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野党党首を襲撃、票の書き換え……選挙圧勝後に独裁化した与党―バングラデシュ(田中)

2015年05月07日

バングラデシュでは政治的な混乱が続いている。最大の火種は2014年1月の総選挙だ。不公正な選挙だとしてBNP(バングラデシュ民族主義党)など野党がボイコットした結果、与党アワミリーグが議席を占有し独裁化してしまったのだ。その後2014年は大きな政治混乱がなかったものの、2015年になってからふたたび政治闘争が始まってしまった。

総選挙後、野党グループは、オボロット(道路封鎖)や、ホルタル(ゼネスト)と呼ばれるバングラデシュ特有の抗議活動が展開。終わりの見えない抗争が続いていた。オボロットやホルタルが宣言されると、一般市民の経済活動にも多大な迷惑を被る。なぜなら、街中で火炎瓶などが往来の車に投げられたりすることからである。安倍首相の訪問で注目度が上がり、投資先として有望視されて来たところなのに、自分自身で冷や水を浴びせてしまった。

World Class Traffic Jam
World Class Traffic Jam / joiseyshowaa

こうした混乱は3月末の南北ダッカ市長選(ダッカでは北部、南部で別に市長が選ばれる)、チッタゴン市長選挙を契機としてやや収まった感があるが、同時に改めて独裁の弊害が浮き彫りとなった。与党が超法規的な権力を行使し野党支持者、メディアを弾圧し、不当な選挙で圧勝したのだ。政治的混乱を覚悟で抗議活動を起こすべきか、それとも独裁政権を甘受するべきか。バングラデシュの人々は苦渋の選択を迫られている。


■バングラデシュのカオスな選挙

バングラデシュの選挙では、立候補者はそれぞれのシンボルマークを決める。この国では非識字者が多かった頃から選挙を行ってきた歴史がある。そのため、読み書きができなくても候補者を特定できるような工夫として、シンボルマークが決められる。今回の選挙で使われたのは、時計、バス、大八車、鷹、望遠鏡、弁当箱、象、魚など。デザインも写真の切り抜き、インターネットからのコピーアンドペースト、手書きのヘタ絵(ちょっとかわいい)などさまざまである。全く統一感無し、脈絡なしのカオスそのものだ。

選挙ポスターの飾り方であるが、道路上に所狭しとポスターが飾られる。一般的には、街路樹や電信柱に麻縄をくくりつけ、ポスターをぶら下げる。その他にもシンボルマークの付いたハリボテが道路に置かれていたり、リキシャそのものがハリボテになっていたりしている。

選挙活動も日本では考えられないほど賑やかである。街中を候補者の名前とシンボルマークを連呼する選挙宣伝カーが走るのは当たり前で、テーマソングを作ってスピーカーから流していたりするところもある。それぞれの候補者の支持者はシンボルマークの入ったプラカードを首からさげて、デモ行進をしたりもする。


■暴力から票の書き換えまで、違法選挙で圧勝した与党

選挙は4月28日に行われ、結果は3つのポスト全てが与党アワミリーグ派の勝利となった。これに対して、選挙に悪質な妨害行為があったとして野党は選挙当日12時を過ぎてからボイコットを宣言、選挙は無効として抗議している。

そもそも、今回の選挙は下馬評では野党有利、少なくともどこか一つは野党BNPがとるだろうと噂されていた。そんな中、与党アワミリーグは権力を利用してでも選挙を有利に運ぼうと焦っていたと思われる。選挙活動中、野党党首のカレダ・ジアがダッカ中央部で選挙活動中に与党支持グループに襲われる事件があった。本人は怪我こそしていないものの、車の窓ガラスが割られたり、護衛にけが人が多数出たりした。しかし、この時も警察は積極的に与党グループの暴行を止めようとしていなかった。

これらの選挙妨害行為、不正行為の先陣を切っているのはほとんどが学生下部組織である。カレダ・ジアを襲った暴漢たちは新聞に顔写真付きで名前が晒されているのにもかかわらず、逮捕すらされない。バングラデシュの政治組織はヤクザそのものなので、むしろ彼らは「幹部候補の若頭」に出世したことだろう。

選挙当日も問題が多発した。通常は各政党の地域の代表者が投票所で監視する決まりだが、実際には与党支持者以外は追い出されていた。警察もそれを是認していた。つまり、いかようにも票の操作ができる状態にあったのである。

また、報道関係者にも問題が降りかかる。新聞記者などの報道関係者は各所で与党支持グループに殴る蹴る、カメラ、財布を奪うなどの集団的暴力行為を受けている。与党アワミリーグは不正行為を報道されたくない後ろめたさを感じたからか、暴力行為に走らざるを得なかったのだろう。

最後に私の雇っている家政婦が体験した話を紹介する。彼女は、今回BNPに投票すると言っていた。しかし、彼女は投票所でありえない行為を目にしたのである。投票した帰り道、近所のバアちゃんが投票所にいこうとしていたので付き添いでもう一度投票所に向かった。中に入ると、今しがた投票したその箱がアワミリーグの支持者によって持ち出されていたのだ。支持者たちは投票箱を持ち出した後、BNP票を抜いてアワミ票に書きなおしていただろう。選挙を適正に管理するために警察が各投票所には派遣されているが、見て見ぬふり。彼女も下手なトラブルに巻き込まれないように下を向いて帰ったのである。


■インド、中国の台頭で力を失った欧米の介入、迫られる苦渋の決断

途上国では海外からの選挙監視団が派遣されることが多い。今回の選挙でも、国連をはじめEUやアメリカ大使館は疑義を呈している。一方バングラデシュ政府側は「選挙は公正に行われた」の一点張りである。

野党側は選挙のやり直しを求めているが、バングラデシュ政府は野党の抗議も欧米の圧力も黙殺する構えだ。海外の切り札は援助資金の引き上げだが、経済のテークオフがはじまったバングラデシュでは、援助資金引き上げというカードにはかつてほどのインパクトはない。

またインドと中国の存在も大きい。アワミ政権は親インド政権であるし、中国の後ろ盾も得た。欧米がローンを引き上げても貸付元が中国に変わるだけだろう。欧米にまだカードが残されているとすれば、アパレル製品の輸入禁止措置だろうが、自国企業にも痛みの伴う措置となるだけに経済界との調整が必要になってくる。

ベンガル民族は元々判官贔屓なところがあり、民衆は今回、野党BNP支持を明確にした。それを与党は力でねじ伏せた格好だ。

もはや海外の圧力で再選挙はもたらされない。となると残る可能性は民衆が大規模な抗議運動を繰り広げることだけだ。もっとも民衆が野党を支持していたとしても抗議活動は苦渋の選択だ。

民主主義の勝利を目指して反政府運動を繰り広げ、経済的な混乱を受け入れるのか。それとも始まったばかりの安定成長を守るために強権政治を甘受するのか。果たして民衆はどちらを選択するのだろうか。

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■執筆者プロフィール:田中秀喜
1975年生まれ。メーカー勤務、青年海外協力隊、JICA専門家を経てバングラデシュでコンサル業を起業。チャイナプラスワンとして注目されながらも情報の少なさから敬遠されがちなバングラデシュの情報源となるべく奮闘中。

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