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国際的慣例とは違う、異常な“中国式防空識別圏”、ルール作りの大ポカは中国自身のマイナスに

2013年11月28日

■国際的慣例とは違う、異常な“中国式防空識別圏”、ルール作りの大ポカが中国自身の首を絞めることに■

B-52
B-52 / jabberwock


2013年11月23日、中国が東シナ海に防空識別圏を策定したと発表。日米が強く抗議するなど、新たな緊張の火種となっている。

もっとも防空識別圏とは各国が勝手に制定していいもので、他国の防空識別圏や領空と重複しても特に問題はない。ではなぜこれほどの火種となったのか。その根本には中国の防空識別圏が他国のそれとは異なる、異常な規定を持っているからにほかならない。


■防空識別圏とはなにか?

そもそも防空識別圏とはなにか?多くのメディアが解説記事を出しているが、元航空自衛官・数多久遠氏による解説記事、「中国による尖閣上空への防空識別圏設定の意味と対策」 がわかりやすい。ポイントをまとめると、

・防空識別圏自体はなんらかの権利を主張するものではない。
・自国の領空に進入する可能性がありそうな航空機を識別する範囲でしかない。
・徹頭徹尾、自国防衛のためのものなので勝手に制定してもいいし、他国と重複していても構わない。陸地で国境を接している国の場合、相手国の領空に防空識別圏がはみ出すことも普通。
・防空識別圏に不明機が入った場合、領空を侵犯しそうな問題のある航空機なのかを考え、無線で連絡したり、あるいは戦闘機をスクランブルさせて確認、警告する「こともある」。
・ただし防空識別圏に入ったこと自体はとがめ立てすることはできない。

というもの。


■中国が防空識別圏を設定するのは自由

となると、中国が防空識別圏を策定するのはどうぞご自由にという話になるし、むしろ今までも公表してなかっただけであったんでしょ?ないならびっくりですわということになろう。

最大の懸念は、尖閣諸島上空で日中の戦闘機が対峙、なんらかの偶発的衝突が起きるという可能性だろう。船の場合と違い、戦闘機同士のにらみ合いではリスクははるかに大きなものとなりそうだ。ただしこれも究極的には防空識別圏とは関係ない。

中国側の主張では尖閣諸島は彼らの領土。その上空を飛ぶことは当然の権利という話になる。防空識別圏を策定、公開しようがしまいが、中国のロジックではいつでも巡視飛行が可能だし、その領空に日本機が進入すれば中国機も出動することになる。つまり戦闘機同士の対峙と防空識別圏にも根本的には関係はないということになってしまう。


■異常な中国式防空識別圏

ならば、今回の防空識別圏策定は特に騒ぎ立てるような必要性はないのだろうか。それは違う。中国政府はは国際慣例に従って策定したと繰り返し表明しているが、実は中国の防空識別圏は上述してきたような「普通」のそれとは異なるものだからだ。23日に発表された「中華人民共和国東シナ海防空識別圏航空機識別規則公告」がそのことを明示している。

まず第一条からして「中華人民共和国に東シナ海防空識別圏を飛行する航空機は必ずこのルールを守らなければならない」と、他国の航空機に義務を負わせている。以下、フライトプラン提出、無線通信ができるような状態にしておくこと、そして何より中国側の指示に必ず従うこといずれも義務としている。従わなければ、「中国武装力量は防御的緊急処置対応をとる」と明記している。

繰り返しになるが、本来、防空識別圏とは自国防衛のため勝手に策定するもので、他国の航空機になにかの義務を負わせることはできない。他国でもフライトプランを提出しているケースもあるが、それはあくまでお願いに過ぎない。その意味で義務を強要する中国の防空識別圏は通常とは異なる異質のもの。米国がそんな必要はないと一蹴したのもむべなるかな、だ。


■中国式防空識別圏から通常の防空識別圏へ、静かな路線変更

なぜ、こんな異例なルールにしてしまったのかは定かではないが、やはり中国国防部の勘違いがあることは否めない。そして、その勘違いは日米をはじめ各国が強く抗議する口実となっただけではない。中国国内の世論の対応に苦慮する困った状態を引き起こしている。

26日昼(北京時間)、米軍の爆撃機B-52、2機がフライトプランなしに中国の防空識別圏を飛行した。上述のとおり、米軍機に中国領空侵犯の意志はないため、米軍に事前通告の必要性もなければ、中国がアクションを起こす必要性もない。通常の防空識別圏の解釈であれば、そういうことになろう。

