは比べものになりませんよ」、と。

隠れて放牧を続ければ、禁牧大隊の罰金という問題に直面する。支払わなければ羊を押収される。遊牧の禁止後、羊の数は激減する一方で価格は急騰した。2008年にはオスの羊1頭あたり700~800元(約1万500~1万2000円)程度だったが、今ではよく越えたものならば2000元(約3万円)はする。そのため数百元、あるいは1000元あまりの罰金ならば支払ったほうが徳だ。


■奇妙な罰金

だが遊牧民たちは罰金の方式に疑問を抱いている。「2010年頃、禁牧大隊から電話がありました。うちに来てもいないのに罰金を払えという言うのです。そこで夫は車を飛ばして罰金を支払いに行きました。領収書も渡されましたが、ちゃんと政府の公印も教えてありましたよ」と烏伊漢の母。

沙如大隊の遊牧民はもっとうさんくさい出来事に遭遇している。ダルハン・ムミンガン連合旗統計局で働いていた劉英平が教えてくれた話だが、2009年頃、畜牧局から2000元(約3万円)支払うように言い渡してきたという。何百頭も羊を飼っていたから罰金が高いという話だったが、罰金を支払った後に渡された領収書には1500元(約2万2500円)としか書いていない。残るはガソリン代だと言われたそうだ。

「俺たちは罰金を払っても羊を飼わないとやっていけない。60歳をすぎても医療保険もなにもないんだ」と劉は言う。彼は漢族だ。「禁牧大隊に言ったことがあるよ。おまえらは俺たちに“草原補助金”を支払う。だが補助金っていうのは基盤となる収入があってのものだろ。草原と放牧はおれたちの経済基盤なんだ!って。おれたちは定年したら給料もない。この補助金がおれたちの給料だっていうのか?」

劉英平の妻、60歳になる劉鳳英も話に加わった。「ある時、禁牧大隊が来ました。羊を連れて行かれたくなければ罰金を払えって。私は言ってやったんです。私は年寄りだし、あんたたちは若い。もしやりあうことになったら、この老いた命でおまえの若い命を取ってやる、って。」


■風車が最大の悩み

劉夫妻を悩ませているのは放牧と罰金のいたちごっこだけではない。実際のところ、毎年一定額の罰金を支払えば放牧は黙認されているのだ。飼える羊の数は多くないにせよ。本当の意味で彼らを困られているのは、家の近くで24時間回り続けている風車だ。「ごうごうという音はまるでトラックのエンジンのようだ。夜も寝られないよ。」

劉鳳英には心臓病の持病がある。騒音でゆっくり休めなければ体に差し支えがあるのではと不安に思っている。しかし風車を建てている土地は政府が遊牧民から買い取ったもの。価格は1ムーあたり326元(約4900円)だ。もう撤去を求める権利はない。聞くと、包頭市郊外の土地は1ムーあたりの賠償金が1万元(約15万円)以上だという。もし草原を離れて鎮に家を買おうとすれば、1平米あたり2000元(約3万円)以上はする。土地土地で違う値段の不等式。その理由はさっぱり分からないと彼らは話している。

私は烏伊漢に風車を見に行こうと言った。

父親のジェッタを借りて、禁牧区から風車がある地域まで行った。青空の下、草原に立ち並ぶ風車の群れ。こんな風景をポスターにしたならば、国家の新エネルギー開発にとって最高の宣伝材料となるだろう。しかし実際に目の前にしたのはとってつけたような唐突さと草原が失われた荒漠感だった。

私が訪れた時、風が吹いていなかったので風車は止まっていた。灰色の空が草原を大手いる。風車を建てた場所はショベルカーで掘り返され、あたりには採石が散らばっていた。草はまばらに生えているばかり。地下水の不足で草が生えないのか、他に原因があるのかはわからなかった。

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■自然環境を保護するためならば鉱山開発をやめるべきだ

私は烏伊漢の家に4日間、滞在した。午前も午後も彼らと一緒に放牧にでかけた。余った時間は付近の遊牧民とおしゃべりした。十数人の遊牧民と話したが、遊牧禁止によって草原の環境が回復したという人は一人もいなかった。

