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中国憲法は今年改正されるのか?改憲で“習近平皇帝化”に布石

2017年02月25日

2017年3月5日から、中国では全国人民代表大会(全人代)が開幕します。これまで中国の国家主席は在任中に必ずと言っていいほど憲法改正をしてきました。日本では憲法改正というと一大事ですが、中国では憲法改正は頻繁に行われてきました。

しかし、習近平はいまだ憲法改正をしていません。むしろ「習近平はなぜ憲法を変えないのか」が話題になるほどです。そろそろ中国憲法は改正されるのかについて考えてみたいと思います。

Tiananmen
Tiananmen / kafka4prez


中国憲法の歴史

中国共産党政権下の中国ではこれまでに4つの憲法がありました。それぞれ制定された年から「19」という言葉を省略して54年憲法、75年憲法、78年憲法、82年憲法と呼ばれています(註1)。また、中華人民共和国の成立宣言は1949年10月1日ですので、54年憲法が制定されるまでの5年間、臨時憲法の役割を果たした文書として「中国人民政治協商会議共同綱領」(1949年9月29日採択。以下「共同綱領」)がありました。このように中華人民共和国には、「4つの憲法、5つの憲法性文書」があると言われることもあります。

そしてこの5つの憲法性文書の特徴はそれぞれ以下のようになります。

・共同綱領……基本的な憲法としての条文は備えていますが、解放戦争終了後すぐということもあり、中国解放戦争や帝国主義、封建主義に対して勝利したことを讃える内容も含まれています。

・54年憲法
……起草作業には一貫して毛沢東が直接関与したとされ、1936年にソビエト連邦で制定された「スターリン憲法」を参考にして制定されました。中国解放戦争や帝国主義、封建主義に対して勝利したことを讃えている点は共同綱領と同様ですが、それに追加して「ソビエト連邦との同盟関係」を強調する内容が含まれています。

・75年憲法……文化大革命中に制定され、「文革憲法」とも呼ばれています。前文にも「団結」や「革命」、「勝利」といった言葉が並び、文革に法的正当性を与えるために作成されたと言われています。しかし、全30条しかなく全体として簡素であるため「荒唐無稽な歴史のゴミ」とまで酷評されています。

・78年憲法……文革終了後、新たな社会秩序を生み出すために制定された憲法です。しかし、78年憲法を起草したのは毛沢東を全肯定していた華国鋒でした。そのため前文には「文化大革命を経て社会主義革命および社会主義建設の偉大なる勝利を得た」と書かれ、文革を肯定していました。このため、鄧小平が実権を握ると78年憲法は事実上停止しました。

・82年憲法……鄧小平により78年憲法の全面改正をするために制定された憲法です。その基本的内容は、54年憲法への先祖帰りと言えます。


82年憲法以降ですが、全面改正こそされていないものの、4度の小改正がなされています。この点をまとめると以下のようになります。

・88年改正……私営経済を法の定める範囲内で認めました。

・93年改正……計画経済の文言を全て廃止し、変わって社会主義市場経済に関する規定を導入しました。

・99年改正……中国人民を指導する思想に鄧小平理論を明記しました。

・04年改正……中国人民を指導する思想に三つの代表論を明記しました。


ここまでの中国憲法史を見て分かるように、改革開放以降の中国の憲法改正は、基本的に党大会で決定された事項がおおよそ1~2年後に憲法改正の形で憲法に盛り込まれるという特徴を持っています。

例えば、社会主義市場経済は1992年の第14回党大会で決定されました。鄧小平理論は1997年の第15回党大会で明記されました。三つの代表論は2002年の第16回党大会の重要思想です。このように考えると、第17回党大会があった2007年、第18回党大会があった2012年から1~2年後に憲法改正が行われていないのは不思議といってもいいかもしれません。第17回党大会の指導思想である「科学的発展観」や第18回党大会の「小康社会」は憲法に盛り込まれないのでしょうか。


30年ぶりの全面改定もありうる? 最近の憲法に関する動き

これまでの歴史を踏まえれば、今年2017年に第19回党大会が行われるので、2018年か2019年に憲法改正があると考えるのが妥当です。一方で最近になって憲法改正を匂わせる動きがいくつかあり、年内にも憲法改正があっても不思議ではありません。

個人的には2014年には憲法改定があると予測していましたが、結局されませんでした。ここまで憲法改正がされない理由は何なのか。ここからは筆者の想像の域を出ませんが、1982年以来となる全面改正の準備が水面下で進められているのではないでしょうか。

