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巨大ロボットがペガサス流星拳?!映画「パシフィック・リム」中国語版の“神翻訳”と中国字幕翻訳者ブラック話

2013年08月24日

■巨大ロボットがペガサス流星拳?!映画「パシフィック・リム」中国語版の“神翻訳”と中国字幕翻訳者ブラック話■
 


パシフィック・リム (角川文庫)

■エルボーロケットがペガサス流星拳に

ロケットニュースに「中国で『パシフィック・リム』の技「エルボーロケット」が「ペガサス流星拳」と翻訳 → 理由「監督は日本のアニメが好きだから」 → 米・映画会社からクレーム」という記事が掲載されています。

中国語メディア情報も補足しつつ説明すると、興収5億元(約80億円)超えと中国で大ヒット中の米SF映画「パシフィック・リム」の中国語字幕で、必殺技「エルボーロケット」を「ペガサス流星拳」と訳すやりすぎや、ごくごく単純な翻訳ミスがネットで指摘され炎上。

メディアの取材に翻訳者の賈秀談さんは「ギレルモ・デル・トロ監督が日本アニメファンだと予習したので」など弁明するもさらにバッシングは高まり、気づけば賈秀談さんも弁明しなくなり、会社にもう姿を見せるなと怒られたんじゃね、というようなお話です。


■神翻訳のトレンド

この賈秀談さんについては、2012年5月、本サイトの記事「映画「メン・イン・ブラック3」の超訳字幕が話題に=表舞台に上がった80後ネット文化―中国」でも取り上げています。

例えば、エージェントJ(ウィル・スミス)がエージェントK(トミー・リー・ジョーンズ)に道端のケバブを買うのはやめとけというシーンでは、「何度も言っただろ。露店はやめとけって。あいつらは下水油、痩肉精を使ってると思うぜ」との訳に。

他にも「坑爹」(日本アニメ「ギャグ漫画日和」の海賊版同人吹き替えが発祥のネットスラング。「してやられた」の意)、「傷不起」(ぼろぼろに傷ついてこれ以上は傷つけられないの意。日本語の「もうやめて!HPはとっくにゼロよ」か)、「Hold不住」(ある芸能番組発祥の単語。「この場を掌握できない」の意)などなどが使われている。

こうした「やりすぎローカライズ」「神翻訳」は何も賈秀談さんの独創ではありません。同人サークルが中国の東北方言でアニメ「ギャグ漫画日和」を吹き替えた作品が大人気になったことが典型じゃないかと思われますが、「神翻訳」は同人吹き替えの世界では一定の支持を集める手法。それが公式字幕の世界にまで浸透したというのが正しい見方でしょう。

ただし公式の「神翻訳」への反感は相当だったようで、賈秀談さんはメン・イン・ブラック3以来ぼこぼこに叩かれていたようで。


■字幕翻訳者残酷物語

しばらくの間(といっても10日ぐらいだと思いますが……)姿を消していた賈秀談さんですが、実は発言を禁じられたわけではなかったよ、たんに学業が忙しかっただけだよ……という記事が掲載されました。23日付時代週報「“ペガサス流星拳”背後の映画翻訳企業渡世の秘密解明」です。にわかには信じられないのですが、せつなくもブラックな字幕翻訳者業界について語られています。

実は賈秀談さんは以前、務めていた中国人民解放軍八一映画制作厰を辞め、大学院生になったとのこと。「パシフィック・リム」の字幕翻訳は学業の傍らのお仕事だったそうです。もっとも会社に勤めていた時代もメインのお仕事は広報。字幕翻訳はメインのお仕事ではなかったそうで。彼女だけではなく、同社で働く字幕翻訳者は秘書をやっていたり、新聞記者をやっていたりする人ばかり。字幕翻訳1本で食べている人はなかったのだとか。

それというのも映画の字幕制作、吹き替えは激安のお仕事で、パシフィック・リムもわずか5万元(約80万円)で字幕と吹き替え版を作ったのだとか。このお金は字幕翻訳者から声優さんやエンジニアまですべての人件費を含むもので、翻訳者のお給料は3000元(約4万8000円)程度しかないのだとか。なお5万元という金額は映画の規模にかかわらずほぼ決まった料金とのこと。

かつて中国映画産業が親方日の丸ならぬ国有企業ののんびりした世界を生きていたころは、翻訳・吹き替えスタッフも充実。アラビア語などのマニアックな翻訳者もとりそろえられており、「入社してから定年まで1本も翻訳担当作品がなかった」という豪の者までいたのだとか。それがWTO加盟後の2002年以後、市場経済モードにさらされて翻訳・吹き替え制作会社には厳冬が到来。人員も削減されまくり、正規採用の職員もほぼいない世界になったとの説明しています。

「薄給なんやったら仕方がないやんか!文句があるならおまえらが翻訳しろ」とか同情したくなってしまうわけですが、なにせ中国には無数の同人サークルがあって、その下っ端メンバーは無給で翻訳しているわけで、「わかった!家で海賊版見るべ」と言われてしまいかねない状況。なかなかせつない話であります。

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