• お問い合わせ
  • RSSを購読
  • TwitterでFollow

「悪い村役人、少女を市中引き回しに」話題のニュースの裏側を読む、ネット情報戦で官僚を討った村人―中国

2013年05月31日

■「悪い村役人、少女を市中引き回しに」話題のニュースの裏側を読む、ネット情報戦で官僚を討った村人―中国■
 


yyyy-m-d_h-n-s_47o-00


■「悪い村役人に中国ネット世論激怒」の裏側

「悪逆非道の村役人が13歳の少女に手錠をかけ、市中引き回しのはずかしめを与えた」とのニュースが中国で話題となっている。村役人許さまじと誰もが怒りが覚えるニュースであり、世論の盛り上がりを前に問題の村役人が停職処分を受けた。

しかし村役人の主張、さらに現地取材した中国メディアの報道をみると、虐げられていたか弱い村民たちの別の姿が浮かび上がる。農村における政府と村民の緊張関係、そして村民がネット武器に「情報戦」を戦った興味深い姿が透けて見える。


■ザ・時代劇な悪業村役人

事件の経緯についてはすでに日本語でも報道がある。

13歳少女に手錠かけて引き回し? 中国共産党地方幹部ら停職処分(CNN、2013年5月30日)
共産党幹部の車に水かけた少女、手錠姿で街引き回される=貴州(サーチナ、2013年5月28日)
地元政府の公用車に誤って水、13歳少女が手錠かけられ「市中引き回し」―中国貴州省(新華社日本語版、2013年5月29日)

発端となったのは2013年5月27日にマイクロブログで公開された「水をこぼして書記の専用車を濡らしてしまったため、13歳の幼女が手錠をかけられて市中引き回しに」(因倒水淋湿书记专车,13岁幼女戴手铐游街示众)というタイトルのつぶやきだ。

その内容はというと、ざっくり以下のとおり。

・4月6日、貴州省畢節市赫章県可楽イ族ミャオ族郷での話。13歳の少女が不注意にも副郷長が乗っている車に水をかけてしまった。

・怒った副郷長が車から降りて少女を殴打。

・援軍に駆けつけた郷のトップ、袁沢泓郷党委書記。少女を殴打し手錠をかけさせ、約20分間も通りを歩かせるはずかしめを与えた。その後、派出所に12時間も軟禁。手錠をかけられるのを見た少女のおばは卒倒。

・その袁書記、少女の家族に向かって「党が白といえば白、黒といえば黒だ。俺は一声かければ数十人を集められる。歯向かうならやってみろ。とことんつきあってやる」と悪人ゼリフ。

・袁書記はもともとほしいままに村人を殴打し、民草の土地を奪い取る悪役人。ついに我慢できなくなった村人が今、抗議の声をあげてこのつぶやきをアップした。

子どもが不注意で悪代官に水をかけてしまい……という筋書きはザ・時代劇と言えるのではないか。


■政府報告書と取材記事が描く事件

発端となったマイクロブログのつぶやきを読むと、村役人の横暴っぷりがこれでもかと強調されているわけだが、その村役人が当日の騒ぎについて書いた報告書、そして中国青年報の現地取材記事を読むと、印象はがらりと変わる。

・可楽イ族ミャオ族郷は中心部の人口は8000人ほどだが、旧暦で3、6、9がつく火には市が立ち、近隣から3万人余りが集まってくる。

・2013年1月、政府は新たな市場区画を作り、そこで市を開くように村人たちに命じた。他の場所で露店を開くことを禁止し、農作物や果物は新たな市場区画の中でのみ取引するように命じたが、反対者も多かった。政府は市が立つ日には見回りを出し、違反者を取り締まっていた。

・少女の父親、饒富貴も反対者の一人。饒富貴は通りに面した自宅で店を開いており、市場が新区画に移れば商売に差し障りがでる。

・事件が起きたのは4月6日ではなく、3月30日(旧暦2月19日)、少女のおば・金奇郷が見回りの政府職員を罵倒。あまりにもひどすぎると、副郷長の王梅は政府庁舎に連行することに決めた。その車が発車しようとした時、問題の「不注意で水をかけてしまった」が起きる。

