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【ブックレビュー】中国を“本当に”変える人々、体制内改革派の言葉を引き出す=吉岡桂子『問答有用』

2013年12月17日

■【ブックレビュー】中国を“本当に”変える人々、体制内改革派の言葉を引き出す=吉岡桂子『問答有用』■


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朝日新聞編集委員の吉岡桂子記者の新刊『問答有用――中国改革派19人に聞く』(岩波書店、2013年11月)がオススメ。タイトル通り、朝日新聞に掲載された改革派19人へのインタビューを加筆してまとめたものだ。私は押しつけがましい文章があまり好きではないのだが、吉岡さんはきわめて率直な問答で相手の言葉を引き出している点が魅力的だ。


■豪華な登場人物

またなんといっても本書の魅力は登場人物のラインナップだろう。

第Ⅰ部彷徨える中国、その行方
第1章「めざすべきは「国家資本主義」ではない」 呉敬璉 国務院発展研究センター研究員
▼重鎮が語る国家資本主義の限界
 
第2章「政治改革はむこう一〇年の大きな課題」 賀衛方 北京大学教授
▼人治の都で法治を叫ぶ

第3章「毛沢東を普通の人に戻そう」 茅于軾 天則経済研究所名誉理事長
▼毛沢東批判の経済学者
 
第4章「新世代の農民工は、我慢してきた親の世代とは違う」 常凱 中国人民大学労働関係研究所長
▼新世代「農民工」への視線

第5章「本当の心配は、「未富先老」のなかで成長を持続できるかだ」 蔡昉 中国社会科学院人口・労働経済研究所長
▼老いる中国という危機
 
第6章「社会の矛盾もたいへんな速度で積み上がった」 周其仁 北京大学国家発展研究院教授
▼超高成長が残したもの

第Ⅱ部岐路に立つ経済大国
第7章「金融危機が起きる可能性は次第に大きくなっている」 陳志武 エール大学教授
▼率直に発言する心強い隣人
 
第8章「都市と農村の二元構造が最大のリスクだ」 郭樹清  前中国証券監督管理委員会主席(現山東省長)
▼改革にマイナスになることとは
 
第9章「中国の課題は、成長率を安定的に落としていくこと」 秦暁 前招商局集団・招商銀行会長
▼「太子党」が語る金融改革

第10章「金融協力を通じて、信頼を深めることができる」 易綱 中国人民銀行副総裁
▼人民元と円との握手
 
第11章「市場の見えざる手より、政府の見える手が多すぎる」 呉暁霊 元中国人民銀行副総裁
▼若者の熱情不足を嘆く

第12章「世界中が我々のお金を求めている、と傲慢になってはならない」 高西慶 中国投資(CIC)社長
▼チャイナマネーの強さと脆さ
 
第13章「中国はまだ金融弱国、先進国のやり方を一気に持ち込めない」 夏斌 国務院参事
▼人民元改革はどう進むか

第Ⅲ部中国を変える力
第14章「大きなスローガンよりも、一歩ずつ前へ」 戴晴 作家・ジャーナリスト
▼「動乱記者」の前向きな活動
 
第15章「中国の環境意識は大きく変わりうる」 馬軍 環境NGO「公衆と環境研究センター」創設者・代表
▼環境NGOとジャーナリズムのあいだ

第16章「原発大躍進には断固として反対する」 何祚庥 中国化学院理論物理研究所研究員
▼「体制内」からの原発計画反対論

第17章「中国の民意は一つじゃない」 安替 フリージャーナリスト
▼注目のブロガーが考える「民意」とは

第18章「中国に英雄がいるとしたら、一人だけ。それはインターネットです」 郭玉閃 民間シンクタンク「伝知行社会経済研究所」
▼行動する若手知識人が語る「日本」
 
第19章「制限が多い中国だからこそ、私たちジャーナリストが果たす役割は大きい」 胡舒立 財新メディア集団主筆
▼「中国で最も危険な女」の存在感

以上の目次は東方書店サイトから参照し、肩書きを書き加えたもの。東方書店サイトではインタビューイの名前をクリックすると、その著書リストが表示され購入できるというアグレッシブな設定になっております。ちなみに岩波書店サイトは目次も載せず、つらつらと5行ほどの紹介が書かれているだけ。猛省を促したい。ただしPDFで冒頭9ページが試し読みできる。

閑話休題。中国の改革派というと、「反体制派か!」と早とちりされる方もいるかもしれないが、肩書きを見ていただければわかるとおり、半数以上が体制内に身を置く人々。中国共産党党員もやはり過半数を超えるという。体制内だけ見ても中国のことは分からないが、しかし今、中国を変えようとしている主な力はやはり体制内にある。その意味で大変貴重なインタビュー集だ。

彼ら体制内改革派のインタビューを読むと、その方向性が驚くほど一致していることに気がつくだろう。市場原理のより広範な導入、法治、都市と農村の制度的格差の是正、成熟成長への転換などが中国の課題となっていることはもはや共通認識と言ってもいい。

吉岡さんは次のように分析している。

19人のインタビューで気づいたことがある。15人が留学や研究、仕事を通じて外国で1年以上を過ごした経験を持っていた。そのうち、彼女(胡舒立)を含めて11人が米国だった。(…)多くのインタビュー相手に共通していた市場の力や民主主義への信頼は、米国で学んだ知識や価値観と無縁ではないはずだ。中国で改革を語る知識人たちをひき寄せてきた米国の強さと吸引力を改めて感じた。
『問答有用』、260ページ。 

納得である。ただ次のような疑問も浮かんでくるだろう。上述した中国の課題、あるいは「市場の力や民主主義への信頼」といった点で改革派は共通認識を築いているのに、なかなか改革が進まないのはなぜか、と。非改革派の人はなかなか前面に出てこないので難しいのだろうが、吉岡さんが彼らから率直な言葉を引き出すようなインタビューも見てみたい。


■「中国で最も危険な女」が語る体制内改革派の矜持

本書の最大の魅力は経済官僚、学者たちのインタビューにあると思うのだが、個人的には愛読誌、財新を率いる「中国で最も危険な女」胡舒立のインタビューにしびれた。

金鰤の愛読者にはもう見抜かれているかもしれないが、私は体制内に身を置きたびたび妥協を強いられながらも、漸進的な改善を目指して戦っている人が好きだ。それはメディアも例外ではない。胡さんの言葉はそうした立場で戦うジャーナリストの矜持を示している。

中国の記者はあなたにも、形勢が悪くなっていると不満をぶちまけるでしょう。言論の自由や調査報道は死んだ、と。でも、私は長い目でみれば、曲折を経ながらも前進していると思っています。選挙がなく制限が多い中国だからこそ、私たちジャーナリストが果たす役割は大きい。腐敗や公害にしても、ウェイボーなどで常にチェックし、発信しています。役人どうしも競争しているから批判を浴びると評価に影響すると意識しています。

――しかし限界を感じませんか。

外にいる人は困難ばかり強調する。中国で一夜にして西洋と完全に同じような言論の自由は手にできない。そんなことがわからないほど、私たちは幼稚じゃないわよ。中国に身を置く者として、管理と制御、圧力のなかでも常に機会を探している。取材しても最後のところでうまく発表できなければ、次の機会を探る。うらみつらみばかり言って、完全な条件が整わないと仕事をしないというのでは、何もできません。

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