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中国オタクコンテンツ市場の今=ネットで生き残ったアニメ、消えていく漫画とゲーム、ラノベの台頭(百元)

2013年04月15日

■中国本土でいまだ健在な日本のアニメ、消えていく漫画とゲーム、目立つようになったラノベ オタ中国人の憂鬱アップデート■

 

オタ中国人の憂鬱 怒れる中国人を脱力させる日本の萌え力


■オタ中国人の憂鬱アップデート

2年ほど前にブログ「「日中文化交流」と書いてオタ活動と読む」のまとめ本「オタ中国人の憂鬱 怒れる中国人を脱力させる日本の萌え力 オタ中国人の憂鬱」を出させていただきましたが、この2年で中国オタク事情も大きく変わり、書籍の内容も一昔前の話になってしまっています。また、いつもの中国オタクの反応という形では紹介するのが難しい話というのもたまってきていますので、「オタ中国人の憂鬱」のアップデートになるような話を書いていこうかと思います。 

今回は「ロボが好きな日本人オタク、人間が好きな中国人オタク=中国でマクロスほどガンダムが流行らない理由(百元)」に引き続き最近の中国オタ事情の紹介を。


■アニメ、コミック、ゲーム、ライトノベル……ジャンルごとの浮き沈み

現在中国では日本のオタク関係のコンテンツは主に、アニメ、コミック、ゲーム、ライトノベルなどを通じて入っていますが、各コンテンツ間の存在感や影響力、がこの2年でかなり変わりました。

実はこのブログのまとめ本を出した時期に、私は「もう中国で日本のオタク関係のコンテンツの頂点は過ぎて、あとは下り坂になっていくのでは」「ゆるやかに衰退、ある世代の思い出のような扱いになるのかもしれない」とも考えておりました。

しかし、現在も日本のオタク関係のコンテンツは中国での人気を保っています。また細かく見ていくと、人気を保っているコンテンツと、人気の下降したコンテンツ、それから上昇したコンテンツがあります。

中国ではオタク関係のコンテンツの総称として「ACG」という言葉を使うことがあるのですが、これは「アニメ」、「コミック」、「ゲーム」の頭文字から来ていまして、中国ではオタク関係のコンテンツを大雑把に括るときに使われています。イベント関係のタイトルや宣伝などでもよく見かけますね。

この言葉が広く使われるようになったのは00年代の前半~中盤辺りからではないかと思われるのですが、当時は「アニメ」「漫画」「ゲーム」の3つは非常に強い存在感をもっていました。

しかしその後オタク関連のコンテンツにも変化が出ていますし、「ACG」という括りは現在の中国におけるオタクコンテンツの実情、特に日本のオタク系コンテンツの中国における人気とは合わなくなってきているような感もあります。

大雑把な話ではありますが、娯楽の少ない昔から娯楽の増えた今に至るまでずっと人気を保っているのが「アニメ」2年前に比べて存在感が落ちているのが「漫画」今ではもうかなり厳しいことになっているのが「ゲーム」そして2年前に比べてその存在感や影響力を増しているのが「ライトノベル」といった所でしょうか。

この辺りに関しては日本でも似たような所はあるかと思いますが、中国ではそのバランスの変化がより顕著ですね。


■テレビの露出低下を補ったネット

2年前に出したこのブログのまとめ本では、中国に日本のオタク関係のコンテンツが広まった理由として

・青少年向けの娯楽が貴重な時代だったことによる「相対的な面白さ」
・手に入り易くコピーもし易いことから比較的安いコストで楽しめるという「手軽さ」
・漫画などが学校や空いた時間で楽しめる、親の目から隠しておける「携帯性」

と書きましたがこの理由はあくまで相対的なものですから、中国の社会や娯楽関連の環境が変われば同じものではなくなります。

私が中国における日本のオタク関係のコンテンツの広まりが下り坂になっていくだろうと考えたのは、中国の社会が豊かになり娯楽が増えていくことに伴い、「オタク系コンテンツの娯楽としての貴重さが薄れる」「オタク系コンテンツ以外の手軽な娯楽コンテンツに人が流れていく」だろうということ、それに加えて当時の状況として「中国の自国産コンテンツ推進政策により中国のテレビでは日本アニメが実質的に放映禁止となったので、新しい世代はテレビで日本のアニメを見て育つわけではない」というのが予想できたからでした。

しかし、この辺についてはちょっと外れてしまったようです。そのハズレの理由として真っ先に思い浮かぶのは、2年前でも大きかった中国の娯楽におけるネットの存在感が、この2年で更に大きくなったことでしょうか。ここ2年の間で中国のネット環境がハード面でもソフト面でも整い、ネット経由で展開或いは流入するコンテンツがかなり増大しました。

