• お問い合わせ
  • RSSを購読
  • TwitterでFollow

台湾統一地方選挙から考える、中国の「アメとムチ」はなぜ効かなくなったのか?(高口)

2014年11月20日

2014年11月29日、台湾では統一地方選挙が実施される。第2期馬英九政権がちょうど折り返しを迎えた中でその評価が問われる選挙となりそうだ。

という真正面からの話は別にしてちょっと気になる話があったので紹介したい。ポイントは「中国のアメとムチは効かないのか?」、だ。



■野党が優勢っぽい、統一地方選挙について

一応は統一地方選挙について簡単な説明を。

直轄市の市長選、通常の市・県の首長選、直轄市市議会選挙、通常自治体の議会選挙が一気に行われる。

最大の注目は台北市長選挙、無所属の柯文哲氏が快進撃を続け、ライバルとなる国民党の連勝文氏に世論調査で10ポイントもの差をつけてリードしている。連勝文氏の父親は元国民党主席の連戦氏。総統選では2度にわたり陳水扁前総統に敗れ「連戦連敗」と揶揄された人物ではあるが、国民党の重鎮であることは事実。台北市長選挙でプリンス陳勝文氏が敗れるようなことがあれば、台湾政治の潮目が変わることにもなりかねない。

柯文哲氏については記事「台湾を揺るがす“政治素人”、「柯文哲現象」とはなにか?」で詳しく紹介している。


■脅し1:中韓FTAで台湾はオワコン、15Kになっちゃうぞ☆

最初に取り上げたい話は中韓FTAについて。台湾と関係ないやんかと思うかも知れないが、実は台湾では以前から大問題とされていた。星海社のサイト・ジセダイに寄稿した記事「玉突きゲームのアジア外交 日本は中国の「踏み絵外交」に屈しない」でもとりあげたが、韓国は台湾と輸出品目が似ており、中国市場を奪い合う存在。韓国だけ無関税で中国に輸出できたら台湾経済はオワコン、今春の学生運動では中台の自由貿易協定に相当するECFAに反対されたが中国と仲良くして韓国よりも先に協定を結ばなければダメなんや云々と騒がれていた。

というわけで中韓FTAの合意は台湾ではビッグニュースとなった。中でも注目のキーワードは「15K」。台湾ではもともと若者の低所得を嘆く言葉として「22K」という言葉が定着している。これは月給2万2000台湾ドル(約8万円、Kは1000の意)を指す。台湾教育部が2009年から2011年にかけ大学生の雇用支援策としてインターン補助金を実施したがその時の月給だ。インターンが終わっても初任給を2万2000ドルとする企業もあり、「えっ、私の給料安すぎ」の代名詞として使われるようになった。

「中韓FTAで先を越されたら22Kどころじゃなくなる、15Kになるぞ、さー大変だ」というわけだ。もちろん裏には「それもこれも中国本土との協定に反対したやつらがいるから。さあ心を改めて協定締結に協力しなさい」という脅しがこめられている。「中韓FTA一発で15Kになるはずないでしょ、無理あるロジックだよね」との反論も飛び出し、大きな注目を集めた。


■脅し2:私に台湾との離別を強要しないでくれ

もう一つは世界最大の電子機器OEMメーカー、鴻海集団を率いる郭台銘理事長のテレビでの発言。

台湾の問題点として「政治的ロジックで経済的テーマを考えていること」「強力な政府がないこと」「中台の信頼関係が後退していること」だと指摘。「もし私が外国人だったら台湾に投資しないだろう。たとえ私が台湾人だったとしても台湾での投資を縮小するだろう」と主張した。これが「私に台湾との離別を強要しないでくれ」とのタイトルで報じられ話題となった。

鴻海集団まるごと台湾から出て行くぞという脅しである。中国と仲良くして、その成長の果実の分け前を預からないと台湾はオワコンに……というわけだ。

以前から「民主主義じゃメシは食えない」など炎上発言を連発、中台接近による経済成長路線を主張している郭会長だけに、一部では「よっしゃよっしゃ、さっさと出てけ」とネタにされていた。


■「庶民に実感ある恩恵」を与えることの難しさ

さて問題はこうした脅しがどれだけ機能しているか、だ。2012年の総統選では国民党の馬英九が圧勝したが、それは「親中国路線を継続できない民進党じゃムリ」と脅しがきっちり機能したためだった。今春の学生運動やあるいは今回の統一地方選挙の動きをみると、脅しの効力が弱まっているのだろうか。

倉田徹「なぜ香港の若者は「中国嫌い」になったか――香港民主化運動に見る中国の弱点」は、香港では中国政府の「ビッグ・プレゼント」が通用しなくなったと指摘する。プレゼントをもらっても儲かるのは金持ちばかり、不動産価格の高騰を筆頭に庶民の暮らしは苦しくなるばかりじゃないのと見切られたという。台湾も同じ道を歩んでいるのだろうか?

これはそう簡単には答えの出ない問題だと思うのだが、一つだけ言えるのは中国が経済を外交ツールとして活用としても庶民の心をつかむのはなかなか困難だという点だ。今春の学生運動後、台湾メディアが興味深いリーク記事を載せていた。台湾の農作物を受け入れ台湾農民に恩恵を施してきたはずなのにいまいち支持されていない、これは中間業者が利益を搾取して下々の農民にまで中国様の恩恵が届いていないためではないか……と中国が台湾側に不信感を示したという話だった。

「中国帝国主義が資本家と結託して台湾の政治を壟断している」的な話ならばわかりやすいのだが、中国共産党だって本当は台湾市民一人一人の心をキャッチしたいのである、経済という「アメとムチ」が一人一人に届いて欲しいのである。

ただその手段はなかなか見つからない。中国の手法が悪いわけではない。アベノミクス批判を見てもわかるとおり、庶民に実感のある恩恵を与えることの難しさだろう。とはいえ、中国はインフラ投資など経済を軸とした外交を積極化している。とすれば、香港、台湾だけではなく、他の国々でも同様の問題は繰り返されることになるのではないか。

関連記事:
台湾の未来は13億中国人が決める?!中国高官の失言騒動を読み解く(高口)
日本統治の“植民地”的性格を強調、台湾高校歴史教科書綱要の「反日」的改定とその背景
【小ネタ】「なぜ台湾市民はサービス貿易協定に反対するのか?」ネット民の秀逸ジョーク
台湾・モンゴル関係の転機、中華民国蒙蔵委員会の撤廃と歴史四方山話
手抜き作画も完コピ?!台湾学生制作の実写版「スラムダンクOP」が微笑ましい


トップページへ

トラックバックURL

コメント欄を開く

ページのトップへ