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サッカー狂大富豪が作り上げたベトナム黄金世代、高まる期待とワンマンの弊害(いまじゅん)

2014年02月17日

■「ベトナム代表はオレのもの」…ベトナムサッカー期待の世代とその「所有権」について■

Jungle Football
Jungle Football / gnews pics


■ベトナムサッカーの黄金世代

2013年1月上旬、ベトナム・ホーチミン市でサッカーのNutifoodカップが開催されました。U-19日本代表も参加したこの大会ですが、現地で大変な盛り上がりとなりました。その理由は、地元期待の星、ベトナムサッカーの「黄金世代」と言われるベトナムのU-19代表の参加です。

U-19ベトナム代表は以前、オーストラリア相手に5-1で大勝するなど、これまでボロクソに言われてきたベトナム代表の中でも一味違う、「将来の期待の星」とされています。

ですが、このU-19代表をめぐる不思議な争いが注目を詰めています。それは「U-19は誰のものか」という問題。日本では聞かない代表チームの「所有権争い」が今後の成長に一つの波乱要因となっています。


■サッカー狂いの大富豪が黄金世代を作った

黄金世代を育てた最大の功労者と言われているのはベトナムサッカー連盟(VFF)……ではありません。ベトナムHoangAnhGiaLaiグループのDoanNguyenDuc会長なのです。彼は成功した実業家で、ベトナム有数の大金持ちです。2013年末の株式長者番付ではベトナムで第2位の約3.5億ドルという資産。株式以外の資産を合わせればいくら持っていることやら……。

その金持ちぶりもさることながら、サッカーへの入れ込みようも半端ありません。2007年、HoangAnhGiaLaiグループのお膝元であるGiaLai省Pleiku市に、HAGL-Arsenalサッカーアカデミーという施設を作りました。イギリスのアーセナルと提携して選手育成を続けています。

ベトナム中から将来性のある若手を集め、寄宿制学校に受け入れ、全ての時間をサッカーに費やせる環境を作っています。学費、生活費などもほとんど無料ということで応募者が殺到しているそうです。また選手選抜にいたってはベトナム人コーチを関与させず、外国人コーチなどの意見で選抜しているそうです。ベトナムで超ありがちなワイロやコネでの合格を避けるためですね。

サッカー狂いの大金持ちが資産をぶっ込んで作ったサッカースクール。その成果が出始めた新世代が現在注目の「U-19」なのです。メンバー22人中17人が同アカデミー出身という偏りっぷり。となれば、Duc氏が「U-19代表はサッカー連盟のものじゃない!オレのものだ」と思っても不思議ではないかもしれません。


■ベトナムサッカー連盟には「オレの選手」は貸せない

2013年12月、ミャンマーでSEAGamesが開催されました。東南アジアのオリンピックのようなスポーツ大会ですが、全世界、全アジアの大会では苦戦必死のベトナムでも、東南アジア限定の大会ならば「メダルが取れる」と盛り上がる大会です。

注目はやはりサッカー。U-23チームが出場したのですが、「Duc氏の(とメディアも呼ぶ)U-19メンバーが入るか」が話題になりました。当初、Duc氏の答えは「No!」

というにも彼はVFFの選手管理に全くの不信感を抱いており、選手を預けたくないということになったのです。最終的には選手を出すこと自体には同意したものの、選手の管理は完全にはVFFには任せないという方針でした。結果的にU-19メンバーがほとんど参加しないで戦ったベトナムは期待を大きく裏切り予選リーグで敗退。この結果でU-19世代への期待は更に高まり、Duc氏への注目度も高まりました。


■ワンマンボスの弊害

ベトナムのサッカーファンには、ある種の先見の明を見せて先行投資をし、今の黄金世代をここまでに育てたDuc氏の手腕に賛同する人が多いです。ただ「代表チームはオレのもの」というオレ様ぶりがどこまで許されるかについては賛否両論も。

先日のNutifoodカップでU-19ベトナム代表は3試合を戦いました。U-19トッテナムやU-19ローマには善戦したのですが、最終ローマ戦でソンラム・ゲアンのDF、VanKhanh選手がPKを許すファールを犯すミス。

これに怒ったDuc氏が「罰として」、これから実施する海外遠征・キャンプに帯同しないと決定したという一幕もありました。「若い選手に1回のミスで厳罰を下すとはヒドイ」「VanKhanhがアカデミー出身じゃないから差別したのでは?」と疑問が上がっています(以下の「U-19は誰のものか?」というベトナム紙記事参照)。


■それでもベトナム黄金世代に期待

その海外遠征ですが、ベトナムU-19代表はこれからヨーロッパで7週間、そしてワールドカップによるJリーグ中断期間には日本でも一ヶ月ほどキャンプを張るそうです。その費用の100億ドン(約5000万円)はすべてDuc氏が出すとのこと。相変わらずの太っ腹、「オレのもの」ぶりです。

この日本キャンプも、先日のNutifoodカップ中にDuc氏と日本代表監督の直談判で即決したのだとか。ベトナムサッカー連盟は蚊帳の外ですね。今後Vリーグの各クラブに所属するであろう黄金世代の選手たちをめぐり、Duc氏とVFFの対立が深まることは必死です。

とはいえ、日本代表には大敗したとはいえ、未来のベトナムサッカーを担うことは確実なU-19。将来が楽しみなサッカーを見せていました。日本に来た際にはJチームとの練習試合なども企画されるでしょうから、その時には皆さんも生で観戦されたらいかがでしょうか?

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*本記事はブログ「ハノイで考えたこと」の2014年2月8日付記事を、許可を得て転載したものです。

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