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ファッショナブルな若き保守派中国人の台頭とその転落=四月網問題で分かったこと

2013年09月29日

■ファッショナブルな若き保守派中国人の台頭とその凋落=四月網問題で分かったこと■

Chang sha
Chang sha / *** Fanch The System !!! ***


中国保守系ニュース・コミュニティサイトの四月網の創設者と従業員が経営権をめぐり対立している。従業員側は創設者の饒謹は四月網を食い物にしたと辛辣に批判し、給与保全を求めて裁判所に訴えたという。ファッショナブルな中国の保守として世界を驚かせた“四月青年”たちはどこへ向かうのだろうか?


■2008年、若きファッショナブル保守の誕生

Anti-CNNという言葉に聞き覚えはないだろうか?2008年、それなりに世界的な話題となった中国のサイトだ。

北京五輪が8月に控えたこの年、チベットの騒乱、北京五輪聖火リレーと“海外メディアの偏向的中国バッシング”が続くなか、その抗議運動の中心となったウェブサイトだ。同年4月に抗議活動はピークに達し、中国青年報は彼らを“4月青年”と名付けた。
(関連記事:中国の若きナショナリストたち=四月青年と愛国主義文化産業

中国の保守派といえば、「毛左」(毛沢東左派)とサイト・烏有之郷が有名だ。しかし毛左の支持者は年齢層が高く地方出身者が多いイメージがつきまとっているのに対し、“四月青年”たちはウェブに習熟し、動画や音楽をたくみに使ったスタイリッシュなスタイルをとっていた。

ネットに詳しいナウなヤングたるもの、リベラル的右派的思想を持つのが正しいトレンドという風潮が強い。リベラル的な傾向が強い南方週末はその層に強烈にアピールすることによってビジネスを成り立たせている。その一方で、少数派とはいえ愛国主義路線・左派路線に走る若者たちも存在する。リベラル系の若きネットユーザーたちの軽妙な手法を用いつつ、主張は左派的というのが“四月青年”たちだった。

Anti-CNNの創設者が饒謹。同サイトを足がかりに言論人としての地位を確立したばかりか、2010年には1000万元(約1億6200万円)の出資を得て、Anti-CNNを四月網というニュース・コミュニティサイトに改変。本格的に若手左派向けメディアビジネスに乗りだした。


■四月網の転落

と1年少し前に書いたばかりなのだが、その4月網が経営危機に陥り、経営者と従業員がもめている。その状況についてはRFI中国語版の記事「四月網の株式紛争から見る左派ネットサイトの世界」に詳しい。

四月網に出資したのは体制寄りの投資家・李志黙と見られている。ただし李は表だって関係を認めておらず、株主登記にもその名前は記載されていない。体制よりの左派サイトを支援することで政府との関係を深めていたのではないかと記事は推測している。また国家インターネット情報弁公室旗下の企業がネット接続料を負担していたという。

その状況に変化が生じたのは昨年の薄熙来事件だった。左派のアイドル、薄熙来の失脚を受け、四月網にも薄熙来推しの書き込みが集まった結果、サイトは一時閉鎖される事態に。また国家インターネット情報弁公室もネット接続料を負担しなくなった。四月網の広告収入は月1万元(約16万2000円)程度で従業員を養うレベルではなく、支援が打ち切られた時点で敗北は必至だった。

今年8月、饒謹は従業員に対し、資金不足でオフィスを撤退しなければいけないと宣告。従業員に自宅待機するよう宣告した。今年9月、四月網の出資者が仲裁し、饒謹が経営から退き、株式保有率を20%にまで減らすこと。出資者が保有する全株式を従業員に分配すること、未払い給与を含む債務を清算することで話をまとめた。

ところが仲裁の直後、饒謹はサーバのパスワードを変更。従業員が手出しできないようにした上で、独自に四月網の運営を続けている。仲裁を保護にされた四月網従業員との関係は紛糾し、給与支払いを求めて裁判沙汰となっている。

また四月網従業員らが暴露するところによれば、従業員のほとんどは社会保険なしのパートタイマー扱いで、月給4000元(約6万4800円)程度という北京では安すぎる扱い。ネット接続料がタダとあっては3年で1000万元を使い切ることはないはずで、饒謹が自分の懐に金を納めたのだと批判している。


■四月網問題からわかったこと

Anti-CNNは衝撃的だった。ネットユーザーを引きつける軽妙なジョークを使いこなし、動画編集にもたけ、さらには外国語にも堪能。さっそうと海外のメディアに反論する、若き中国の愛国者の登場だ。2008年の福島香織さんのブログにはAnti-CNNからやってきたという中国人ネットユーザーのコメントが紹介されている。日本語のブログを読み反論のロジックを練って、書き込んでいったというわけでなかなかできることではない。

そのAnti-CNNがこんな末路を迎えるとは……。

ここから何を読み解くべきか。第一にカジュアルな左派の層の薄さである。2008年の北京五輪、四川大地震、チベットの騒乱を機に若き愛国者たちの存在が注目を集めたが、それは結局のところ大事件によって喚起された存在であり、ビジネスを成り立たせるほどのコミュニティやトレンドには成長しなかった。

第二に中国のネットメディアビジネスは食えないという点だろうか。ニュースのコピペが合法的な中国では、自分の根城にしているポータルサイトやネット掲示板でニュースを読む習慣があり、ネットメディアが広告収入で食べていくのは至難の業だ。ほとんどが紙媒体の広告収入でネットメディアを養っているという構造で、ネットメディア単体で生き残っていくことは難しい。

そして第三にいわゆる民間の左派と政府との結びつきだ。四月網がそうであったように、中国共産党中央、あるいは中央政府のお抱えではないにせよ、なんらかの公的支援を受けているケースが多いようだ。四月網から枝分かれした独家網は北京市警察から支援されているという。また烏有之郷のバックには共産党の元老がいると伝えられる。左派のイデオローグには薄熙来から金が渡っていたとの情報もあるほか、四月網の饒謹も薄熙来時代の重慶政府と結びつきがあったという。こうした政府の支援は左派サイトを生存させる原動力となる一方で、政局いかんによってその生存が左右される事態にもつながっている。

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