ところが中国式防空識別圏のルールでみれば、米軍機は義務を怠ったことになる。一部の中国ネットユーザーは「撃墜してしまえ」などの脊髄反射書き込みをネットに残しているが、それも中国式防空識別圏としては当然の話なのだ。

おそらくはこうしたネットの盛り上がりに対応して中国国防部は27日、B-52飛行に関する臨時の記者会見を開いた。そこで「米軍機飛行の全過程を監視し、すみやかに識別し機種も判明していた」と発表している。本来は防空識別圏に進入されようとも発表する必要はないのだが、通常の防空識別圏としてやるべき仕事はちゃんとやっていたというアピールだ。

ただし中国式防空識別圏としての義務は果たしていないように思われるのだが。大々的に発表したルールは中国軍の手足を縛るものとなり、「ちゃんと仕事をしているのか」とネットユーザーが突き上げる口実を与えてしまった。

23日のルール発表後、中国側は義務を意味する言葉を使用しなくなっている。代わりに多用されているのが「各関係者は積極的に協力し、ともに飛行の安全を守って欲しい」という言葉。中国式防空識別圏から通常の防空識別圏へと軌道修正を図っているようにも読める。

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 コメント一覧 (15)

    • 1. 馬馬虎虎
    • 2013年11月29日 01:42
    • 日本の政治学者は口をそろえて「中国の外交戦術はしたたか」と唱えるから、映像付けて大学教授のコメントを垂れ流すしかない日本のテレビを見ている現代日本人の認識もそのようになっていますが、今回の件もそうですが、実は全然違うのではないかと思う次第です。

      つか、自分もそうですが、中国人と一緒に仕事をしている日本人ビジネスマンは、こういう"中国外交したたか論"みたいなのにはみんな首をかしげていると思うんですよね。

      課題事項を用心深く調べ、情報を集めて、緻密に論理を積み重ねて計画を立てて実行する、なんて中国人には仕事上1人も出会ったことがないですが、それが国防関係になるとバリバリに緻密で組織的なインテリジェンスを行えるとは考えにくい。

      もしかすると今回のことだって、今日の国防部が出した「日本は44年前に防空識別圏を設定した、我々に撤回しろというのならば44年後だ」みたいなコメントを見ると、米軍が今回これだけ強硬な姿勢を示している理由の歴史的背景を未だに分かっていないのかも。
    • 2. 奇奇怪怪
    • 2013年11月29日 06:54
    • 防空識別圏。おかしな事に、中国側のルールだと
      不明機が圏内に入ると、たとえ中国人が乗っていても
      撃墜される可能性がある。多くの国の航空機が行きかう
      航路でこのようなルールを設定した場合、
      うっかり、自分が乗った民間航空機が該当空域に入り
      撃墜される可能性がある事を覚悟しなければならない。
      あまりに愚かだ。
    • 3. いしゐのぞむ
    • 2013年11月29日 12:45
    • 色々お書きですが、事の異常性は「中國武裝力量は……對應をとる」の一語にあります。そこを強調しないと、遺憾ながら高口さんの文章に意義を見いだせません。東チャイナ海上の公海域は、チャイナが武力行使宣言をした海になったのです。危險ですから、一切の民間航空機はこの空域に這入らぬやう、日本政府が緊急警告を發すべき。これにつき一文を草したので、明後日の八重山日報に出ます。
    • 4. あ
    • 2013年11月29日 19:22
    • 中国の翻訳ブログでは「日本のメディアは防空識別圏とは何か、何もわかっていない」
      と馬鹿にするコメントをよく見かけたけど
      分かっていないのは中国政府だったというオチだったんですね
    • 5. ふるふる
    • 2013年11月29日 20:49

    • 中国国防部も外交部も、領空と防空識別圏との違いがわからないんです

      もともと農民叛乱軍から出発した人民解放軍は、近代海軍も近代空軍もなかったから、国際法、万国公法を知らないし、知ろうともしない。
      強い国には、だまされるんじゃないか、侵略されるんじゃないか、ひねこびた被害者意識しかない。ぎゃくに弱い国には、すぐに居丈高、横柄になる。これが問題の根本です。

      日本もアメリカも偶発戦争にならないよう、国際常識をよくよく教えなくてはならない 頭が痛い


    • 6.  
    • 2013年11月29日 21:00
    • >>6
      アメリカは偶発なんて恐れてないと思うよ。
      だからこそB-52なんかを飛ばしたんだし。