そのため、ネットを通じて日本のオタク系コンテンツに新たに「ハマる」若い世代も以前の状況で想像されたものよりも多くなり、テレビ放映されないことによる影響がそこまで大きくはなりませんでした。(もちろん影響が無いわけではありません。特に幼児~小学生向けの作品に関してはテレビ放映が無くなったことによる影響は大きく、その年代に関して現在は中国国産アニメの独壇場となっています)


■中国ネット時代に日本アニメが強いワケ

そして日本のオタク関係のコンテンツ、特にアニメはこの中国のネットにおける娯楽の需要にとても向いていたのもあってか、現在も中国で人気を保っています。日本のアニメが中国のネットで強い理由としては、

・楽しむためのコスト、コンテンツの価格が実質的にタダ
・中国のネットユーザーのコンテンツの消費スピードに耐えられるだけの量を持つ多様なコンテンツが、定期的に提供される
・コンテンツの内容が話題にし易く、理解するのも容易。途中参加でファンになるのも容易

ということが考えられますが、中でも「実質的にタダ」というのは大きいですね。

最近は正規ルートも出るようになってはいますが、中国のネットで日本のアニメは基本的にP2Pやら無許可のアップロードなどの非正規ルートで広まっていますし、正規配信も基本的に有料視聴ではありませんから、「タダ」でコンテンツを楽しむことができます。(ちなみに、中国の海賊版DVDはネットのせいでほぼ壊滅となりました。海賊版はなんだかんだで「有料」ですから……)

中国のネットにおいても最近は有料コンテンツが増えていますし、基本無料のネットゲームに関しても課金ユーザーと無課金ユーザーの差が露骨に出てくるなど、娯楽にコストがかかり微妙に現実社会とリンクした格差が出現しつつあります。

そして「現実の娯楽」はネットよりも更にお金がかかる、お金がなければ楽しめないものばかりですから、日本のアニメは(非正規なものが多いことも有り)実質的にタダで楽しめる、しかも最新最高、人気のものほど手に入り易いということで重宝されているようです。


■漫画は存在感低下

しかし漫画の方はこのネット中心への変化には乗れず、中国での存在感は徐々に落ちています。社会がネット中心になってきたことから実本での流通が減りましたし、中国の出版業界は日本以上に元気が無い状態です。昔に比べて版権を取っての正規流通も増えてはいるのですが、現在の中国の出版市場では厳しいものがあるそうです。海賊版の流通もネットの影響で元が取れなくなり昔に比べて格段に少なくなっています。

また、ファンサブ翻訳などの非正規ルートも画像を加工しなければならないということから、アニメに字幕を付けるファンサブ翻訳に比べて手間がかかるので、アニメほど盛んではないようです。しかも最近は中国のネットユーザーのコンテンツ消費スピードがどんどん速くなっているので、漫画はアニメに比べて

・コンテンツの「持ち」が悪い
・1話、1冊がすぐに読み終わってしまう

といった面がマイナスとして目立ってきています。それに加えて人気作品が長編化しているので新規ファンの獲得も難しくなってきているようです。


■ゲームは凋落

そしてゲームは中国のゲーム環境の変化に加えて、日本のゲーム業界自体に元気が無いのもあり漫画よりも明らかな落ち込みになっているようです。元々中国本土では任天堂系のゲームはあまり浸透しておらず、ソニー系やセガ系が強かったので最近は特に厳しいようです。
日本のゲーム、特に日本のRPGに関しては、「ある世代の思い出」といった状態になっているような所も見受けられますね。唯一元気なのは、中国でもPC版が発売されている日本ファルコムのファンくらいでしょうか。


■新興勢力ライトノベル

それから、ここしばらくの間で随分と目立つようになって来ているのがライトノベルです。こちらはライトノベル原作のアニメが増えたのが理由として大きく、それ以外にもライトノベルが現在の中国のコンテンツ消費スピードでも十分な読みごたえがあるということや、中国で流通している正規版の実本がコレクションとして満足感のあるものだといった点が良い方向に働いているようです。


■「基本的にお金がかからず、それなり以上に楽しめる趣味」

現在の中国におけるオタク関係のコンテンツの大きな意味での各ジャンルについての状況はこんな感じでしょうか。日本のオタク関係のコンテンツは現在も中国では使い勝手の良い話題、共通の認識だということは変わっていませんが、その伝わり方や楽しまれ方という部分では変化してきているようです。

以前に記事「なぜ中国の反日活動は日本アニメを狙わないのか?安くて安全なオタク趣味の秘密(百元)」でも書きましたが現在も中国で日本のオタク系のコンテンツが強さを発揮しているのは「基本的にお金がかからず、それなり以上に楽しめる趣味」だからという面もあります。

ですから日本のコンテンツを直接消費者に売っていくという形で考えた場合、イロイロと難しい所があるのも確かですね。とりあえず、こんな所で。例によってツッコミ&情報提供お待ちしております。 

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*本記事はブログ「「日中文化交流」と書いてオタ活動と読む」の2013年4月3日付記事を、許可を得て転載したものです。

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