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中国の軍艦が尖閣に来た“だけ”では「領海侵犯」にはなりません、国際世論戦で必要となる国際法知識(高橋)

2014年06月10日

尖閣諸島での、中国巡視船による「領海侵犯」が繰り返し報じられている。ただ意外と理解されていないことだが、たんに日本の領海に入るだけでは「領海侵犯」は成立しないのである。


■中国の軍艦が領海に入っても、それだけでは「領海侵犯」にはならない

国連海洋法条約第17条は「無害通航権」を定めている。これは海上交通の便宜を図るために、領海上の主権を一部制限するものである。沿岸国の平和、秩序または安全を害しない限り、全ての船舶は他国の領海を通航することができる(第19条)。巡視船どころか軍艦であっても無害通航権を認めるというのが現行の国際法解釈の主流だ(1)。

PM89 たかとり
PM89 たかとり / naitokz

沿岸国の平和、秩序または安全を害すると認められる行為については具体的に12項目が列挙されている。武力による威嚇または武力の行使であって、沿岸国の主権、領土保全もしくは政治的独立に対するもの。またはその他の国際連合憲章に規定する国際法の諸原則に違反する方法によるもの。兵器を用いる訓練または演習。沿岸国の防衛または安全を害することとなるような情報の収集を目的とする行為。そして「通航に直接関係を有しないその他の活動」などが挙げられている。

では中国の巡視船はいったいどのような活動をしているのだろうか。基本的にはパトロールである。日本外務省はこれを「日本国領海内を徘徊・漂泊する事案」と称している。「徘徊・漂泊」と「通航」に違いはあるのか、ひょっとして無害通航権で認められる範囲内ではとの疑問が浮かぶ。ただし無害通航権を主張するには「継続的かつ迅速」な移動が求められるので、「徘徊」している場合は「領海侵犯」に該当すると解釈していいだろう。

ただし問題は中国巡視船が速やかに移動しているかのように見える場合だ。管見の限り、中国巡視船が領海に入った場合でも日本外務省が声明を出していないケースもあるようだ。これは「徘徊・漂泊」と判断出来ない動きをしていた場合ではないだろうか。


■中国は国際法に基づいた備え

「徘徊・漂泊」と「通航」の間で悩ましい判断を迫られている日本だが、中国側にはその心配はない。というのも中国は国内法である領海法第9条で、中国領海内を通航する外国船に対し中国政府は航行ルートなどに制限を加えることができると規定している。こうした制限は国連海洋法条約第21条に定められた国家の権利の一つである。

残念ながら、日本はまだこのような無害通航権に制限を加える法律を作っていない。そのため法律上も日本は一方的に領海を「侵犯」されるのみなのである。尖閣諸島の領海「侵犯」も日本の法の不備が招いたことと言えよう。


■国際法の無知は国際世論戦での失点につながる

日本では中国巡視船の「領海侵犯」が大々的に報じられているが、しかし上述のような国際法解釈についてはあまり知られていないのが現状だ。今、日本と中国は国際世論戦を戦っているわけだが、その前提となるのは国際法の知識だ。中国船が領海侵犯と騒ぎ立てたあげく、たんなる「無害通航権の範囲内」じゃないですかといさめられたら恥をかくのは日本である。

なお、領空に関しては「無害通航権」のような権利は存在しない。そこで航空機が他国の領空を飛行する場合は、その領域国に事前に許可を得なければならない(2)。そのため航空機が領空に連絡なく侵入してきた場合は、これは議論の余地なく「領空侵犯」と言える。

昨年、中国は東シナ海防空識別圏を設定した。日中関係をさらに悪化させ武力衝突の可能性を高めたという道義的責任もあるが、国際的にみてそれ以上に問題視されたのは防空識別圏内を飛行する航空機は中国の命令に従え、さもなくば武力行使もという条項だ。領空外を飛ぶ航空機に強制的な命令を出すというのは明らかな国際法違反。国際法を遵守しなかった中国が国際世論戦で失点した事例と言える。

(1)松井芳郎=佐分晴夫[ほか]『国際法』(第5版)有斐閣、2007年、137頁。
(2)前掲註(1)・159頁。

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■執筆者プロフィール:高橋孝治(たかはし・こうじ)
日本文化大学卒業。法政大学大学院・放送大学大学院修了。中国法の魅力に取り憑かれ、都内社労士事務所を退職し渡中。現在、中国政法大学 刑事司法学院 博士課程在学中。特定社会保険労務士有資格者、行政書士有資格者、法律諮詢師、民事執行師。※法律諮詢師(和訳は「法律コンサル士」)、民事執行師は中国政府認定の法律家(試験事務局いわく初の外国人合格とのこと)。『Whenever北京《城市漫歩》北京日文版増刊』にて「理論から見る中国ビジネス法」連載中。ブログ「中国労務事情」を運営。

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コメント一覧

    • 1. あらあら
    • 2014年06月11日 05:50
    • 条約19条2項をご参照。dに触れるので無害通行ではありませんよ。
    • 2. ふふふ
    • 2014年06月12日 16:48
    • 「日本文化大学卒業。法政大学大学院・放送大学大学院修了。」こりゃ興味深いですな。


    • 3. 新渡戸育三
    • 2014年06月27日 01:07
    • d]沿岸国の防衛または安全に影響を与える事を目的とする  宣伝行為。

        事が起きる前に野望を捨てることが世界の為です。


      こんなプロパガンダを書くから中国人は尊敬されない。
    • 4. あ~N・・左
    • 2014年06月27日 01:20
    • d)沿岸の防衛又は安全に影響を与えることを目的とする宣  伝行為。

        ///////////////////////////////////////////////////

        中国は狂った野望を直ちに捨て、世界の平和に貢献す  べき。

        この様な悪質なプロパガンダは返って尊敬できませ   ん。

                        在日中国人
    • 5. r
    • 2016年06月16日 11:31
    • 間違っています。尖閣においては中国は我が領土と主張しているので。軍艦が進行した場合、軍艦であっても無害通航権を認めるというのが現行の国際法解釈は当てはまらない。たんなる中国軍の侵略になるからだ。よって、撃沈されても文句は言えない。

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