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漫画を描いていたら祖国に捨てられました……中国人「亡命」漫画家・辣椒とは(高口)

2015年09月11日

2015年9月2日、拙著『なぜ、習近平は激怒したのか 人気漫画家が亡命した理由』が発売されました。かつて「中国を変えるのでは?!」と期待を集めていた中国のネット世論。それがなぜわずか数年で見るも無惨に衰退したのかという問いを切り口として、習近平体制の性格と中国社会を読み解く一冊です。

同書でイラストを提供してくれたのが中国人風刺漫画家にしてネットオピニオンリーダーの辣椒。各章冒頭にはインタビューも掲載しています。この記事では彼について紹介したいと思います。


■辣椒の作品

まずは本に収録されたイラスト、漫画の一部をご紹介。

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*普通の国、楽園、そして悪の国、3つの国の軍隊について。普通の国は外敵に備えている。楽園になるともはや軍は必要なく、大砲は礼砲としてしか使われない。そして悪の国では……。大砲は国内の民衆に狙いをつけている。さて、中国はどれでしょう?

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*物質的には豊かになった中国人。でも頭の中は前近代のままなんじゃないの?。


20150828_写真_中国_

*帯に使われた、東アジア情勢に関する風刺漫画。ベッドから金正恩を追い出した習近平は札束を片手に韓国を誘っている。米国は引き留めようとするものの、韓国はもう乗り換える気まんまん。今年9月の閲兵式の風刺としてもぴったりですね。


■辣椒ってどんな人?

「はじめに」から辣椒の説明を引用します。


ラージャオは1973年生まれ。新疆ウイグル自治区に「下放」(文化大革命の時代に労働教育と称して知識青年を辺境部に送り込んだ政策)された両親から生まれた。過酷な辺境で子どもを育てるのは難しいと上海市の祖父母の元で育てられたが、大人になるまで戸籍は新疆ウイグル自治区のままだった。

そのため進学などの公共サービスも制限され、一時は道路脇にシートを広げ、靴下や下着を売る露天商として働いたこともあった。両親と離ればなれで暮らし経済的にも困窮した暮らしを送っていたラージャオだが、その苦しさを政府の問題と考えることもなく、政治にまったく興味を持たぬまま大人になった。

その彼の人生を大きく変えたのがネット論壇だった。最初はただただネットの有名人の議論を眺めるだけだったというが、次第に自らもかかわりたい、中国を変える力になりたいと考えるようになり、イラストの才能を生かして風刺漫画家として活動するようになった。第一章で詳述するが、ネット論壇において風刺漫画は強力な武器であり、人々を動員する現実的な力を持っていた。

活躍を続けたラージャオだが、次第に当局ににらまれるようになる。SNSのアカウントは60回以上も削除され、警察や国家安全保障局による事情聴取もたびたびだった。そして2014年8月、人民日報旗下のネット掲示板「強国論壇」に「漢奸(売国奴)」「媚日」と批判するコラムが掲載されたばかりか、その記事は10紙を超える官制メディアに転載されている。

中国において官制メディアは報道ではない。党の「喉と舌」(代弁者)との役割を与えられており、報道の体裁で当局の意向を示すものである。例えば、日本を激しく批判する社説は政府が反日活動に支持を与えたというサインであり、また習近平総書記と安倍晋三首相の首脳会談写真は関係雪解けを許すシグナルとなる。官制メディアによる一斉批判は、逮捕状が発行されてはいないものの、当局がラージャオ排除の意志を固めたものと言えるだろう。

またこのコラム掲載と同時に、ビジネスパートナーと共同経営していたネットショップも閉鎖された。「たんに私を批判するだけではなく、生活の糧を奪って抹殺しようとするもので、当局の本気度を感じた」とラージャオは話している。当時、日本に滞在していたラージャオは祖国に戻れば逮捕されると判断し、日本にとどまることを決めた。中国共産党が存在するかぎり帰国はしないという。実質的には亡命だ。


ざっくり紹介するとこういう人なんですが、実は本書で紹介した以外にも面白いエピソードがまだまだあります。

例えば辣椒のお母さんが新疆に行くくだり。辣椒の祖母が団地のちょっと偉い人だったため、見せしめのために娘が「下放」されることになったのですが、本当はお姉さんが行く予定でした。ところがお姉さんには彼氏がいたため「別れたくない!」とプチ家出。困った祖母を助けるため、お母さんは自ら名乗り出て新疆行きを決めました。その後、どれだけの苦労が待っているのかも知らずに。

他にも「改革開放初期に自営業やってました。靴下売りの露天商。暑くて寒くて死にそうだった」「ひょんなことからコネが見つかり美術学校に入学」「中国経済が好調なのでフリーランスになってみたら、クライアントが支払いを引き延ばしまくって死にそうになったでござる」などなど政治以外のエピソードも豊富。詳しくは別の機会に披露したいと思いますが、普通の中国人以上に豊富な人生経験が、辣椒の社会風刺の目を養っていると感じます。

現在は日本で風刺漫画家として活躍中。『新潮45』で漫画「熊猫の撃退法」を連載しているほか、ニューズウィーク・ウェブ版でもイラストコラムの連載があります。また『Wedge』2015年9月号では特集「中国経済結局どうなる」のカバーイラストも担当したほか、今年初頭発売の勝谷正彦『バカが隣りに住んでいる』では表紙イラストを担当しています。

20150911_写真_中国_

なぜ、習近平は激怒したのか 人気漫画家が亡命した理由』では辣椒の代表作を中心に30点のイラストを収録しています。ご興味を持たれた方はぜひご覧下さい。



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