・政府報告書によると、少女はわざと車に水をかけ、窓が開いていたため王副郷長がずぶぬれになったという。目撃者によると、水は車の後輪にかかっただけだという。

・どちらにしろこの件をきっかけに口論に。王副郷長は腕まくりして少女に向かっていったとのことなのでやる気満々だったかもしれないが、少女は王副郷長にびんたを食らわし、さらに揉み合いのなか、その手にひっかき傷を残したという。

・最終的に王副郷長は少女を車に乗せて連行した。車がいくらも進まないうちに警察の車が到着。警官は少女をパトカーに移乗させたが、その際に手錠をかけたという。この手錠をかけたままで王副郷長の車からパトカーへの移動が「市中引き回し」の真相となる。なお警官は少女をすぐにパトカーに乗せず、あたりをぐるっと回ったと話す目撃者もいる。


■誰が告発文を書いたのか?

中国青年報の取材記事を読む限り、時代劇調のマイクロブログでの告発よりも、郷政府による報告書が事実に近い印象を受ける。

興味深いのが「誰が告発文を書いたのか?」という問題だ。

報告書によると、少女の父親、饒富貴は市場移転問題に加え、経営していた無認可ネットカフェが政府に取り締まられたとして恨みに思っており、事件後には、「うちが100万元(約1600万円)を出して、メディアにこの事件を大々的に報道させてやる。袁書記をひきずりおろしてやる」と発言していたという。

中国青年報によると、問題の告発文は自分がやったものではないと饒富貴は否定している。ただし、郷政府の違法行政、市場移転に関する問題点、そして少女の市中引き回しなどについて、人に頼んで文章にまとめてもらったことを認めている。記者がその文章を見せてもらったところ、マイクロブログの告発文ときわめてよく似ており、しかも事件が起きた日時を4月6日と間違えている点も一致していた。


■政府批判広告代理店

饒富貴は否定しているが、告発文は彼が書かせた可能性が高そうだ。面白いのは自分で書いたのではなく、誰かに書いてもらったという点である。

ネットでの告発が効力を発揮するか否かは、どれだけ話題になるか注目を集められるかによって決まる。いくら大事なことを書いても、文章が読みづらかったり、訴えかける力がなかったり、うまく転載の連鎖を起こすことができなかったりすれば、何の騒ぎも起こせない。素人にはなかなか厳しいハードルである。

ここで登場するのが専門の業者だ。広告代理店という肩書きのことが多いようだが、うまく話題になるようノウハウを駆使してくれる。「少女が市中引き回しに」「妊婦が殴られて胎児が死んだ」といった人々の同情をうまく集めるようなネタを放り込み、興味を引き立てる文章でまとめ、ネット掲示板やマイクロブログで話題になるようテクニックを駆使する。もともとネット掲示板のヘビーユーザー、管理人だった人が後にこの種の商売に転職する例も少なくないのだとか。

「裁判は問題解決の助けにならない」と人々の期待を失っている。となれば残る手段は(1)陳情、(2)デモやストライキ、道路の占拠などの騒ぎを起こす、(3)ネット世論を喚起するの3択だ。ネット世論に訴えるのがもっともお手軽に思えるが、それはたんに事実を人々に訴えるというような生ぬるいものではなく、テクニックを駆使した「情報戦」となる。

関連記事:
「医療ミスをごまかす最強言い訳2012」が登場=三面記事と民間情報戦―中国
炎上で儲ける中国版フリーミアム「炒作」=大根アニキの逆転劇―中国
煽って釣って騙しまくって……ネット掲示板工作員体験記―北京で考えたこと
公共心を食い物にする知識人、人気ブロガーを信じられるのか?炎上大国・中国からの提言
釣り記事?それとも本当?「美しすぎる物ごい」「ロリ乞食」に中国ネット民騒然
ネット世論観測産業の勃興=民の声に怯える政府が大口顧客―中国


トップページへ

 コメント一覧 (1)

    • 1. Anonymous
    • 2013年06月01日 09:44
    • 役人が酷すぎるという同情集めもあるという事ですか・・・
      上が上なら下も下だった。

コメント欄を開く

ページのトップへ