中国、新興国の「今」をお伝えする海外ニュース&コラム。
2015年09月11日
■辣椒の作品
まずは本に収録されたイラスト、漫画の一部をご紹介。
*普通の国、楽園、そして悪の国、3つの国の軍隊について。普通の国は外敵に備えている。楽園になるともはや軍は必要なく、大砲は礼砲としてしか使われない。そして悪の国では……。大砲は国内の民衆に狙いをつけている。さて、中国はどれでしょう?
*物質的には豊かになった中国人。でも頭の中は前近代のままなんじゃないの?。
*帯に使われた、東アジア情勢に関する風刺漫画。ベッドから金正恩を追い出した習近平は札束を片手に韓国を誘っている。米国は引き留めようとするものの、韓国はもう乗り換える気まんまん。今年9月の閲兵式の風刺としてもぴったりですね。
■辣椒ってどんな人?
「はじめに」から辣椒の説明を引用します。
ラージャオは1973年生まれ。新疆ウイグル自治区に「下放」(文化大革命の時代に労働教育と称して知識青年を辺境部に送り込んだ政策)された両親から生まれた。過酷な辺境で子どもを育てるのは難しいと上海市の祖父母の元で育てられたが、大人になるまで戸籍は新疆ウイグル自治区のままだった。
そのため進学などの公共サービスも制限され、一時は道路脇にシートを広げ、靴下や下着を売る露天商として働いたこともあった。両親と離ればなれで暮らし経済的にも困窮した暮らしを送っていたラージャオだが、その苦しさを政府の問題と考えることもなく、政治にまったく興味を持たぬまま大人になった。
その彼の人生を大きく変えたのがネット論壇だった。最初はただただネットの有名人の議論を眺めるだけだったというが、次第に自らもかかわりたい、中国を変える力になりたいと考えるようになり、イラストの才能を生かして風刺漫画家として活動するようになった。第一章で詳述するが、ネット論壇において風刺漫画は強力な武器であり、人々を動員する現実的な力を持っていた。
活躍を続けたラージャオだが、次第に当局ににらまれるようになる。SNSのアカウントは60回以上も削除され、警察や国家安全保障局による事情聴取もたびたびだった。そして2014年8月、人民日報旗下のネット掲示板「強国論壇」に「漢奸(売国奴)」「媚日」と批判するコラムが掲載されたばかりか、その記事は10紙を超える官制メディアに転載されている。
中国において官制メディアは報道ではない。党の「喉と舌」(代弁者)との役割を与えられており、報道の体裁で当局の意向を示すものである。例えば、日本を激しく批判する社説は政府が反日活動に支持を与えたというサインであり、また習近平総書記と安倍晋三首相の首脳会談写真は関係雪解けを許すシグナルとなる。官制メディアによる一斉批判は、逮捕状が発行されてはいないものの、当局がラージャオ排除の意志を固めたものと言えるだろう。
またこのコラム掲載と同時に、ビジネスパートナーと共同経営していたネットショップも閉鎖された。「たんに私を批判するだけではなく、生活の糧を奪って抹殺しようとするもので、当局の本気度を感じた」とラージャオは話している。当時、日本に滞在していたラージャオは祖国に戻れば逮捕されると判断し、日本にとどまることを決めた。中国共産党が存在するかぎり帰国はしないという。実質的には亡命だ。