今年1月に最高人民法院の院長が三権分立や司法の独立を否定したことが話題となりました。この発言は憲法全面改正の布石なのかもしれません。現在も三権分立や司法の独立は民主集中制という名の下に認められてはいません。しかし、「人民法院は全国人民代表大会に従属するものとする」など、さらに露骨な憲法改正案が用意されているのかもしれません。

ここまで読んでいただいた方は想像が多分に含まれていると不満に思う方もいるかもしれません。ただ中国の憲法改正はチャイナウォッチャー泣かせであることは理解していただきたく思います。中国にとって憲法改正は国家機密であり、事前情報が一切ないまま突然全人代の議題となるのです(註2)。事前に予測するためには「匂い」をかぎつけるしかないのが実情です。


憲法改正するとしたら、どうなるか

もし中国憲法が全面改正されるのならば、どのような憲法になるのでしょうか。以下、特に市民の権利に関する条項に関して、筆者なりの予想をしてみたいと思います。

・私有財産制の撤廃
中国では2004年憲法改正時に「公民の合法的な私有財産は侵犯されない」という条文を導入しました。いわゆる私有財産制を認める規定です。ところで、中国では、まず政策などで社会実験を行ってから憲法や法律を改正するという手法が用いられています(註3)。そして、2011年1月24日に全人代で「私有財産制を認めない」旨の講話が出されました(註4)。
つまり、私有財産制は中国では既に否定されているのです。とすれば、憲法の条文をそのような形に改めるというのは、当然あり得ることです。

なお、私有財産制の撤廃とは、形式的に個人が所有しているモノも「国家所有で市民に貸し出しているだけ」と捉えることで、国家が自由にそのモノを徴収できるということです。

・人権条項の廃止
中国では2004年の憲法改正時に「国家は人権を保障し尊重する」という条文が導入されました。しかし、中国での人権弾圧は続いています。中国では「人民」を「中国共産党の指導に従う者」と定義づけており(註5)、ここで言う「人権」とは「人民の権利」なのではないかと考えられます。つまり、「人権」という用語によって「共産党に逆らう者(人民でない者)に一切の権利を認めない」という理論を強調していると思われます。

ところで、中国では2009年に憲法を根拠に裁判を起こすことができない旨の規定が発布されました。なぜこのようなことになってしまったのか。その理由は明らかにされていません。しかし、「人権」を「西洋型の人権」と解釈した上で、「国家は人権を保障し尊重する」という条文を根拠に訴訟を起こされることを嫌がり、憲法自体を訴訟の根拠にできないようにしたとも考えることができます。そうすると、中国政府にとっては、やはり「国家は人権を保障し尊重する」という条文は邪魔であり、廃止しようとしているのではないかと考えることができます。

・習近平皇帝化への布石

また、習近平は国家主席を10年(2期)で退任しないのではないか、という話をする方がいます。この場合、ネックとなるのが憲法です。82年憲法第79条第3項には「国家主席および副主席は連続して2期を超えて任職してはならない」という条文があるためです(総書記については再選規定はないのですが。。。。)。このため、本当に習近平が2期を超えて国家主席でいるつもりなら、毛沢東に続く皇帝として君臨したいのならば、この条文も改正してくる可能性は十分にあります。

〈註〉
(1)焦洪昌(主編)『憲法学』(第3版)中国・北京大学出版社、2009年、166頁。
(2)髙見澤磨=鈴木賢『中国にとって法とは何か―統治の道具から市民の権利へ』岩波書店、2010年、112頁。
(3)高橋孝治「中国式「法治」とはなにか?社会主義法理論で読み解く」http://kinbricksnow.com/archives/51919134.html
(4) 「中国特色社会主義法律体系的形成具有重大的現実意義和深遠歴史意義」『人民日報』2011年3月11日付2面。
(5)西村成雄=国分良成『党と国家―政治体制の軌跡』岩波書店、2009年、108頁。

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■執筆者プロフィール:高橋孝治(たかはし・こうじ)
日本文化大学卒業・学士(法学)。法政大学大学院修了・会計修士(MBA)。都内社労士事務所に勤務するも、中国法の魅力に取り憑かれ勤務の傍ら、放送大学大学院修了・修士(学術)研究領域:中国法。後に退職・渡中し、中国政法大学 刑事司法学院 博士課程修了・法学博士。特定社労士有資格者、行政書士有資格者、法律諮詢師(和訳は「法律コンサル士」。初の外国人合格)。著書に『ビジネスマンのための中国労働法』(労働調査会、2015)。『時事速報(中華版)』に「高橋孝治の中国法教室」連載中。

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