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バングラデシュ名物・停電が消える?民間資本開放とロシア製原発(田中)

2014年05月20日

バングラ名物、停電は過去の物?

バングラデシュの4月は一年の中で最も停電が多い季節である。この国は3月中頃から気温がぐんと上がる。特に今年の4月は54年ぶりの猛暑で、連日40度以上を記録した。


■停電が減りました

この猛暑の中、ダッカにおける停電は外国人の多い居留区で1日2~3時間程度だった。この数字はかなり健闘していたと言っていい。5、6年前はその倍は停電するのが当たり前だったのである。

停電が日常的に発生するバングラデシュでは、各マンションやオフィスビルにバックアップ用の発電機が設置してある。しかし、よっぽど贅沢なマンションやオフィスでない限り、エアコン電源までバックアップしてくれる発電機を備えているところはない。

さすがに気温40度の中での仕事となると、人間もまともな思考力をなくし、PCも熱暴走を始める。4月の日本の快適な気候からは想像もつかない環境に置かれているのだ。


■農業にも電気は不可欠

この時期の都市部の空調需要もさることながら、農村部における稲作の灌漑(かんがい)需要の最盛期にあたる事が、電力事情をさらに逼迫させている。

バングラデシュの乾季稲作(ボロ)は1月頃に田植えが始まり、5月頃に収穫する。稲作は年3回。それぞれ、アウス、アモン、ボロというふうにシーズンごとに呼び名がある。ボロ作は雨のない乾季に行うので灌漑が必要である。灌漑は通常井戸を堀り、電気モーターもしくはディーゼルエンジンでポンプを回すのが一般的である。ボロ稲作の生産コストの半分以上は灌漑コストだ。

ディーゼルエンジンに比べ、電気モーターによる灌漑のほうがコストが安くなるため、農家はどうしても電気が欲しいのだ。過去、あまりにも頻発する停電に怒った農民が地方の電気局の前にナタやカマで武装して押しかけるという一揆さながらな事件もよく起こっていた。

2009年に発足したアワミリーグ、ハシナ政権は重要課題の一つとして電力事情の改善をめざしていた。暑さにあえぐ日本人滞在者のことはどうでもいいとして(むしろ電気がないと見せかけたほうがより援助がもらえるかもしれない)、地方農村の電力不足はそのまま票につながる。またボロ稲作の生産量はバングラデシュ稲作全体の約60%を担う。かつて飢餓に苦しんだこのとのある国だけに、食料生産の安定は政府としても見過ごすことのできない課題なのである。


■過去5年で発電能力は倍増、さらなる増強計画も

2009年1月アワミ政権発足時のバングラデシュの発電能力は4942MWだった。これが、2014年4月時点で、10264MWと倍以上になっている。バングラデシュ電源開発局(Bangladesh Power Development Board)のウェブサイトでは日々の発電量が見られるようになっている。4月は最大7000MW以上の発電量をマークしていた。さらに政府は2021年までに20000MW以上へ発電能力を向上させる計画である。一方で、現在の無電化農村が50%程存在しているが、農村電化率を60%以上に引き上げる計画もある。

発電能力の向上を牽引しているのは、民間からの発電電力購入である。かつては国営会社の発電所の電力しか送電網に乗せることができなかったが、この規制をとりはらい、民間の市場を開放したのである。発電コストは国営会社の約5tk/kwh(7円/kwh)に対し、22tk/kwh(約28.6円/kwh)と四倍以上となる。しかし、この改革は着実に成果をあげた。現在、総発電能力の30%以上が民間からの電力供与である。

発電に使われる資源を見ると、65%が液化天然ガス(CNG)である。以下、重油19%、ディーゼル7%、石炭および水力2%、インドからの電力輸入5%となる。

CNGと石炭は国産資源でほぼまかなっている。しかし、今後のさらなる電力開発には資源の獲得が重要な課題になってくる。CNGおよび石炭はまだまだ国内で開発の余地はあるもののそれほど順調とは言えない。石油資源の輸入量の増加は国家財政を圧迫する。

20140520_写真_バングラデシュ_停電_


この国のこれからの電源開発には様々な国および機関がさまざまな思惑で絡んでいる。現在のバングラデシュは援助先としても投資先としても一定の見返りが期待できる優等国なのだ。


■ロシアによる原発開発

2012年末にバングラデシュはロシアと契約して1000MW級の原子力発電所を開発することを発表した。候補地としてあげられているのはイショルディー県界隈のガンジス川沿いである。実際の建設開始は2015年以降ということになっているが、今後実現に向けて様々な技術的、社会的課題を乗り越えていく必要があるだろう。

また、再生可能エネルギーの開発ももうひとつの課題である。小規模ソーラーパネル発電装置の設置を政府は推進していて、新しく事業所を起こす場合、事業所の規模に応じてソーラーパネルを設置しなければいけない。また、IDCOL(Infrastructure Development Company Limited)は世銀などから資金供与を受けて20W程度の個人向け小規模ソーラー発電システムの設置をファンディングしている。これまでに約300万世帯分の発電システムが無電化農村を中心に設置された。

一方、アジア開発銀行はバングラデシュに対し300MW分のメガソーラー発電所の建設支援を行うと発表したが、これはさまざまな技術的、政治的課題により、まだ建設が始まったという話は寡聞にして聞かない。

日本のバングラデシュにおける電力開発の貢献は大きなものがある。長年にわたり、JICAは電力の技術協力専門家を派遣してきたし、また2015年度に12億ドルの電力開発を含む重要課題への投資をすると先日発表された。

バングラデシュは2021年までに中所得国への仲間入りを果たすという目標を掲げ、目下、さまざま課題に取り組んでいるところである。一方で、自国内で十分な資源を持たないバングラデシュは発電能力を上げるということはエネルギー資源の輸入が避けられなくなる。その上昇し続ける発電コストにより国家財政を破綻させかねない。産業構造を転換して日本のような輸出立国体制を創り上げなくてはいけない。はたして、かつては「名物」と言われた停電を過去の物にできるのだろうか。

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■執筆者プロフィール:田中秀喜
1975年生まれ。メーカー勤務、青年海外協力隊、JICA専門家を経てバングラデシュでコンサル業を起業。チャイナプラスワンとして注目されながらも情報の少なさから敬遠されがちなバングラデシュの情報源となるべく奮闘中。

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