ひょっとして草原の回復というのは目で見てわかるようなものではないのではと私が話すと、ある遊牧民は私を家の外に連れて行き、ある光景を見せた。遠くから大きなトラックが走ってくる。するとその後ろにはもうもうと砂じんが巻き上がる。トラックの後ろを尾を引くようにたなびき、ゆっくりと拡散していった。「砂じんはすぐにここまでやってくる。はやく家にお入りなさい」とその遊牧民は言った。そしてこう話を続けた。

「今、国は自然環境を守れと号令をかけている。だが、あそこには大きな鉱山があるじゃないか。風が吹けば沙荒らしだ。こんなものは自然保護ではない。もし本当に遊牧を禁止して、一世帯あたりの羊の数を300~400頭に規制するならば、まだ生活はできるだろう。だがそれならば政府は鉱山を開発するべきではないだろう。彼らの言うとおり、10年間遊牧を禁止して自然環境を回復させてから鉱山を掘ればいい。そうではないか。遊牧を禁止しながら鉱山開発を進めるとは、遊牧民に対する政策と鉱山開発者に対する政策とはまるで別物のようだ。」

烏伊漢の母親と同様、その遊牧民も収入を数え始めた。放牧の収入、補助金の収入。だが今は小麦粉も野菜もニンニクもみんな値上がりした。「公務員の給料は上がるだろう。だが農民、遊牧民の収入は変わらない。」
また彼は禁牧大隊が来た時の光景を語って見せた。「罰金をはらえ!金がない?ならば羊を連れて行く」と叫ぶ禁牧大隊。「市民の財産は保護されなければならないはずだ。禁牧大隊の所業は中国共産党の名誉を怪我しているんだ」と彼は言う。

私が取材した遊牧民たちはみな苦しい生活を送っていた。2011年段階ではまだ電気も通ってなかった。隠れて放牧をしなければ鎮で売っている羊肉も買えないほどまずしかった。だがそれでも草原の環境を保護したいという政府の志を批判する人は誰もいなかった。彼らが不満に思っていたのは政策の目的と現実の不一致だ。

指導者たちが環境を保護しなければならないと説いて回ったのに、ならばなぜ風車建設と鉱山開発はストップしないのか。鉱床を掘り終えた後も埋め戻すことはない。工業用水は垂れ流しだ。草原に作られた土の道は大型トラックが走り回っている。2011年5月、モンゴル族のメルゲンがトラックにひき殺される事件が起き、内モンゴルの遊牧民と鉱山開発者の衝突を示す象徴的な事件となった。

インタビューの過程で遊牧民たちは繰り返し、ラジオで聞いたという補助金の値上げについて話していた。温家宝首相(董事)は2011年1月から1ムーあたり6元(約90円)に引き上げると約束した。だがその年の夏になっても補助金は4.8元(約72円)のまま。差額はどこに消えたのだろうか。烏伊漢の母親になると、2012年1月からようやく新たな基準で補助金が支給された。


■農民の土地も遊牧民の草原も自分たちのものではなかった

烏伊漢が送ってくれたEメールによると、彼女は今年4月の公務員試験の準備を進めているという。今、彼女は大学院生だ。早く就職を決めて50歳になる両親に辛い放牧をさせなくてもいいようにしたいと話す。

「こちらの状況は何も改善していません。もっと多くの風車が建てられ、汚染もどんどん深刻になりました。被害者はそれを止める術を持ちません。陳情は理性的な選択肢ではないのです」とある。

烏伊漢は最近、女性アナウンサー・柴静の本『看見』を読んで、その一節に目が覚めたという。それは「土地収用問題では農民に提示されるのは価格ではなく補償です。土地収用は実質的には売買なのに、売り主が売ってお金を得ることができず、補償をもらうしかないのです」という一節だ。農民に対する土地収用、遊牧民に対する草原買い上げと遊牧禁止。今、遊牧禁止の代償となる補助金は1ムーあたり6元にまで増えた。だがそれは遊牧民の基本的労働生活を買い上げていることにほかならない。

「私はこの本を読んで、目が覚めたような感覚にとらわれました。遊牧民には多くの不満がありますが、その大多数は結局、この問題なのです」と烏伊漢は言う。

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 コメント一覧 (1)

    • 1. 辻井
    • 2013年07月24日 18:51
    • 私もあなたが言うと冲撃する方法もある。

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