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習近平の水戸黄門的パフォーマンス=タクシー事件と削除祭りの真相とは―中国

2013年04月18日

■習近平の水戸黄門的パフォーマンス=タクシー事件と削除祭りの真相とは―中国■
 

Chengdu Taxi
Chengdu Taxi / sanfamedia.com


2013年4月18日、中国ネット界のトップニュースとなったのが「習近平、お忍びでタクシーに乗る」。激烈に珍妙かつ不思議なニュースとしてあっという間にネットの話題になったが、夜には新華社が「誤報」宣言。お昼には北京市交通当局が「調べたところ事実だった」とアナウンスしたにもかかわらず、だ。

習近平がタクシーに乗ったか乗らないか、このどうでもいいニュースをめぐるごたごたには何が隠されているのか。


■発端

18日朝、香港紙・大公報が「北京タクシー運転手の思いがけない出来事、習近平総書記が私の車に乗った」という記事を掲載した。

北京市のタクシー運転手・郭立新さんが3月1日夜、北京市の鼓楼西で客を降ろすと入れ替わりに二人の男が乗り込んできた。

運転手「いやー、北京の大気汚染はひどいね」

客「汚染するのは簡単だが改善は難しい。だが中国人の平均寿命は昔と比べて随分延びている。社会の進歩した一面も見なければならない。しかも政府は環境汚染対策と一般市民の健康水準向上に多大なる決意を示している。すでに多くに取り組み、様々な対策を施した。短期的に完全な効果を発揮することは難しかろうが、何事にも過程は付き物。資本主義先進国もこうした辛く苦しい過程を歩んだのだ」

といった具合のやりとりをした郭さん。こりゃ普通の客とは違うぞと目をこらしてみると……。

運転手「あんた、タクシーに乗るたびに誰かに似ているって言われないかね?習総書記に似ているって?」

習「いや、君が気づいた最初の運転手だよ」

最後の習書記のせりふの前には「ニヤリ」という効果音を入れたくなるところ。実際にはもっと長くて収入はいくらか、とか聞いたり、「一帆順風」(順風満帆)と書いてもらって家宝にしたとかいうくだりがあるのだがそこは割愛。


■転載ラッシュ

この香港紙記事を中国本土メディアが転載の嵐。「習近平微服私訪在北京打的」(習近平、お忍び調査で北京でタクシーに乗る)といった見出しがおどった。

「微服私訪」(お忍び調査)といえば、思い出すのが中国版水戸黄門とでもいうべきドラマ「康煕微服私訪記」。偉い人が身を隠して世の中を見て回るというコアな部分は水戸黄門そのまんまである。ならば習近平もタクシーに乗るだけじゃなくて、町娘を助けたりして欲しかった。残念。


■北京市交通部局、“総書記タクシーに乗る」の事実は確かと認める

お昼頃に出たニュース。なぜタクシーがどんな客を乗せたのかまで北京市交通部局が知っているのか不思議でしようがないが、ともかく政府のお墨付きまで飛び出たということで、習近平のぶらり町歩きが事実と認定されました。


■大公報報道は捏造と新華社

午後5時32分、新華社は「香港大公報掲載の「北京タクシー運転手の思いがけない出来事、習近平総書記が私の車に乗った」報道は虚偽のニュース」を掲載。大公報も読者への謝罪文を掲載。

同時に転載されまくった記事、関連記事、ネット掲示板などに削除ラッシュが到来。中国ネットユーザーはびっくり仰天。

というのが今日一日の流れである。


■徹底した削除祭り

さて気になるのはこのバカ騒ぎがなんだったのかという点だ。大公報がお茶目な面白記事を出してみたら予想以上に盛り上がってしまって大変なことに……という可能性もゼロではないわけだが、新華社が否定するニュースを出した後の狂乱じみた削除祭りを見ていると、もうちょっと裏がありそうだ。

中国では都合の悪いニュースが消されるというのはよくあることだが、転載先やネット掲示板では生き残っていることが多い。今回の削除祭りはかなり徹底したもので、香港の鳳凰網まで速攻削除しているなど、かなりハイレベルの厳しさで削除命令がでているもようだ。


■学習粉絲団

記事の中身的に考えて、勘違いしての誤報はありえない。ニュースをでっちあげてしまったか、あるいは正しいニュースだったのに不適切と判断されたかのどちらかだ。

ここで思い出されるのが学習粉絲団だ。学習粉絲団とはマイクロブログのアカウント。昨年11月に誕生すると、人民日報や新華社を上回る速さと量で習近平情報を垂れ流した。特に習近平の南方視察では第一報は官制メディアではなく、このアカウントによるものがほとんどだった。

この学習粉絲団というアカウントはおそらく習近平に近い人物が作ったもので、ソーシャルメディアを利用して民草に新たに誕生した総書記への親近感を植え付けるためのものではないか……などと推測されていたが、今年2月に突然閉鎖された。

閉鎖前、学習粉絲団の中の人は突如、自分は無錫市で働く出稼ぎ農民だと正体を明かした。人民日報、新華社よりも早く豊富な情報は、「ネットで集めただけ」とのたまわっている。


■盛り上がりすぎたのか、それとも……

この説明を素直に信じられる人はそうそういないだろう。盛り上がりすぎたのがまずかったのか、あるいはなにか反対する勢力に迎合してなかったことにしたのでは、と推測する人が多い。

今回のタクシー騒ぎもよく似た構図に見える。華美浪費汚職反対節約万歳を旗頭に掲げる習近平は、お偉いさんの視察で道路を封鎖するな、余計な出迎えの人員は要らない云々との指示を下しているが、そうした節約イメージとタクシーを使うというエピソードはぴったり合致する。ちなみに目的地の釣魚台ホテルに到着した時も出迎えはいなかったとわざわざ記事に書いてあるのも注目ポイントだ。

大公報は親大陸の新聞。このエピソードを人民日報で発表するのではなく、香港紙を通じて発表して盛り上げていきたいという狙いだったのではないか。あまりに盛り上がりすぎたのが悪かったのか、あるいはこうした習近平の親民パフォーマンスが気にくわない勢力が反対したのか、きゅうきょなかったことにされたという筋書きで考えると、腑に落ちるのだが。

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