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「6.5%成長まで減速しても問題はない」中国高官の発言とその波紋

2013年07月12日

■「6.5%成長まで減速しても問題はない」中国高官の発言とその波紋■
 


Li Keqiang - World Economic Forum Annual Meeting Davos 2010 / World Economic Forum


■リコノミクス3本の矢


経済・金融改革に意欲を見せる李克強首相。バークレイズ・キャピタルによると、リコノミクス(李克強経済学)の3本の矢は「景気刺激策は採らない、デレバレッジ、構造改革」だという(FT中文)。3本目の矢はアベノミクスと一緒だが、1本目、2本目の矢は真逆となっているのが面白い。

デレバレッジ(債務を減らす)はGDPの押し下げ圧力となる上に景気刺激策は採らないというのは、「ある程度の成長鈍化は織り込み済み」という雄々しい宣言なのだが、では果たして「どの程度まで下がることを許容するのか?」という点が焦点となる。

3月の全人代で2013年の経済成長目標は7.5%と発表されているのだが、このたび中国財政部の楼継偉部長が「6.5%まで落ちてもたいした問題ではない」と気になる発言をしている。

ちなみに雑談だが、日本語報道ではリノミクス、リコノミクス、リコクノミクスと全力で表記が混乱しているが、どうやら英語表記が「Likonomics」でまとまりそうなので、本サイトではリコノミクス表記を推していきたい。


■6.5%成長になっても大丈夫

楼部長の発言は2013年7月11日、米ワシントンで開催されている第5回米中戦略経済対話での記者会見の席上でのもの。「中国の今年の経済成長率は7%に達するだろう。6.5~7%の成長率は中国にとって問題ではない」と発言したという(アップルデイリー)。

中国の2013年の成長率は第1四半期が7.7%。第2四半期が7.5%と予測されている。6.5%はもちろんのこと、ここから7%に落ちるだけでもかなりの急ブレーキっぷりで大騒ぎとなることは必至だ。そもそも中国政府は2013年の経済成長率目標値を7.5%に定めており、新政権が発足した初年度にこれを割り込むなどという“メンツを失う”ことができるとは思えなかった。

というわけでかなりのビッグニュースなのだが、楼部長の発言を報じた新華社記事は6.5%という数字を華麗にスルー。「7%成長の目標に大きな問題はない」とだけ報じている。サーチナが中国網の記事を翻訳、紹介しているが、こちらも6.5%という数字はスルー。

中国メディアはこの6.5%発言については基本的に報じていない。新浪財経捜狐証券がブルームバーグ記事の紹介として報じたのみ。これほどの大ネタとしては不自然で、中国当局から規制されている可能性もありそうだ。


■李克強発言の波紋

「経済成長率をどの程度まで下げるのはアリなのか問題」については、李克強首相も9日、広西チワン族自治区で興味深い発言をしている。

我が国は現在、経済構造転換とアップグレートを経て初めて健全な発展を持続しうる段階に達している。安定成長、構造転換、改革促進をワンセットとして推進することがきわめて重要だ。安定した成長は構造転換のために有効な場と条件をもたらす。構造転換は経済成長に力を与える。両者は相補的な関係にある。

改革を通じて体制・システムの障害を取り除くこと、すなわち安定成長と構造転換に新たな力を与えなければならない。マクロ調整は現状に立脚し長期的な視野を持って、経済運行を合理的な幅の中におさめなければならない。つまり成長率や雇用水準が“下限”を割り込んではならず、物価上昇率は“上限”を超えてはならない。

このような合理的な幅に収めてこそ、構造改革、改革促進、経済構造転換・アップグレードに力を入れることができる。これと呼応して、合理的なマクロ調整の政策的枠組みを形成し、経済情勢の異なる情勢に対応して、構造調整、改革促進と安定成長、雇用確保とインフレ予防、リスク管理を有機的に結合させなければならない。

採るべき政策は一石多鳥でなければならないのだ。安定成長と構造転換の両立、現在の問題にも長期的な問題にも対応するもので、経済の急変を避けなければならない。(人民網

一石多鳥(原文は一挙多得)とはこらまた大変ですねぇ……と同情したくなるのだが、これまでの改革重視の姿勢からやや転換しているのではないかとの印象を受ける発言だ。10日付時事通信は「改革に伴う多少の成長減速は容認するものの、政府年間目標の「7.5%前後」は死守するとの決意とみられ、景気悪化への懸念をにじませた」と評している。

で、これまた面白いのだが、6.5%発言同様のメディアによる印象操作がこの李克強発言にも存在する。12日付新華網がこの李克強の講話を「中央政府の経済政策は変化したことはない」とのタイトルで報道。人民網の報道では「経済運行を合理的な幅の中におさめなければならない」としていた部分が、「中国の経済運行は相対的に見て安定しており、主要な指標はなお年度予想の合理的な幅から外れていない」と変えられている。




「6.5%発言」にせよ、「合理的な幅」発言にせよ、その不思議な報道のされ方は、「成長率低下をどこまで認めるか問題」で、中国政府内部でのコンセンサスが得られていないのではないかと感じさせる。

そもそも中国ではこれまでも中長期的視点の改革が唱えられるたびに、景気低迷を看過できずに手を緩める……といったことが繰り返されてきた。今回もまた同様の構図が繰り返されることは間違いない。

それでも改革を断行できるのか。もし7.5%成長を割り込んだらどう言い訳するのか。一部では「今なら前政権の責任にできるから荒療治もOK」という観測もあるが、マジでそんなことができるのか。就任以来急速に顔色が悪くなっている李克強首相、これ以上顔色が悪くなったらやばくね?といった点が今後の注目であろう。

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