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農村工業化から新型都市化へ=中国都市化に関するまとめ(岡本)

2013年11月16日

■中国の都市化 Revisited■

Shanghai
Shanghai / HerryLawford


中国の都市化で起きていることをわかりやすくまとめてみようと思います(関連エントリ「中国の都市化の問題」)。とくにここでは都市化で起こる実物的変化と貨幣的変化の両面を合わせて考えることを主眼とします。


■都市化のメリット

2012年12月に開催された中央経済工作会議で、李克強は「新型都市化」を打ち出しました。都市化を強調した背景には中国経済の構造変化の必要性があります。投資主導で成長している中国経済を消費主導型に変更するには、都市化が有効と考えられるからです。都市化によって消費主体である都市住民を増加させることが可能だからです。

その他にも都市化は持続的経済成長に有益です。都市経済学の文献で(例えばグレイザー『都市は人類最高の発明である』、書評はこちら)も、都市化はGDPの成長、技術の革新、エネルギー資源の節約、環境保護に有益であることを指摘しています。


■都市建設とその問題点

都市に対抗する概念は農村です。都市化ということは農村でなくなること、すなわち第二次産業、第三次産業中心の地域経済をつくるということです。農業をしなくなるため、人々はビルに住み、工場やオフィスに働きにいくようになります。職住接近する方が便利であるため、人は集まり都市を形成していきます。

中国は農村工業化という方法で経済発展してきたために他国と違って都市化が遅れました。農村工業化は農村の郷鎮企業が第二次産業、第三次産業の主体となって農民の雇用を吸収し、都市に人が流れないようにするというものでした。したがって中国は「都市化なき経済成長」をしてきました。

それでも、深センや広州などの珠江デルタ地帯、上海や南京などの長江デルタ地帯には仕事を求めて人が流入してきましたし、経済特区や開発区では急速に都市化が行われてきました。つまり、多くの企業と労働者を受け入れるために“街”がつくられてきました。

街をつくるためには農村地帯の土地を買い上げ、住宅や工業団地(開発区)を造成していく必要があります。そこで政府は、農村から土地を買い上げ急ピッチで街をつくっていきました。中国の街をつくるという都市化における問題はよく指摘されるように以下の点があります。


(1)土地制度の問題
(関連エントリ「農民の土地強制収容問題」「中国の土地問題」)

農村の土地は集団所有(基層政府管理)、都市の土地は国有となっています。都市化のために農地を接収しマンションや開発区を整備する場合は一旦国有地に変えてから開発を行います。手続きが煩雑になっているのは、中国全土の農地を減らさないようにするためです。耕地18億ムーを維持するという最低ラインがあるので農村の乱開発を防いでいるとともに、この土地制度の二元化によって都市化が抑えられていたということがあります。


(2)土地買収の問題
土地買収とマンションや工業団地建設・販売は地方政府にとって金を生む打出の小槌となりました。都市化は財政難に苦しむ地方政府にとって財源確保の手段ともなります。これにより農民から土地を強制収容することも発生し、烏坎事件のように農民と基層政府との軋轢を生むことになります(関連エントリ「中国の一般民衆(人民)は共産党・政府を信頼している」)。


■都市化の資金はどこから調達するのか?

現在のところ中国の都市化は街をつくるというインフラ面での整備が中心です。この意味で経済構造を消費主導型に転換したいという意図がありながらもまだ投資主導型の都市化が行われていることになります。インフラ建設の投資資金はどこから流れてくるのでしょうか。

上でも述べたように補償を少なくして土地を収容し、不動産物件にして販売するというキャピタルゲイン的な手法によってインフラ建設資金を調達する方法があります。もう一方で、民間資金を活用して開発区が生み出すキャッシュ・フローを証券化する方法もあります。

中国では正規の金融システムが規制によってがんじがらめになっています。銀行の利子は低く抑えられているために家計は銀行にお金を預けません。また銀行は国有銀行が主体であり、貸出も国有企業に向かいます。