      しっかし、各所で活動してる工作員()が痛々しくてしょうがないね。
      いくらもらってるんだろうね、あれ。

      >>5
      全てにおいて中国は自分たちのほうが世界と比べておかしいということを絶対認めないしね。
      著作権関連もやりたいほうだいだし。
      さっさと共産党が潰れて、まともな国になってくれるといいんだけどね。
      まあ全てにおいて「中国人根性」とでもいえるべきものが関連してるから、それもあんま期待できないけど。
    • 7. ヒマンジ
    • 2013年11月30日 01:06
    • 尖閣がシナ領という立場なら、明確な領空侵犯となるんだけどね。シナ人の発言には何の重みも無いという認識が広まるだけだね。融通無碍ではなくて、単なるチャランポラン。
    • 8. 通りすがり
    • 2013年11月30日 04:14
    • そうなんだ!

      防空識別圏て「この中に入ったら撃墜する!」って言うから、自国の領空をはっきりマーキングした縄張りだと思ってた。
      日本の防空識別圏との重複は紛争、もしくは戦争の元となるり、日本の識別圏に重ねてきた中国はあからさまな侵略意思表示かと思ってた。
    • 9. s
    • 2013年11月30日 09:55
    • ってことは、自衛隊機が尖閣の領空を通過したら撃墜するけど、尖閣周辺の防空識別圏を通過するだけなら監視するにとどまるってことなのかな?
      この前の自衛隊機や米軍は尖閣「領空」を通過したのかな?
      領空を避けて防空識別圏の通過だけにしたんだろうか?
    • 10. ya
    • 2013年11月30日 21:05
    • 28日にラジオ番組で取り上げられていました。

      なんでこんな普通と違うのを出してきたのか、
      日本政府の分析では
      ・知っててわざと新しいルールを作ろうとした
      ・真似してみたものの、よくわかってなくて
       出してみたら非難が激しくてびっくりしちゃって焦ってる
      と2通りの見方があり、
      後者が政府内では圧倒的、だそうです…
      中国軍はまだ国際ルールに疎いと。

      そしてこの通りに運用していけるのか、については
      政府ではどうもそこまでの力はないだろうとみている、とのことでした。

      中国側はだんだんトーンダウンしてるようなので、
      日本政府の分析はだいたい合ってそうですね…

      ながら聞きだったので内容に自信がなかったのですが、
      ネットで聞けるようになっていたのを今日知りました。
      お時間があるかたはそちらで確認してください。
      (「荒川強啓デイ・キャッチ」のサイト内、
      「ニュースクリップ」の11月28日木曜日です。
       来週の水曜までは聞けそうです)
    • 11. Chinanews
    • 2013年12月01日 00:14
    • >Sさん
      発表では米軍機は確実に通過していません。自衛隊機も発表はないですが、「尖閣諸島を起点とした領空」には入っていないでしょう。それをやると防空識別圏とは無関係で大問題となりますし、日本側は「緊張を高めた」と非難されるようなことはやらないでしょう。
    • 12. Chinanews
    • 2013年12月01日 00:21
    • >Yaさん
      ありがとうございます。デイキャッチだと福島香織さんですね。聞いてみます。

      正直、中国側の意図はよく分からないですね。内部事情をリークしてくれる(ただし信用できるかどうかはわからない)香港など中国本土外の華字メディアなどは、領空でもないのに義務を課した(ついでに脅迫も)ルールの問題性をあまり理解していないようで、日本と同じなのに何が問題なのかという論調です。こういうことを考えると、私も福島さんと同じく後者に一票入れたくなってしまいますね。
    • 13. chongov
    • 2013年12月01日 01:32
    • 日米の対応や中国の反応から見れば、無慈悲な防空識別圏になった。
    • 14. ya
    • 2013年12月01日 20:12
    • あっ、すみません…
      昨日書き込ませていただいたのは福島さんご出演の日(火曜)ではなかったんです
      (福島さんも話題にされてますが)。
      木曜ゲストの毎日新聞の論説委員の方のお話でした。
    • 15. Chinanews
    • 2013年12月07日 15:21
    • >yaさん
      あらら、そうでしたか。
      中国は明らかに解釈を修正するという撤退を見せているので、ミスだったという可能性が高そうですが、最終的にどうだったのかはやっぱりなかなかわかりませんねぇ。

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