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何がそんなに大事件なの?3分で分かる!はじめての周永康―中国(高口)

2014年08月04日

周永康失脚のニュースが日本メディアでも大々的に扱われました。

が、「なんでそんなに大事なニュースなの?」 「どんな悪いことしたの?」という問いにわかりやすく答えているメディアはそんなに多くはないんじゃないかな、と。というのもこの事件はまだまだ謎が多いからなのですが、本サイト・金鰤では蛮勇をふるって、「3分でわかる!はじめての周永康」という画期的記事にチャレンジしてみました。
 

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■なんか中国の周永康が捕まったってニュースになっていたけど誰?警察庁長官みたいな人なんだっけ?

周さんは元中国共産党中央政治局常務委員。中国13億人を支配する中国共産党。約8000万人の党員の頂点に君臨するのが中央政治局常務委員で、胡錦濤時代には9人、習近平体制になってからは7人のメンバーがいる。

中国の学者・胡鞍鋼は「集団大統領制」なんて呼んでいたんだけど、政治局常務委員はそれぞれが管轄する分野では絶大な権限を持っているし、重大な決定事項には全員一致で決定しなきゃいけない。目立つのは総書記だけど、政治局常務委員は中国共産党のトップの一人って言っていい存在なんだ。

周さんの担当は中央政法委員会書記。警察、司法を一手に掌握していたんだ。 政治局常務委員になる前には中国石油ガス総公司総経理、四川省委書記なんてお仕事もやっていて、司法利権、石油利権、地方利権と儲かるポイントをがっつり抑えていたんだ。

中国の政界はいっつもグログロとした政争を繰り広げているんだけど、それを表に出すのはご法度。建前上はみんな仲良くじゃなきゃダメなんだね。で、そのための仕組みとして「刑不上常委」(常務委員には刑罰は科さない)という不文律があったんだ。それをぶちこわしにしたからさあ大変。集団大統領のみなさんが「いつ俺のタマ取られるかわかんねー」とドキドキして大バトルに発展するかも……なんて心配もある。


■どれぐらい悪人なんだっけ?

銭ゲバ・色欲・残虐と悪魔超人みたいなやつ……ってことになってるよ。

不正蓄財は1兆5000億円。
無数の愛人を抱え百鶏王と呼ばれていた(中国のスラングでは「鶏」は男性器の意味)。
女子アナ大好き。複数の女子アナを愛人にしたほか、後妻も女子アナ。
女子アナと結婚するために前妻を殺害した疑惑も。
他にも多くの人を殺したとか。
警察・司法のトップとして刑務所や労働矯正処での拷問の責任もある。
マフィアの後ろ盾になって守ってやっていた。
クーデターを起こそうとしていた。
反日デモの首謀者。
南シナ海石油採掘プラットフォームの設置強硬は周永康一派の陰謀。
ポストが緑なのも周永康の仕業。

とかいろいろ言われているけど、どれがどこまで本当なのやら。

息子がパパの権力を生かして国有財産である油田を安く取得していたり、あるいはイラクで石油採掘している中国企業向けに高値で採掘機器を売りつけていたりしたことがわかっている。手下である四川省の悪徳ビジネスマン・劉強は殺人容疑で死刑判決を受けている。かつての部下たちも次々と汚職で捕まっている。

ただ周さんが直接かかわったかどうかについては公式発表はないし、最終的にどの罪で問われるかはまだよくわからないし、多分最後までわからない。将来、起訴されるはずだけど、たぶんその時の罪状は死刑判決が出ない程度、数億円の汚職ぐらいで調整されていると思うよ。


■でも他の高官より悪人だったから捕まったんだよね?

悪人だったから捕まったってわけじゃないんだ。中国の高官は多かれ少なかれ収賄しているし、そうじゃないと出世できる甲斐性はない。愛人は成功者のたしなみらしいしね。周さんは他の人より少しはあこぎだったかもしれないけど、本気で調査されたら中国の偉い人は全滅しちゃうよね。

じゃ、なにが槍玉にあげられるきっかけになったかっていう話なんだけど、多分それは周さんの子分だった薄熙来元重慶市委書記がらみの事件でのこと。たぶん重慶市警察による四川省成都市の米国領事館包囲を許可したとか、薄熙来のお財布だった企業家・徐明の身柄を奪い合って北京で警察と軍がにらみあいになったとかそういう話のはずだよ。

で、その後は周永康ぶっ潰すと覚悟を固めた習近平政権が着々と証拠集めを続けて、周さんの後ろ盾である江沢民も文句を言えないぐらいの悪事を暴いて、今回の発表になったって感じ。



■なるほどね。じゃあ習近平の汚職官僚叩きってこれからも続くの?

もう終わりだっていう人もいる。「汚職官僚叩きなんてしょせんは政争。周永康という最大の目標を潰したし、こんなこと続けると政権が安定しないからそろそろお開き」というロジックなんだ。

でもまだ続くという意見もある。ボクもそう思っているよ。こっちの意見の人は「汚職官僚叩きは政争などというちっぽけな話ではござらん。中国共産党の正統性を回復するための健気な戦いなのである」って考えている。

というのも、中国共産党は今、非常に危機感を抱いている。「なんで中国共産党が中国を支配しているの?独裁してていいの?」っていう問いの答えが正統性になる。昔は「抗日戦争で日本を倒し、中華民族の屈辱の歴史を終わらせた」っていうのが答えだったし、最近は「中国経済の成長を主導し数億人を貧困から救い出した」っていうのが答えだった。でも官僚の汚職、コネがないと出世できない社会、大学卒業しても仕事もねぇ、家も買えねぇ、公害マジヤバス……とか社会問題山積みのなか、新たな答えが必要になってきたわけ。

「こうなったら部分的に民主主義を導入するとかしかないんじゃね」と中国共産党によるゆるやかな体制転換を期待する人もいたんだけど、習近平がとった施策は斜め上、「みんなに愛される、古き良き共産党を取り戻す」っていう話だったんだ。

だから汚職官僚叩きだけじゃなくて、官僚のムダ遣い禁止令、お中元禁止、自己批判の会を開催、ネット言論検閲で中国共産党批判の声をネットから減らそうとかいろいろセットで頑張っている。

そもそも「古き良き共産党」なんて非実在政党なんじゃないの?という疑惑もあるんだけど、人間は忘れるもの。民草の心には「昔は貧しかったけど、でも幸せだった」的三丁目の夕日ムードがあるんだね。だから中国人に話を聞いてみると、「近平がんばってるよ、良い感じだよ」って評価する人も少なくなかったり。

まあ本当に汚職官僚を一掃したら「そして誰もいなくなった」になっちゃうので、実現不可能なチャレンジなんですけどね。でもここまで大々的にやっている以上、行き詰まるまで走り続けるんじゃないかなー、と。このクレイジーな試みがどういう結末を迎えるのか、興味津々なのです。

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