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キメラの肖像:抗日戦争キテレツドラマの誕生と死=ドラマ「アテナ」の敗戦処理を事例に―中国

2013年07月08日

■キメラの肖像:抗日戦争キテレツドラマの誕生と死=ドラマ「アテナ」の敗戦処理を事例に―中国■
 


■キメラの肖像:抗日戦争キテレツドラマの誕生と死

抗日戦争キテレツドラマ・アテナ(雅典娜女神)の一部取り直しが決まった。

今年、結構な話題となった抗日戦争キテレツドラマについては「【写真・動画】SFで何が悪いのか?!リアリティ・ゼロの“SF”抗日戦争ドラマを弁護する―中国」「クリエイターの逃げ場となった中国の「抗日戦争ドラマ」=“抗日”というビジネス」にまとめてあるが、簡単に説明すると、

西暦20XX年、中国ドラマ界は共産党の検閲の嵐にさいなまれていた。スパイ物、推理物、宮廷劇など人気ジャンルが次々封印されるなか、「共産党に怒られずにそこそこ視聴率を稼げるジャンル」として人気を博したのが抗日戦争ドラマ。

しかも封印された他ジャンルのスタッフが集結し、「これまで武侠カンフードラマを撮ってきたので、当然武侠カンフー抗日ドラマを撮るでござる」「ボクはアイドルドラマを撮ってきたからアイドル抗日戦争ドラマを撮るよ」というカオス的状況が発生。抗日戦争ドラマを隠れ物にしたキメラ的作品が量産されるようになった。また粗製濫造されるなかでどうにか新味を付け加えるべく、「弓矢で戦う共産戦士」「尼さん部隊超強い」といったキテレツ要素も次々と投入され、“抗日劇”(抗日戦争ドラマ)から“抗日雷劇”(抗日戦争キテレツドラマ)へと華麗なる進化を遂げた。

世界のキワモノ好きを熱狂させるB級ドラマであり、かつ「パパは恋愛ドラマが見たい!」「ママはエロとバイオレンス!」「私はアイドルものがみたい!」という、タコつぼ化した家族のニーズを全部満たしてくれるという、無限のポテンシャルを秘めた抗日戦争キテレツドラマ。

だが今年転機が訪れる。共産党寄りの人々からは「真実の抗日戦争史を描いていない」と怒られ、共産党嫌いの人々からは「抗日戦争ドラマばっかりでもううんざりさ」と猛バッシング。当局も規制する姿勢を示し、このキメラ的ジャンルは滅びようとしている。 


■抗日戦争キテレツドラマの敗戦処理:風向きが変わった時点で完成作品がごろごろ

というわけで基本的には規制、プラス「今までは検閲通りやすかったから抗日戦争ドラマで企画通していたけど、今の状況やと政治リスクが高すぎて無理やわ」という資本家の警戒心により、抗日戦争キテレツドラマは滅びへと向かっている。

が、敗戦処理が結構大変なのである。というのも中国ではまずドラマを完成させてから検閲にかけなければいけないのだ。視聴率が低いから途中で脚本に手を入れててこ入れといったことももちろん不可能。

そういうわけで、風向きが変わった時点ですでに完成した作品がごろごろしているのだ。ある作品は放映を禁じられ、ある作品は問題になりそうな描写を削って放送。「尼僧小隊」というタイトルを「女兵小隊」に変更したというケースもある。


■アテナの敗戦処理

という、長い前置きを踏まえて、“初めて撮り直しが決まった抗日戦争キテレツドラマ”という名誉ある称号を手に入れたアテナについて。ともかく下記の映像を見て欲しい。

*トレイラー


*第一話。オープニングだけでも見るとだいたいわかる。

女優の葉璇がプロデューザー、主演を務める本作品は1932年の上海租界を描いている。日本人の養父を軍に殺されたヒロインは面の顔は社交界でモテモテの令嬢、夜の顔はコードネーム・アテナのスパイとして活躍。さらに満州国親王の王子にして共産党スパイ組織のリーダーというイケメン男性、租界警察の署長というイケメン男性との三角関係に陥りながらも、悪魔のごとき日本軍が計画する「武装租界日僑計画」(租界に住む一般の日本人が日本軍を支援するスパイ活動を行う、というものらしい)をぶっ潰すために、日本軍内部に侵入しながらスパイしたら、カンフーしたり、恋愛したり、裏切ったりしながら、わきゃわきゃストーリーが進んでいくらしい。

抗日戦争、スパイ、恋愛、社交界、カンフー、マーベル、ポールダンス、芸者を錬成して作ったキメラ的抗日戦争キテレツドラマだ。残念なことに予算は少なめっぽい。

20130708_写真_中国_抗日戦争キテレツドラマ_3

中国の報道で批判が集中しているのが第一話の冒頭。たぶん批判記事を書いているやつは最初しか見ていないな……。

そのシーンとは水着女性が大量に動員されたプールでのパーティー。徹底した娯楽性がうかがえる。テレビで見られるレベルのエロが見たいお父さん来てください、というわけだ。このパーティーだが、実は日本軍高官を殺害するために共産党スパイの満州国王子が仕組んだものだった。が王子は美女に「今晩きて」と誘われたり、シャンパン煽ったりと、共産党魂が一切感じられない退廃っぷり。この時点でかなりアウトだろう。

で、その後、襲撃シーンになる。マーベル的、グリーンホーネット的なコスチュームに着替えた中国人スパイたちがカンフーで日本兵をなぎ倒す楽しいアクションシーンへ。しかも見栄を切ると、なんかカッコイイ紹介カットが登場するというサービスっぷり。

20130708_写真_中国_抗日戦争キテレツドラマ_2
こちらが満州国王子。本名は納蘭東。あだなは混元盾。役割は共産党特戦隊隊長。特技は太極拳、流派は武当派。暗殺を担当などと親切な表示。

20130708_写真_中国_抗日戦争キテレツドラマ_
こちらはヒロイン・瑠璃子。役割は復讐の女神。特技は擒拿。流派は合気道。でもって職能は全能、とのこと。プロデューザー兼主演だからってやりすぎやで!

低予算ながらバカ笑いして見られそうなステキな作品だがご時世には勝てず、一部シーンをカット、再撮影することが決まった。制作者側は「若人を引きつけるために現代的な要素を盛り込んでみたが、それがあかんかった」とコメント。水着シーンを筆頭に「現代的すぎる」シーンをカットするらしい。

もっとも本作は全国放送はまだだが(=CCTV及び各省の衛星チャンネルでは未放映)、地方テレビ局ではすでに放送済み。ネットではすでに全話公開されている。今回の報道を機にネット人気はむしろ盛り上がる可能性もあるのではないだろうか。

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