そこで地方政府は融資平台(プラットフォーム)と呼ばれる地方政府主体の国有開発事業体を立ち上げます。地方政府の信用をもとに国有銀行融資を受けてその資金でインフラ建設を行います(関連エントリ「地方政府とは?」)。土地を担保にした融資の拡大を引き起こし、「土弊」(土地が貨幣化し信用バブルを生む現象)を各地に生み出しました。

融資平台を経由した地方政府への債務が増加してくると、中央政府から融資の制限がかかります。今度は融資平台はマンション、地下鉄などの都市インフラ、開発区等の開発において社債を発行します。都市インフラが生み出すキャッシュ・フローを返済原資として証券化が行われることとなります。

これがシャドーバンキング、信託銀行による「理財商品」の開発につながります。銀行よりも利子率が高いため、家計資金が理財商品に流入し、地方のインフラ建設を支えるようになりました。すなわち民間資金を活用したインフラ建設です(関連エントリ「中国はインフラ建設での「民間資金活用」先進国!?」)。


■貨幣面の課題

都市化にともなう貨幣面での問題は以下のようになります。


(1)不動産バブルの問題

都市化という開発期待は土地需要を高めます。土地を開発すればお金になる、という期待は土地バブルを発生させやすいのです。土地が開発されマンション群が立ち並び、多くの人が投資目的で購入することがあったとしても、実際に人はほとんど住んでいない「鬼城」(ゴーストタウン)になってしまう現象も発生しています。不動産価格が上昇していても実需が追いついておらず、もし何かのきっかけで融資をした銀行が債権回収に動けば、不動産の投げ売りが始まり、バブルが崩壊する危険さえあります。


(2)地方債務の問題

インフラ建設のための資金調達は国民からの先借りという性質を持ちます。銀行融資によって融資平台の債務が増加する、あるいは理財商品を通じて家計が都市インフラの証券を保有する、どちらにおいてもインフラ建設が一旦ストップする、あるいは過剰供給になって開発区に誰も入居しないというようなことが発生すると、キャッシュ・フローが止まります。

もしそうなると、銀行の債権、個人が所有した証券の価値がなくなることになります。銀行は不良債権を抱えることとなり、家計は大きな損失を抱えます。銀行は最終的には公的資金の注入で救われる可能性がありますが、それも家計の税金負担によって賄われます。どちらにせよ、インフラ建設に必要な資金は家計が負担しており、都市化の失敗のツケは家計に回されることになってしまいます。


■消費拡大策としての都市化、課題は「人間の都市化」

現在の都市化はインフラ建設という供給面に偏っています。そもそも中国経済の成長が投資が主体となっています。この経済成長は「需要の先食い」であり、需要が追いつかないことが判明すると経済成長は急落する可能性さえあります。

中国政府もこの問題を十分に認識しており、したがって、都市化による経済構造の転換を狙っているわけです。都市化によって都市の雇用場所が増加し都市住民が増えます。都市住民の購買力が向上し、財を購入するのみならずレジャーなどの都市型サービスの消費が伸びることが期待されます。これにより国内消費主導型経済への転換を図ることが可能になります。

しかし問題もあります。農民が都市住民になれないといういわゆる戸籍問題です。戸籍制度により都市で働く農民の雇用機会が限定されている、都市では農民の子どもの教育機会がない、失業保険、医療保険や年金などの社会保障がない、などの制度的差別は、農民を消費を牽引する経済主体へと転換することを不可能にしています。インフラ建設ではなく、「本当の都市住民をどのようにつくるのか」つまり「以人為本」の都市づくりが中国都市化の本当の課題だといえます。

■参考文献リスト
エドワード・グレイザー(山形浩生)(2012)『都市は人類最高の発明である 』NTT出版
日本経済新聞社編(2013)『習近平に中国は変えられるか』日本経済新聞出版社(とくに第二章)

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*本記事はブログ「岡本信広の教育研究ブログ」の2013年7月16日付記事を、許可を得て転載したものです。


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